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6〜2人きりの保健室〜

 昼休憩をはさみ午後も競技が始まり皆が汗をかいて頑張っている中、俺は一人寂しくずっと席に座って応援していた。



「……暇だ」



 動かな過ぎて眠くなってきた。



 うとうとしていると頬をぷにっと触られ意識が覚醒する。



「もうすぐリレー始まるよ」


「んぁ、やっとか」


「そんな呑気に寝てたけど大丈夫?体起きてる?なんならビンタして起こしてあげようか?」


「なんでそんなに叩きたがるの雪田さんは。もしかしてそういう趣味が……?」


「ないわ!ないからね?!勘違いしないでよね!」


「そのツンデレ否定はほぼ認めた様な物では?」


「わざとに決まってるでしょ」



 バシッと俺の頭を軽く叩いた後、リレーの並びに向かって行った。



 ……叩く頻度的にやっぱSっ気あるのでは?




 リレーの練習で俺が予想より速かったからか、順番変更されアンカーの一個前になった。因みにアンカーは陸上部。



 リレーの順番列に並び、アナウンスと共に入場する。そしてみんなの準備が整った。周りのテントで応援している人達誰もが喋らず固唾を呑む。


 静寂に包まれる中、緊張の空気が走る。



『位置について』とういアナウンスの後に笛が鳴り、一斉にスタートする。


 それと同時に静まり返っていたのが嘘のように声援が響き渡る。物凄い熱量だ。自分の順番を待つ人達も立って見たいのを我慢して中腰でクラスの走者の応援をする。



 皆一生懸命に走っていてその姿がかっこいい。躓いてコケたりしていても諦めずに直ぐに立ち上がっている姿が眩しい。



 次々とバトンが渡っていき、雪田さんも走り終わる。一人追い越して3位になっていた。十分すぎる活躍ぶりだろう。



 やっぱり雪田さん足早いなぁ。俺も負けてられないな。



 自分の番が近付いてきて心臓がバクバクと速まる。緊張でお腹が痛くなってきた。


 これは本番で、俺は練習の時よりも重要な順番になっている。高まる心臓を必死に抑えるべく深呼吸をする。



 走り終わった雪田さんがガッツポーズをして口パクで「頑張れ」と応援してくれる。俺はそれに手を振り答え、改めて深呼吸をして空を仰ぐ。



 よし、行くぞ。



 前の走者が近付いてきて俺はゆっくりと走り出す。



「はいっ!!」



 と言われた瞬間に後ろに伸ばしていた右手にバトンがぶつかる感覚がして落とさないようにしっかりと握る。


 瞬時に左手に持ち替え、全力で走る。



 コーナーで倒れるか倒れないかギリギリの体重移動をしてインコースを狙う。2位は目前。



 インコースをついたことで直ぐに追い越し、1位の背中に迫る。残りの距離も少ない。



 クッソ、追い越したい!



 俺は歯を食いしばり、腕を振り足の回転速度を上げる。風で呼吸が出来ないが関係ない。息を止め、必要なところに力を込める。


 ぐんぐんと距離を縮め、あと少しで追い抜けそうになる。


 周りの声援がより一層盛り上がり、それに応えるように俺は遂に追い抜いた。あとはアンカーにバトンを託すだけ。



「っ!」


 残り数メートルになったところで、足がもつれて次の足が地面に間に合わず体が前方に傾く。



 俺は必死にバトンの持った手を前に出し、バトンを渡す事が出来た。



 次の瞬間顔面から地面に倒れ込む。体に衝撃が走るが呼吸していなかったので声が出なかった。



 痛みに我慢しながらも後ろから来る人達の邪魔にならないように俺は転がってコースからはける。



「はぁはぁはぁ……」



 倒れ込んで空を見上げながら呼吸を整えていると視界に雪田さんの顔がでかでかと映り込んできた。



「だ、大丈夫?」



 髪を耳にかけながら覗き込んで心配そうな表情を浮かべる雪田さんに俺はサムズアップして苦笑する。



「立てる?」



 そんな俺に呆れた笑顔を浮かべながら手を差し伸べてくれた。その手を取り、俺は体を起き上がらせてゆっくりと立ち上がりアンカーを見る。



 すると丁度ゴールしたようだった。



 周りの熱は最高潮に達して物凄く盛り上がっていた。



「中川くんのお陰で1位じゃん」


「チームゲーな?」


「折角褒めてんだから素直に喜べないの?!」


「雪田さんも活躍してたじゃん、凄かったよ」


「あ、ありがとう……ってかいつまで手握ってんの!」


「ぃっ」



 バシッと軽くパンチされたがいつもより痛く思わず声が漏れてしまった。



「あっごめん大丈夫?」


「大丈夫大丈夫」



 本気で心配させてしまったので俺は慌てて何ともないように振る舞う。実際しばらくしたら痛みは引いてきたし。


「ねぇ?膝からすんごい血出てるんですけど……?本当に大丈夫?」


「え?」



 言われて初めて自分の膝を見ると血が垂れて脛まで流れていた。



「おっふ」



 その傷を認識した瞬間に膝がヒリヒリと痛み始めた。


 結構痛い。


 次の競技が始まるので退場し、俺は保健室に向かおうとしたら雪田さんがまだ近くいた。



「ほら、保健室行くよ」


「一人で大丈夫だって」


「いいから行くよ!」



 腕を掴まれグイグイと引っ張られて水道の所まで連れてこられた。



「洗って」


「そうだよねぇ……」



 傷口には砂が付いているので洗い流す必要があるのは分かっていた。でもこれ結構深く行ってるからかなり滲みるだろうなぁ。




「ひぁぁぁぁ痛いぃぃ」



 水を流し膝の砂を洗い落とすが滅茶苦茶滲みて痛い。



「あははは」


「なにわろとんねん、こちとらクッソ痛いんだが?」



 こっちは痛いのに笑われて少しイラっとする。



 痛みに必死に耐えながら洗い終わると拭くものを忘れていたことに気付いた。



「はい、これ使って」


「え、いいの?」


「いいよ」


「ありがとう」



 差し出されたハンカチを受け取って軽く水を拭き取る。



「これ洗って返すよ」


「えぇ、いいよ別に」


「えぇ、やだよ洗って返すから」


「やだってなんだよ!私のだぞ!てか、早く保健室行くよ!」



 保健室に入ると誰もいなかった。


「あ、先生外だった」


「忘れてたね」 



 二人して保健室の先生も外にいる事を忘れていた。鍵はかかっていなかったので入れた。



 取り敢えず自分で消毒してガーゼを貼ったりして治療する。


 その間雪田さんはベッドの上でくつろいでいた。



「ほら、行くぞ」


「動きたくなーい」


「隣に寝てやろうか?」


「やだ」



 それでも雪田さんはまだベッドの上を転がり毛布に顔を埋めて「うぅ~」と呻く。(うめ)



 なにこの可愛い生き物……。



 俺がベッドの縁に座ると雪田さんはバッと急に起き上がり距離を取ってきた。



「別に襲わないが?」


「そ、そういうんじゃなくて汗かいてたから臭ったら嫌だし」


「どんな匂いでも大歓迎だけど?」


「そうだった、こいつ変態だった……」



 そうです変態なんです。だから可愛い人とかの汗の匂いとか寧ろ萌え要素でしかない。



「てか、普通にめっちゃいい匂いするけどね」


「え、そう?ありがと」



 するとスンスンと鼻を犬の様に動かして俺の匂いを嗅いできた。



「え、やめてよ変態!」


「いいでしょ別に!」


「えぇ……」



 なんか逆切れされたし暫くずっと嗅がれた。



 誰もいない保健室。外の騒音と隔絶されて別世界に男女二人きり。何も起きないはずもなくもなく……。



 普通にテントに戻った。



 ベッドでゴロゴロしてた雪田さんは猫の様で可愛かった。家ではあんな感じなんだろうか。それにしても男の俺の前なのにあんなガードが緩すぎるとちょっと怖い。他の人だったら絶対襲われてたと思うぞ。


 可愛いんだからもっと危機感を持ってもらいたいものだ。



 〇side雪田〇



 中川くんがリレーで怪我して付き添いで保健室に行ったときの事。



 私がベッドでゴロゴロしていると処置が終わったのか中川くんが座ってきた。私はハッとして急いで中川くんから距離を取る。



「別に襲わないが?」


「そ、そういうんじゃなくて汗かいてたから臭ったら嫌だし」


「どんな匂いでも大歓迎だけど?」


「そうだった、こいつ変態だった……」



 それでもやっぱり臭かったら嫌だ。



「てか、普通にめっちゃいい匂いするけどね」


「え、そう?ありがと」



 汗かいたのにいい匂いって言われて少し嬉しい。でもそれが他の人にとっていい匂いなのか、お礼を言ってから疑問に思ってしまった。


 中川くんはかなりの変態だから汗臭くてもそれがいいみたいに思いそう……。



 お返しとばかりに中川くんの匂いを嗅いでみる事に。



 お世辞にもいい匂いとは言えなかったが、汗をかいているんだからしょうがない。でもこの匂い……好きかも……。



 少しツンと汗の匂いを含んでいて洗剤の匂いと混ざって……もっと嗅ぎたい。



「やめてよ変態!」


「いいでしょ別に!」


「えぇ……」



 お前の方が変態だろ!って言おうとして言葉に詰まった。


 汗の匂いが好きでもっと嗅いでたいって私も大分変態かもしれないと思ってしまったからだ。



 その後、中川くんは特に何も言ってこなかったので暫く匂いを嗅いでしまった。



 もしかして私、中川くんと関わる事でちょっとずつ変態になってきてる……?




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