騎士の誓い
「・・・勝者、ルナ!」
場は一瞬の静寂に包まれたがその場を切ったのは王の勝者宣言だった。戦いに参加しなかった騎士達は仲間達の勇姿を讃え拍手を送っている。
私は倒れているアリエスに手を差し伸べる。
「立てるかい?」
「はい、だいじょうぶです。」
アリエスは一人で立ち上がった。その顔は悔しさを孕んでグシャグシャになっている。泣き出しそうな顔だが必死に堪えられているのは単に他のもの達にこんな姿を見せるわけにはいかないというプライドだろう。
ひとしきり悔しがった後、アリエスは私に聞いてきた。
「あの、最後の一撃・・・いえ5連撃はどうやったんですか?」
「ああ、私の十八番でね。そんなに難しいことじゃない、ただ早く切った。ただそれだけだよ。」
その回答にアリエスは驚いた顔をしている。まぁ、無理もないだろう。剣を使うものならこの事がどれほど難しいことを言っているのかはすぐに理解するはずだ。しかしそれ以外言う事がないんだよなぁ・・・
「まぁ、君ならば答えに辿り着けることはきっと難しいことじゃない。鍛錬を続けているのならね。大丈夫君・・・いや、君たちは強かった。これは本当だ。だから誇ってくれ。」
「〜〜〜〜っはい!」
全く嬉しそうな顔をする。この子は本当に努力をしてきたのだろう。過去に行った鍛錬はきっと辛いものだったのだろう、女だからと舐められることもあっただろう。しかし彼女の剣にはしっかりと積み上げられたものがあった。指揮だって目を見張るものがあった。この子はきちんと努力でのし上がってきたのだ。この子だけじゃない他のものも作戦をしっかりと理解して相手に立ち向かう事ができていたし、もちろん剣や魔法も自分なりに磨き上げてきたのだろう。今だって悔しい気持ちを隠せていない者だっている。そのことを私は嬉しく思う。
「後輩達よ、頑張ってくれ。今の時代を生かすも殺すも君たち次第だ。私に憧れてくれたように、次代の子供達は君たちの背中を見て憧れていく。その模範となるように、そしてその背中がどうか情景で溢れる背中になるように進みなさい。」
ありがとう、私に憧れてくれて。私の過去は決していいものばかりでは無かった。しかし決して辛いものばかりでも無かった、仲間達との旅はとても楽しいものだったとも。泥だらけだったけどそこに憧れてくれた人がいたのなら私の残りもきっと素晴らしいものになる。だから君たちの人生も胸を張っていなさい。
私の言葉を黙って聞いているものも、涙を流すものもいる、きっと受け取り方は人それぞれだろう。けれどもその心に灯った火だけは決して濡れているものはいなかった。
「・・・コホン、とても有意義な戦いだった。感謝する。」
王はこの場を代表して私にお礼を告げる、全くお礼を言うのは私の方だ。こんなにも活気の溢れる後輩たちを見る事ができたのだから。
「・・・して選定はすんだか?」
「はい」
私は場を一望して見合ったものを見つけ歩いていく。私が今回見ていた条件はいくつか存在する。一つ剣術、魔法どれをとっても高い水準であること。これはほとんどのものが当てはまっていた。しかしこれから選ぶものはその中でも抜きん出て強かった。才にあぐらをかかず磨いてきた鋭さがあった。二つ指揮に従う、もしくは指揮を取れるものであるか。これから起こりうる戦いにおいて、ある程度こちらに従う事ができなければ魔王討伐なんて夢のまた夢。また、私がいなくとも指揮が取れる人間が良かった。いついかなる時私がパーティーから逸れる可能性だってある。その時私の代わりに指揮を取れる人間が良かった。そのため
「君が良かった、アリエス・ブリトマート」
「・・・えっ、・・・私、ですか?」
「あぁ、剣術ではあの流れるよう連撃、魔法では周囲の力を使い少ないかつ、短時間で大規模な魔法を行使できる事。あれはとても素晴らしい事だ。さらには魔法の力を使い、さらに剣を加速させた。一朝一夕で身に付く代物じゃない。指揮能力のことにしてもそうだ。私が突っ込んでくることを理解しているからこそ、水魔法の周辺に騎士たちを待機させておいた。あそこで騎士に相手させなければ私はまっすぐ騎士たちの元にきてしまうからね。他にも色々あるがまぁ私の中での条件に合致していたのが君だった。まぁ他にもあるけれどもね」
あの日、シュガールに立ち向かった瞬間を私は見ていた。あの村は言ってしまえば自分にとって無関係な村、見捨てたところで村は壊滅し人々は殺される。生き残った人がいて王国に文句を言っても取り扱ってくれないだろう。そのため自分を責めるものはいなかったはずだ。意識していたかどうかはわからないけど、おそらく理解はしていたはずだ。しかし、アリエスは立ち向かった、自分には決して叶う相手じゃないと知りながらも剣を握った、私はそれだけで心を動かされた。そんな後輩を助けてやりたいと思った。だから他の騎士たちよ、すまない。君たちを焚き付けてしまったけれども、初めから私の心は決まっていた。
「ええっ・・・うそぉ」
目の前では涙を浮かべている女性がいる。先ほどまでの凛々しい姿とは想像できない、少女みたいな顔でポロポロと泣いている。他の団員たちはその団長を慰めてはいない。皆称えていた。きっと一番近くで見ていたからこそ彼女が選ばれることを喜んでいるのだ。彼女の背中を叩きながら、笑いながらその顔は皆晴れやかな表情を浮かべていた。
数分が経ち、ある程度落ち着きが取り度された時、やっとアリエスが私の前に剣を掲げ敬礼を行う。他の騎士たちもそれに倣い剣を前に掲げ敬礼を行なっている。
「はぁーーーーふぅ。よし!せっかくなので改めて!私は聖スラテス王国騎士団の第6期団団長を勤めています。アリエス・ブリトマートと申します。不詳の身ではありますが、魔王を討伐するため私の剣存分にお使いください!」
「では、私も改めて私も聖スラテス王国元第四期団長を勤めていたルナ・ヴァリエーレ。巷では月光の騎士と呼ばれている。復活した魔王を討伐するため、共に力を合わせよう。」
「よろしく、お願いします!」
その光景はかつての先達たちも行なっていた歴代からの誓いの敬礼。主に王への礼節を行う時に使う事が多いこの敬礼は意味は色々ある。忠誠を誓うとか、敵意を持っていないとか、まぁその時によってまちまちだ。
しかし騎士同士の場合は少し違ってくる。この時に交わされる誓いはーーーー
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公開情報
悠久凍土
氷魔法。周囲を凍らせ、吹雪を吹かせる事ができる魔法。術者の力量次第では微量の吹雪だったり、猛吹雪を吹かせられる。また、凍らせた個所からは他の氷魔法を発現する事が可能であり、氷魔法を使うものにとってこの魔法は切っても切り離せない魔法。魔力の消費が激しいため、作中でアリエスが行ったように水魔法での下地作りが重要となる。持続時間はその人次第だが下地がない状態で使うと大体5分が限界。下地ありだと30分ほどは可能。
アリエス 「まぁ、私は1時間近く持つんですけどね!」
ルナ 「すごいねぇ、いっぱい努力したんだねぇ」
アリエス 「はい!褒めてください!」
ルナ 「よしよし」
アリエス 「えへへぇ」