5〜借り人競走のお題は〇〇!?〜
体育祭当日、今日は授業はないので比較的楽ではあるがずっと外にいるのは中々に疲れそうだなと思いながら学校に着くと雪田さんが挨拶してくれた。
俺はそれだけで少し元気になった。我ながらチョロい。
開会式が終わり次々と種目が始まっていく。100メートル走は惜しくも二位だった。
「惜しかったね中川くん」
「そうだね」
「あんまり悔しそうじゃないね?」
「まぁだって一位の人運動部だし」
「私も一緒に走った人に運動部いっぱいいたけど一位だよ?」
どうだ凄いだろと言わんばかりにドヤ顔をして胸を張る。
「わー凄いねおめでとう」
「全く、君は素直に祝福出来ないのかね」
「出来ないです」
「これだから子供は」
やれやれと大げさに手を上げ頭を振って明らかに調子に乗っている雪田さんに少しイラっとしたので悪戯することに。
「っひゃぁ?!」
脇腹に手を当ててくすぐると可愛らしい悲鳴を上げる。
「ちょっと何すんの!」
「…………」
「え、自分の手そんなに見つめてどうしたの?」
「こんなに柔らかいとは……感動……」
「だからキモいんですけど!!」
想像よりも柔らかい脇腹に感動して空を仰ぐと腹を殴られた。
「ふ、太ったかな……」
ボソッと呟いた声を俺はどこぞの難聴主人公とは違い聞き取る事に成功。全然見た目ではそんな感じしないけど、絶対俺の柔らかい発言が原因である。
「全然太ってても可愛いと思うよ。寧ろもうちょっと肉ついてても最高ですけどね」
「なんでそんな目で見るの」
励ましたつもりだったのに何故か気持ち悪い虫でも見るかの様な蔑んだ視線を向けられた。
ご褒美あざます。
次々と競技が終わっていき次は借り人競争になった。借り人競争とは借り物競争と似ていて、紙に書いてあるお題の人を借りてゴールまで走る競技だ。
例えば帽子を被っている人とか、赤いものを身に着けている人とかそういうお題が出ると思う。
これはからかうチャンスかな?
いいお題がくれば雪田さんを借りてからかってやろうと考えていると自分の番がやってきた。
『位置について』というアナウンスの後にスタートの合図の笛が鳴り響く。それと同時にコースを走り、お題が書いてある紙を取り内容を確認する。
お題は……『髪の短い人』だった。
えぇ、最悪だ。これでは雪田さんをからかえない。雪田さんは髪は滅茶苦茶長いって訳ではないのだが、かと言って短いとも言い難い。ショートカットではないからこれでは判定が怪しい。
なので俺は無難にクラスの男子を借りる事に。
本当は雪田さんに当てはまるお題だったらお題を内緒にして「好きな人かもね」とかそう言ってからかえたのに。残念だ。
頭の中ではそんなことを思いながら危なげなく一位でゴール。クラスの男子にお礼を告げてハイタッチする。
全然話したことない人だったけどこういうイベント事では皆テンションが変になっていて話しやすい。
イベントを通して友達ができやすいのも、恋人が増えるのもこう言う事なんだろう。
ぼんやりと皆の借り人競争を眺めていると雪田さんの番がやってきた。スタートし、お題を確認するとキョロキョロと探している。
中々見つからないのかずっと辺りを見渡している。そんなに難しいお題なのか取り敢えず人が多いこっちに向かってくる。
そんな中、明らかにバチっと雪田さんと目が合う。
たまたまかと思ったが、その後も目がずっと合っているので俺は人をかき分け前に出る。
「来て中川くん!」
手を伸ばし俺を呼ぶ声がしっかり耳に入った。
俺はその声に応えて手を伸ばす。
その伸びた手を雪田さんが掴み、人混みの中から引っ張り出してくれた。
雪田さんの手は柔らかく、俺よりも小さくて少し力を入れて握ってしまえば潰れてしまうのではないかと錯覚してしまう。
俺は初めて女の子の手を握っていることに感動しながら雪田さんのスピードに合わせながら走る。正確には初めてではないが、変態的思考をするようになってからは初めてで嬉しい。
手を引っ張られているのでスピードを合わせざるを得ないのだが、ちょっと恥ずかしい。周りからの嫉妬の視線が痛い。
「いいなぁ」「う、羨ましいぃいぃ!!」「くそぉぉぉ!!」
雪田さんは可愛くて性格も面白くて親しみやすいのでモテる。なので妬みの声も聞こえてくる。
周りを見るのが怖くて下を向いていたらいつの間にかゴールしていた。
「中川くん、急だったけどありがと!お陰で一位だよ!お揃い~」
「あぁ、うんおめでと」
「どうしたの?」
「いや周りからの視線が怖くて」
雪田さんはキョトンとした後満面の笑みで笑い始めた。
「あはは、中川くんもそんなこと気にするんだね、意外」
「俺を何だと思ってるんだよ」
「んー変態」
「間違いではないけど、俺も人間だからな。人並みには緊張するし怖いものは怖い」
「ふふ、そうなんだ~?」
いたずらっ子の様な表情をしてニヤニヤと顔を覗き込んでくるのが少しウザいけど可愛い。
「てかお題何だったの?」
「ん~?かっこいい人……だよ」
上目遣いで少し恥ずかしそうにしながら口元に手を当てる仕草が可愛すぎて破壊力がやばい。
かっこいい人……?俺がかっこいい訳ないのに何言ってんだろう。でも雪田さんは俺を選んだってことは雪田さんは俺の事をかっこいいと思ってるってこと……?
「嘘だよバーカ、何照れてんの」
「…………もう嫌い!」
俺が幼子の様にぷんぷんとすると優しく小さい子に接するような優しい声色で「ごめんね」と謝ってきたので許すことに。
「んで、お題なんだったん?」
「な・い・しょ」
口元に人差し指を当ててウィンクされ俺は心臓が破裂しそうになるが何とか堪える。
からかうつもりだったが、からかえず逆にからかわれる結果になった。
もうほとんど自分が出る競技は終わり、残すところ最後のリレーだけだ。リレーが始まるまではもうのんびりできそうだ。
椅子に座って頑張っている皆を眺める。
青い空、ギラギラと照り付ける太陽。そして応援や歓声に包まれる学校。たまに吹くそよ風が心地いい。
「何くつろいでんのよ」
「出番もうリレーだけだからいいでしょ」
目を瞑ってリラックスしていたら後ろから頭を軽く叩かれた。目を開けて反論するとジトッとした目で見下ろされる。
「あのさ、実は私と一緒に二人三脚で出るはずだった子が足怪我しちゃって……良かったら一緒に出ない?」
「え?」
突然そんなことを言われて俺は少し困惑する。だってリレーが始まるまでゆったりする気でいたから。
それに普通誘うなら俺じゃないだろ。
「他の友達に頼めばいいんじゃ……?」
雪田さんに限ってその発想に至らないはずはないと思うのだが、何か理由でもあるのだろうか。
「そ、そうだよね。ごめんね。それじゃ」
男の俺よりも女子の友達と組んだ方が絶対いいと思っての発言だったのだが雪田さんは少し残念そうな表情を浮かべた後、去ってしまった。
もしかして俺と組みたかったのか?と自信過剰にも程がある考えが一瞬頭によぎった。
が、やっぱり勘違いだろう。友達に声を掛けて笑顔で一緒にゴールしている姿を見たらそう思わざるを得ない。
またからかうつもりだったんだろうが、残念だったながはは。