34〜【後編】夏の夜、星空の元、二人きりの公園で〜
〇side中川〇
花火が終わり、公園のベンチで水を飲みながら二人で今日の事を振り返りながら話していたのだが、沈黙が訪れる。
そしてその沈黙を破ったのは何か決心したようにこちらに向き直り、少し緊張した様子の雪田さんだった。
「あのね……私、言いたいことがあるんだけどいいかな?」
雪田さんの手を見ると力んでいるのが分かる。そして海の砂浜と同じ様な雰囲気。流石に分かる。
今雪田さんは俺に告白しようとしているのが。だから俺はそれを止める。
「んーダメ」
「す……んぇ?…………え?ダメっ?!今ダメって言った?!」
いいよって言ったら速攻好きっていう準備が出来ていたのか「す」は完璧に聞こえていた。
まさかダメとは言われると思っていなかった雪田さんは驚いて目を見開き転げ落ちそうになる。
俺はそれに思わずクスッと笑い、咳払いして雪田さんを真剣な目で見つめ直す。
俺は橋本さんから雪田さんは俺の事が好きだというほぼ答えと同じような事を教えてもらった。
でも雪田さんは俺が雪田さんの事を好きかなんてわからない。それなのに勇気を振り絞って告白しようとしてくれている。俺はそれだけでもう充分だった。だから、ここから先の言葉は俺から言いたい。言うべきだ。
「俺――雪田さんの事が好きです」
告白なんて初めてするからなんて言えばいいか分からない。もっとかっこよく告白できるならしたかった。けどどれだけ考えてもいいセリフは思いつかなかった。
緊張から敬語になってしまったけど、真剣さが少しでも伝わっているのなら嬉しい。
「……え?」
まさか告白されるとは思っていなかったのか雪田さんはまだ脳の処理が追い付いていないようで口を開けて呆然としていたが俺は言葉を続ける。
どんどんと鼓動が早くなっていくのが分かる。
「最初は本当に軽口が叩ける可愛い友達みたいに思ってたんだけど、接していく内に一緒に過ごすのが心地良くて、楽しくて……それでクラスの男子と遊んでるの見て嫉妬しちゃって素っ気ない態度も取っちゃって……その……俺、雪田さんの特別になりたいって思ったんだ」
雪田さんはやっと俺が何を言っているのか理解し始めたのか頬が赤く染まっていた。
自分の正直な気持ちを言葉にするのが、人に伝えるのがこんなにも緊張して怖くて勇気のいるものだと思わなかった。
雪田さんのその勇気を俺は一度自分勝手な気持ちで聞くことを拒んでしまった。今思うと凄く申し訳ない事をしたと思うし橋本さんに罵られるのも納得がいく。
恥ずかしかったけどこういうのはちゃんとしたくて逸らしそうになりながらも、雪田さんの目をしっかりと見て伝える。
「だから、俺と付き合ってください」
「わ、私も……中川くんの事が好きです。こちらこそよろしくお願いします」
雪田さんは涙目で今までで見た事もないくらいの屈託のない笑顔で、告白を受け入れてくれた。
その笑顔を写真で残したいという気持ちが湧いたが、写真に残さなくても一生忘れない。それ程までに可愛くて、呼吸を忘れるくらいに綺麗だった。
こんなに想ってくれていたのが分かり凄く嬉しくて今にでも叫んで飛び跳ねたい気分だ。でもそれやると凄い奇妙な目で見られそうなので我慢する。
「えっと……今までのなんでも冗談言い合える関係が好きでもあるから……遠慮しないでね」
「わ、わかった」
俺、雪田さんの彼氏になったんだ……。
あまり実感が湧かない、けれどもう立派な彼氏彼女。そのことをお互いに意識して恥ずかしい。
今までどうやって接してたっけ?!
「あ、あのさ。恋人になったわけじゃん……?それで……その……何かしたいこととかありますか?」
「あはは、なんで敬語。しかも滅茶苦茶声裏返っててキモい」
「う、うるせぇな」
流石はメイド喫茶で働いているだけはあるのか切り替えが早い。それでもやはり照れはしているのか顔はまだ赤みが残っている。
「な、なんでもいいの……?」
モジモジと恥ずかしそうにする雪田さんに俺は「うん」と返事を返すと恐る恐る上目遣いで「じゃ、じゃぁ……」と要望を口にする。
「ハグ……したい……」
二人きりの公園、虫の音がするとはいえこの距離。俺の耳にはしっかりとその二文字が入ってきた。
チラチラと横目に遠慮がちに見てくる雪田さんが可愛過ぎてさっきから心臓がうるさい。
腕を広げて少し近付くと雪田さんも同じようにしてくれた。お互い初めてで探り合いながら優しく包み込む。
身体が密着してドキドキしているのが雪田さんに伝わらないか気になってしまう。雪田さんの身体は思っていたよりもずっと華奢で強く抱きしめたら骨が折れないか不安になってしまう。
けど離したくなくてもっと近くで感じたくてギュッと抱き寄せる。
ふわっと雪田さんの匂いが鼻孔をくすぐる。汗もかいているはずなのに全然臭くない。
俺は結構走ったし汗も結構かいちゃったけど臭くないか不安になり問いかける。
「く、臭くない?」
「んーん、癖になりそう……」
それって臭いってことじゃないんですか……。
「私の方こそ臭くない?」
「大丈夫、めっちゃいい匂い。ずっと嗅いでいたいくらい」
そう言って首元で鼻で大袈裟に息を吸うとくすぐったかったのか「ひゃっ」と可愛らしい声を漏らす。
「ちょっとぉ」
とまんざらでもないような声を出して雪田さんは俺がやったように首元をクンクン嗅いできた。
思ったよりもくすぐったくて思わず笑いがこぼれる。
長い間抱き合った俺達はどちらからでもなく、自然と離れて見つめ合う。
それが妙に面白くて同時に「あはは」と笑い合った。
これからこんな日々が続くと思うと喜びがこみ上げてくる。
「そろそろ帰ろっか」
「うん。……あ、足痛いからおんぶしてよ」
「えぇ……」
疲れていたが、痛いのは本当だろうしもし無理して歩いて転ぶような事があったらもっと酷い怪我をしてしまうかもしれない。それは嫌だと思い、おんぶして帰路につくことに。
さっきハグした時も少し胸の膨らみを感じたが、今度ははっきりとわかる。背中にもろに当たっていて意識しないように頑張るが無理だった。
手はもちもちして柔らかい太ももを支えているのにも気づいてしまい、邪な感情が湧いてくる。
意識しないようにすると逆にもっと意識してしまって悪循環が始まった。暑い肌の温もり、耳にかかる雪田さんの吐息。
全部が鮮明になっていく。
「重い」
「おい女子になんてこと言うんだ!」
「うわ、ごめんちょっと暴れないで」
からかった事で少し気がまぎれたのだが耳元で囁いてくる攻撃が始まった。
「そんなこと言っていいんだ~?お仕置きしちゃうよ」
「好きだよ……好・き」
「ちょ、まじでやめて……」
甘くとろけた声で囁いてくるあまりの攻撃力の高さに、俺は降伏するしかなった。
こんな日々が続くのは嬉しいけど、俺の心臓は果たして耐えられるのか……?




