32〜大切な時間〜
すると周囲の大きな雑音を超える大きな放送が流れる。花火がもう少しで始まる旨の放送だった。
その放送を聞いた祭りに来ていた人達は一斉に移動を始める。その流れにそって俺達も進もうとしたが、人が多くて中々身動きが取れない。
皆移動する方向がバラバラで気が付けば雪田さんの姿が見えなかった。
「うっっわ……やらかした」
急いでスマホを取り出して連絡しようとしたが、みんなスマホを使っているからか全然反応しない。通信速度が遅すぎて連絡ずっとぐるぐる読み込み中になっている。
「まじか……」
この人混みの中特定の人を探し出すのは至難の業。しかも段々と暗くなっていって人の顔の見分けがつけにくくなっている。
最悪だ、こんなことになる可能性があるのは容易に想像できたのにはぐれた時の集合場所を決めていなかった。完全に俺の落ち度だ。
取り敢えず、今日集合した場所に来ていないか行ってみる事にした。
折角の楽しい時間がこんなので終わるのは嫌だ。花火も一緒に見たい。
それにこんな中一人でいるのは不安だろう。着慣れていない浴衣に、履きなれていない下駄、普段来ない土地。
不安にならないわけがない。それに雪田さんは可愛いからナンパされてるかもしれない。前に一緒にプールに行った時もされていたから可能性は全然あり得る。
心拍数が早くなっていく、歩いている速度が徐々に上がる。
本当は全力で走って探したい、けど人が邪魔で走る事が出来ない。焦る気持ちを抑えながらも人混みをかき分け探す。
「いッ」
すると足に電気の様な痛みが走った。
少し脇にそれて足を確認すると親指と人差し指の間の皮がむけていた。
幸い、まだ血は出てはいないが擦れると痛い。俺は思い切って下駄を脱ぎ懐に入れ速足に進む。
「あれ?中川くんじゃん」
「あ、ほんとだ」
突然雑音の中から俺の名前を呼ぶ声がして立ち止まり振り返るとそこには浴衣姿で手に焼きそばなどを持った橋本里英と山川紗季がいた。
お面もつけていて祭りを満喫しているようだった。
「雪田さん見なかった?」
「瑠奈ち~?見てないや、ごめん」
「もしかしてはぐれたのか?」
「うん」
この暑さで走っていたので少し息が上がっていた。止まったことにより急に汗が噴き出てくる。
呼吸するたびに肺に熱気が流れ込んできて少し気持ち悪い感覚に襲われる。
「まじか、私達も探してみるね」
「取り敢えずこれ飲んで落ち着いて探すといいよ」
「ありがと」
まじでいい人達だな。こんな顔もスタイルも良くて優しいときた。モテるのも納得してしまう。
俺は山川さんから飲みかけのラムネを受けとり一気に乾いた喉へと流し込み、お礼を言ってまた走り出す。
「えぇっ紗季?!間接キス……」
「え、あっ……あぁぁぁぁぁ!」
間接キスと言う単語が聞こえたが正直喉が渇いていたからあんまり気にしていない。それに山川さんもそんなのあんまり気にするタイプじゃなさそうだし。
今はそれどころじゃない、早く雪田さんを見つけないと。
集合場所までもう少し、頼むからいてくれ……。そう願いながらたどり着く。
この辺はさっきまでと比べたら人は少なめだった。
辺りを見渡すと一人の女の子が道路の縁石に座っていた。見覚えのある浴衣の柄。
「雪田さん!」
声を掛けて近付くとその声に反応した雪田さんは目を見開いて直ぐに安堵の表情を見せる。
見つけれた事にほっと肩を撫でおろすと自然と頬が緩んだ。
「中川くん……」
「ごめん、見つけれて良かった。大丈夫?なんもなかった?」
「うん、大丈夫だよ。てかなんで裸足?」
「あ、走るのに下駄邪魔だったから」
雪田さんから指摘され俺は懐から下駄を取り出し履き直す。皮がむけた所が少し痛いが、この程度なら大丈夫だろう。
「雪田さんさ、靴擦れしてる?」
「え、なんでバレた」
「座ってるし、あんまり動きたくないのかと思って」
「鋭いね……」
それに足を見せないように手で隠していたから気付かない方がおかしい。それに男の俺でさえ皮がむけたんだから。
バレちゃったかとにへらと笑った瞬間、笛の様な音が響いてきたかと思えば破裂音が鳴り空に花を描く。
破裂音に驚き周りの人も皆して空を見上げる。
心臓がバクバクしているのが分かる。
これが花火の音にびっくりしたからなのか、雪田さんの子供っぽい魅力的な笑顔のせいなのかはたまたどっちともなのか分からなかった。
俺は雪田さんの隣にゆっくりと腰を掛け、一緒に空を見上げる。
チラッと横を見ると雪田さんは目をキラキラさせ口を少し開けて次々に咲いては消えていく儚い花火を楽しそうに見ていた。
あぁ、誘ってよかった。
その表情をみて微笑ましい気持ちになると俺も再び空に顔を向け、無言で眺める。
何気花火を見たのはいつぶりだろうか。幼稚園の頃は家族で見に来て、小学生の頃は友達と見た。
中学生になってからは完全にインドアになり、外に出る機会も減り同時に友達も減ったから祭り自体来るのは久しぶりだった。
少し懐かしい気持ちになりながらも過ぎ去るこの大切な時間を噛み締める。




