38〜彼女の友達〜
〇side中川〇
本屋に新刊を買いに行って家に帰ろうとした時にスマホが鳴る。ポケットから取り出して通知を見ると珍しい人からのメッセージが届いていた。
数件来ているが最後に送られたのは何かの写真の様で開かないと分からないようになっていた。
普段来ない人、雪田さんの友達の橋本さんからのメッセージで画像写真付きと来たら気になって直ぐに開いてしまう。
橋本さんとメッセージでやり取りするのは、雪田さんへの気持ちは恋愛的な好きなのか推し的な好きなのかを相談した時以来だ。
そして俺は軽い気持ちで開いたことを少し後悔する事になる。
【今、さーちゃんと瑠奈ちと一緒にファミレスにいるんだけど来ない?】
そのメッセージの下には雪田さんがご飯を頬張りリスみたいになってて幸せそうな表情をした写真が送られてきていた。
あまりの唐突な可愛さに俺は思わず「可愛い過ぎるだろ……」と口を手で抑えながら呟いていた。
愛らしいこの純粋な笑顔を見て今すぐにでも骨が折れるくらいに抱きしめたい気持ちが湧いてくる。
この気持ちを外に出したいが公共の場なので必死に我慢する。本当は今すぐにでも悶え叫びたい。そのくらい好きが溢れてくる。
ぁぁまじで可愛い……好き。
暫く俺は目を瞑り天を仰ぎ深呼吸して心を落ち着かせる。
「ふぅ……」
落ち着いてきたところで返信の内容を考えるが、普通に考えて俺は行きたくない。
多分だけど、橋本さんと山川さんは俺と雪田さんが付き合った事をもう知っているんだろう。
そんな中、行ったら絶対にからかわれたり質問攻めに合うに決まってる。それにデレデレしている所を他の人に見られるのは少し恥ずかしい。
断りの返信をしようと文字を打ち始めた瞬間にまた橋本さんから新たなメッセージが届く。
【この写真みたよね?なにも対価なしで見せてあげた訳じゃないからね?分かってるよね?】
なんでだろう、文字だけなのにこんなに威圧感を受けるのは……。
これは行かなかったら後々何かしら面倒な事をされそうな気がする。行きたくはない、見てなかったと誤魔化そうにももう既読が付いてしまっているのでそれも出来ない。
俺が断る事も織り込み済みでこの写真を送ってきたんだろう。そして追い打ちの【分かってるよね?】というメッセージ。
可愛い見た目からは想像できない程の策士に俺はまんまと嵌められてしまった。
【分かった。ちょうど外にいたから直ぐ行けると思う】
【待ってるねー】という返信と共に速攻でファミレスの場所が記された地図のURLまで送られてきた。
この人はまじで……俺の行動全部読まれてるみたいで少し怖い。絶対橋本さんは怒らせないようにしよと心に決めて雪田さんの写真をしっかりと保存してファミレスに歩みを進めた。
「ここかな?」
送られてきたファミレスに着いたので店内に入り何処にいるんだとキョロキョロしていると聞き覚えのある声が微かに耳に響いた。
丁度こっちを見ていた雪田さんとバッチリ目が合うがお互いに目を逸らす。あんな可愛いの見た後だから余計に見ずらい。
「やほーこっちこっち」
橋本さんが立ち上がり手を振って早く早くと催促してくる。その笑顔の裏ではどんな事を考えているんだろうと恐怖心を抱きながら向かう。
「あ、ど、ども……」
照れ臭くて頭を掻きながら会釈する。
どんな感じで行けばいいのか全く分からない。
それは雪田さんも同じなのか遠慮気味に片手を上げて「や、やほ」と上目遣いで返してくる。
「ほらほら~、彼女の隣に座りなよ~」
「あ、うん」
にんまりとした笑顔を浮かべる橋本さんの言葉通りに雪田さんの隣が空いていたので座る。
予想通り俺と雪田さんが付き合ってる事はもう知っているらしい。
橋本さんはミニスカートにフワッとした感じの上を着てオシャレで可愛い恰好、山川さんは紺色のパンツに上はシンプルなシャツでボーイッシュでラフな感じだ。シンプルなのにこんなに似合っているのは素材がいいからだろう。羨ましい。
雪田さんは薄い青のショートパンツに黒のTシャツで活発さを感じさせる服装で思わず太ももに目が行ってしまうが、山川さんや橋本さんもいるので気付かれない内に急いで目を逸らす。
顔が合わないから向かいじゃなくてよかったと考えていたのだが、肩が触れそうで健康的な太ももが視界の端に入るし、優しい香りが漂ってきてその考えは一瞬でどこかへ行ってしまった。
山川さんと橋本さんの向かいに俺と雪田さんで座っているこの状況は一体、面接でも始まるのか?いやこれは三者面談とかに近い感じもする。
「鼻の下伸ばしちゃって~。ま、しょうがないか美少女三人に見られたら誰でもそうなるよね~」
「自分で言うなよ」
思わずつっこんでしまったが怒るそぶりはないのでほっと胸を撫でおろす。
「わ、私は違うと思うが……」
山川さんは結構謙虚なんだな。見た目からして自覚していながら爽やかに「ありがと」とか王子様みたいに言ってそうなイメージを結構持っていたから意外だ。
雪田さんの方をチラッと見てみると緊張してるのか背筋を伸ばしていた。さっきの美少女三人のくだりは耳に入っていないっぽい。
「山川さんも魅力的だと思うけど。いでっ」
直接的に可愛いとか綺麗とか言ったら絶対ダメな気がしたのでオブラートに包んで言ってみたのだがそれは聞こえていたのか隣の雪田さんから横腹に肘が飛んできた。
「私は私は~?」
「そりゃ勿論いでででごめんって」
橋本さんが褒めて欲しそうに自分を指差しながら聞いてきたので答えようとした瞬間隣から耳を引っ張られる。
「中川くん?何言おうとしてるのかな?」
「ごめんなさい」
口は笑ってるけど目が笑ってないよ雪田さん……。
でも少しは緊張が解けたようで何よりだ。自分の緊張も少しマシになった気がする。
「てか、この状況学校の誰かに見られたら俺殺される気がするんだけど……」
学校の中でも群を抜いて可愛い、かっこいいとモテている三人に一人混ざっている平凡な男の俺。
皆が望んでも中々一緒に遊んだり連絡先を交換できない高根の花達と今一緒にいて仲良さそうに話しているこの状況を誰かに見られたら俺の学校生活が終わる気がする。
海で一緒に遊んでた三人の男子も多分夏休み明けに殺されるんじゃないかと思う。その時に俺も一緒に殺される気がしてならない。
色んな人からどういう事か説明しろと追いかけ回されたり、女たらしとあらぬ噂を立てられたり、靴箱に画鋲入れられたり教科書隠されたりする未来を想像してしまい身が縮こまる。
「あはーそれなったら面白そうだね~」
「他人事だと思いやがって……」
「私達のせいで困ったことになった時は言ってくれ。助けるから」
「雪田さん……なんですかこの癖のある友達は。一人は随分といい性格してるのに対し一人は王子様みたいな性格って」
前に座っている二人に眉を歪めながら雪田さんに耳打ちすると、雪田さんが少し頬を紅潮させながらも「私の大切な友達だよ。面白いでしょ」と自慢げな表情で笑って見せた。
「いい友達だね」
「うん」
思わず二人の世界に入りそうになった瞬間橋本さんが何かを思い出したかのように口を開く。
「あ、そういえばさっき瑠奈ちが中川くんの事好きって言ってたよー」
「なっそ、それは里英が聞いてきたからでしょ?!」
本人に言われるのも嬉しいけど、人伝いにそう言われるのも悪い気はしない。寧ろ自分がいないところでも俺の事を想ってくれているんだ?!って思えて素直に嬉しい。
俺は必死にニヤケそうになる口に力を入れて我慢する。
「中川くんさ、瑠奈ちの事好き?」
雪田さんと言い合っていたのに不意打ちで俺に質問を投げかけてきたのでびっくりして目を見開いて直ぐに答える事が出来なかった。
好き同士だから付き合ってるのにわざわざここで確認させる必要なんてあるのかと疑問に思ったけど、人前でも雪田さんの事が好きっていう事をちゃんと自信を持って言えるかどうか確認したいんだろう。
ここで好きと答えずに逃げたら男として恥ずかしいし、落胆されるだろう。恥ずかしいけど、俺が雪田さんを好きな事は恥ずかしい事ではない。
雪田さんと付き合ってる事は恥ずかしい事じゃない。誇れる事だ。彼女の存在は決して恥ずかしいものではない。だから自信を持って言わなくては。と思ったけどやっぱり口にするのは恥ずかしい。
しかもそれを他の二人に聞かれている状況で言うのは本人に言う時よりもハードルが高くて口をごもつかせてかっこ悪くなってしまった。
「え、そりゃまぁす、好き……です」
「どんな所が?」
こっちが頑張って答えを口にしたのに対し橋本さんは直ぐさま次の質問を問いかける。
「えっと……気さくに話しかけてくれる所とか、結構ノリ良い所とかふざけ合える事とか……」
今までの雪田さんと過ごした日々を思い返してどんな時に好きと思ったかを口にしていく。
「ってなんで俺はこんな恥ずかしい事を言わされてるんだ?」
急に正気に戻った俺は前に座る二人のニヤニヤとした笑みを見てどんどんと言ってしまった後悔がこみ上げてくる。
正直雪田さんの方は恥ずかしくて見られない。
「そりゃまぁ、お二人の愛を確かめるためだよ~」
「凄い、好きなんだな」
俺と雪田さんはそう言われ、お互いに恥ずかしくて俯く。頭から湯気が出てるのではないかというくらい身体が熱い。
傍から見れば俺は釣り合っていない、どう思われているんだろう。本当は俺の事好きじゃないんじゃないか。
正直、あの告白は友達間である罰ゲームとかなんじゃと疑った事もあった。けど、あの表情一挙手一投足すべてを考えたらとてもそうとは思えなかった。もし「罰ゲームでしたーっドッキリ大成功」なんて言われたら俺はもう人の事を信じれなくなりそうだ。
そのくらいあの時の表情はリアルで忘れられないし、今この状況も本当の事だと改めて認識させてくれた。




