24〜臆病な自分〜
〇side中川〇
今日のバイトももうすぐ終わりというところで雪田さんがやってきた。それから話があると言われ砂浜を雑談しながら歩く。
バイトが忙しくて景色を見る余裕がなかったから今初めてしっかりと海を見ていた。夕陽が相まって凄く綺麗だ。
視線を感じ、雪田さんの方を見るとバチッと目が合う。そしてお互いに何を言うわけでも無く笑い合う。
可愛すぎだろ……。水着プラス夕陽に照らされる雪田さん、なんて破壊力だ。
直ぐに直視できなくなりまた海に視線を戻すと、雪田さんはこちらを向いて「あ……あのさ……」と言葉を詰まらせる。
俺は切り出しにくい話なのかと思い、雪田さんの方に目を向けるとギョッとした。
夕陽に照らされているから少し見にくいが微かに顔が赤くなっている様な気がする。それに恥ずかしそうに胸に手を当て、目を泳がせていた。
俺の勘違いでなければ、これは……この表情、場所、時間、言葉を詰まらせるというシチュエーション。流石にないとは言い切れないこの状況。
もしかして告白……?
その考えに行きついて俺は自分の鼓動が早まっているのを自覚する。
「あ、あのね……わ、私……」
雪田さんは少し掠れた声で言葉に詰まらせながらも喉から声を出そうとしている。
その先の言葉が予想通りのものならば俺は…………。
「あ、ごめんそろそろ戻んないとだから。またね。暇な日誘うわ!」
俺はそう淡々と言って手を振りながら小走りに逃げる。
そう、俺は逃げた。
雪田さんが言おうとしたその先の言葉をこれ以上聞きたくなかったから。聞いたら後戻りできない気がした。この関係が終わってしまうのが怖くて俺は逃げてしまった。
ま、まぁ告白じゃない可能性もなくはなかった。けどあの状況では告白の確率の方が高かった。
それに、俺は雪田さんの事は好きだ。でもその好きと言う気持ちが恋愛的な物なのか自分で確証が得られなかったから。自分の気持ちに自信がないから。
あの場で流れで了承してしまうのは失礼だし、答えを待ってもらうのも申し訳ないと思った。
他の人からすれば腰抜けだと思われるかもしれない。でもそれでも俺は今の関係を大切にしたかった。
最近俺は寝る前いつもあの日、雪田さんに告白されそうになったシーンがフラッシュバックしていた。
今夜も暫く寝れそうにないなと悶々とした夜を過ごす事になりそうだと思ったらスマホの通知が鳴った。
どうせ公式からのメッセージとかだろうと無視していると立て続けにピコンピコンと鳴り響く。
通知を見てみると【里英】と書かれていた。
里英……?橋本さんかな?
【おーい、中川くんだよね?】
【もしもーし】
【おいこら返事しろ!】
最初のメッセから一分も経っていないのに間髪入れず送ってくる。
【そうだけど?なんで連絡先知ってるの?】
疑問に思い、直接聞いてみる事にすると一瞬にして返信が来た。
【瑠奈から聞いたのーダメだった?】
からのあざとくダメ?と言う上目遣いをした犬のスタンプが送られてきた。
【別に全然大丈夫だけど、どうかしたの?】
【いやぁ、あんたさ。ぶっちゃけ里英の気持ち気付いてるでしょ】
いきなりそんなことを言われて俺は返信内容に困る。確証はないがもしかしたらそうなんじゃないかと思っている。
それに雪田さんの友達の橋本さんがこう言ってきたってことはもうほぼそうだと答えを言っているようなもの。
【あの日、実は遠くから見てたんだけど何で逃げたの?腰抜け、臆病なやつめ】
【瑠奈の気持ち気付いてて逃げたんでしょ?ねぇなんで?好きじゃないの?瑠奈あの後泣いてたんだからね?】
【ごめん】
雪田さんがあの後泣いていたと知らされ俺はショックと申し訳なさからその一言しか返す事が出来なった。
腰抜けだし臆病なのは事実で反論しようがない。
【謝る相手は私じゃないでしょ。で、好きじゃないの?】
そこまで言われて俺は経験豊富そうな橋本さんに相談してみようと覚悟を決めた。自分の気持ちと向き合うために。
これは今逃げたらこの先もずっと逃げ続けてしまうような気がする。自然と雪田さんとの関係が終わってしまう予感がする。
【好きだよ。でもその好きが恋愛的な好きなのかどうかが分かんないんだ】
【なるほどね】
【橋本さんは、恋愛的な好きとアイドルとかアニメのキャラとか所謂推しとの違いは何だと思う?】
【独り占めしたいか、みんなに共有したいかとかの違いじゃない?私推しとか分かんないから役に立てないやごめん】
【いや、ありがとう。ちゃんと向き合うよ】
【それならいいんだ、頑張れよ若人……】
橋本さんも若人だろと心の中でツッコミを入れつつ、俺は改めて自分の気持ちと向き合う事にした。
ネットでも推しと好きの違いを調べてみる事に。
【推し】
・姿を見ているだけで幸せ
・すべてが尊い
・特別扱いは求めない
・見返りを求めず、ただただ応援したい
・皆に共有したい
【好き】
・その人の言動で一喜一憂する
・異性などと仲良くしていると嫉妬する
・日常的にその人のことを考えてしまう
・その人の「特別」になりたい、独り占めしたい
雪田さんとの今までの事を想い返してみるが、どっちも凄く当てはまる。でも今の気持ちはどっちなんだろう。分からない。推しでもガチ恋勢とかいるしな……。
あの日から顔を合わせていないから少し気まずい。それに泣かせてしまったのだというのだから余計に。
でも向き合うって決めたんだ。
俺は雪田さんから貰ったバイトのシフト表をみて、いる日に顔を出す事を決めた。




