10〜友達の家で宿題を〜
「だぁぁぁ!もうすぐ夏休みだぁ!!!!」
クラスの男子の声が外のセミの鳴き声をかき消す音量で叫ぶ。教室は冷房がガンガンについていて火照った身体を冷やす。
登校中にかいた汗をタオルで拭いながら俺も心の中で相槌を打つ。
特別、夏休みだからと言って何かをするわけでも無い。家でゴロゴロするのが楽しみなだけだ。学校が無い、それがどれだけ幸せな事か。でも宿題があるのが面倒くさいところだ。
社会人になった大人たちは学生の方が楽とよく言う。確かにそうかもしれない。けど、今は今。未来は未来だ。
大変なのは学生も社会人も同じだ。まぁ長期休暇がある学生の方が確かに楽かもしれないが。
学生ライフをしっかり堪能しないとなぁ。
あれ……それじゃ夏休み家でゴロゴロしとくだけってのも勿体ないよな……。
あれこれ考えていると教室のドアが開き、そこから汗を輝かせた雪田さんが入ってきた。
「おはよう」
「ん、おはよう」
席に荷物を置いた雪田さんは顔を上にあげて体全身で涼しい風を感じていた。
首筋につうっと垂れる汗が妙に魅力的で……「舐めたい」
「…………」
ん?なんか凄いゴミでも見るかの様な目を向けられ若干距離を取られた。
タオルで汗を拭ってる姿もまた絵になるなぁ。
「口に出てたよ醜くてキモい欲望が」
「え?なにが?」
汗を拭き終わったのか、席に座ると開口一番罵倒される。
「え、冗談でしょ?」
「え、まじで何が?」
「無意識まじか……?」
本当に何のことか分からずに聞き返すと呆れた顔をされる。
「さっき舐めたいって声に出てたよ」
「え、うそまじ?」
「まじだよ、中川くん気をつけないとマジでやばいよ?」
「そ、そうだね」
声に出てたからあんな反応されたのかと納得すると同時に本当に気をつけようと思う。しっかり口紡いでから変な事は考えよう。
「てか、何を舐めたいって思ったの?」
「え?それ聞いちゃう?」
「うぁ、やっぱいいや」
嫌な予感がしたのか雪田さんは手をしっしっとやってため息を吐いた。
そう言えば、雪田さんは夏休み何か予定はあるのか気になったので聞いてみることに。
「雪田さんって夏休みもバイト?」
「そうだけど?」
「遊びに行っていい?」
「別に、いいけど」
やけにあっさりと許可を貰えた。まぁ来るなと言われても行くんだけどね。
「どうせ来んなって言っても来るでしょ?」
「バレてたか」
「君の考えなんて手に取るようにわかるよ」
人差し指を俺に向けながらウィンクして誇らしげにむふふと笑っているのだが、中々に怖い事を言っているのを自覚しているのだろうか。
「そんな誇らしげに可愛く言われても……」
「いやだって殆どエッチな事しか考えてないでしょ」
「おっしゃる通りで」
なんなら今も女の子の口からエッチって単語が出てくるの、ちょっとドキッとしていいよねとか思ってしまっているんだから否定のしようがない。
「てか結構な頻度で来てるけどお金大丈夫なの?」
「ん?全然、もうないね」
「じゃあ無理やん、これんやん」
「何とかします」
「そこまでして来たいの?」
「うん、雪田さんに会いたいからね」
「そ、そう……」
真剣な表情をして言ったら目を背けられた。照れたのだろう。そんなところがまた可愛らしい。
普段は言い合っているけどふとした瞬間に、ちょっとしたことで照れたり恥ずかしがるところがいい。
俺はそんな雪田さんが……。ん?そんな雪田さんが……好き……なのか?
確かに可愛いしずっと一緒にいて楽しいって思うけど、他の女子も可愛いって思うし、これが特別な感情とは言えないだろう。
「べ、別に会いたいならあそこじゃなくても普通に会おうよ。お金ないなら尚更さ」
「へ……?」
「え?私何か変な事言ったかな?」
「いいの?」
「え、いいけど。友達だし?」
少し照れ臭そうに髪を手でくるくるとしながらたまにこちらをチラチラとみてくるのがツンデレっぽくて可愛い。
「そっか、友達……そうだよね。俺達友達だもんね!」
友達っていう立場最高か?
「やっぱり友達辞めていい?」
「酷い!!」
その後、また言い合いながらも連絡先を交換してないと気付き交換して貰った。やったね、これでいつでも雪田さんと繋がっとける。
繋がっとけるって……えっろ。
「また変な事考えてるでしょ」
「なんでわかった!?」
「何となく」
雪田さんがどんどん俺の思考を読めるようになってきているのが怖いぞ。いつか考えてる事全部わかるようになるのでは……?
終業式、ホームルームが終わり、皆解放されてウッキウキになっていた。明日から夏休み。実質今から夏休み0日目だ。
この後遊びに行ったり、家に帰ったり、バイトだったりと人によって様々だろう。
かく言う俺は……特に何もなかった。
「中川くんはこの後どっか行くの?」
「ん?特にどこにも行く予定もないから帰って宿題を少しでも早く終わらせようかなって思ってたけど」
「えっっら!」
「えっろ?」
「ちゃうわ!耳腐ってるからまず耳鼻科行った方がいいですよー」
「折角褒めてあげたのに」と呆れため息を吐きながらやれやれと頭に手をやる。
そう言う雪田さんは何かやる事でもあるのだろうかと思い尋ねてみる。
「雪田さんはなんかあるの?」
「私も何もないけど、一緒に宿題でもする?」
「やるかぁ……」
「決まりね、よし行こう!」
一人でやるよりも二人でやるなら少しはやる気が出るかなと思い誘いを受ける事にした。絶対一人でやっていたら直ぐに疲れて止めそうだからな。
そうと決まればと言わんばかりにそそくさと教室を出て昇降口に向かう雪田さんの足取りは軽かった。
雪田さんも学校が終わり、夏休みになるから浮かれているのがその様子から見て取れた。
一緒に帰るのはあの雨が降った時以来か。それでその後シャワーを借りて……下着見た事思い出してしまった。
「ところでどこで宿題する?」
「私の家でいい?」
「いいよ」
外だとどうしても他の人がいて騒がしくて集中できないからだろうか。また雪田さんの家に行く事になるとは思ってもいなかった。
変な気を起こさないように俺の理性保ってくれよ。流石に犯罪者にはなりたくないからな。
それからコンビニで昼食やお菓子を買って雪田さんの家に着いた。
「入って入って~」
「お邪魔しまーす」
この前も親はいなかったが、今日もいないみたいだ。
「兄弟とかいないんだ?」
「一人っ子だよ」
「ふーん」
「先に私の部屋行ってて、多分直ぐ分かるから」
俺は言われた通り、二階に上がり部屋に入る事に。直ぐわかると言っていた理由はドアの前に瑠奈と書かれた札が掛けてあったからだ。
俺は「失礼しまーす」と誰もいないのに呟いてからゆっくりとドアを開けて部屋に入る。
ドアを開けた瞬間に漂ってきた女の子の匂い、正確には洗剤などの匂いが鼻に入って来る。
何気に初めての女の子の部屋。ベッドにはぬいぐるみが置いてあったり棚には漫画などの本もあったりしたがしっかりと片付いていた。
これで部屋が汚かったりしたら、からかいがいがあって面白かったのになと少し落胆しつつ、真ん中に置いてある机の近くに座る。
暫くすると階段を登る音がした後、雪田さんが部屋に来た。コップと飲み物を持ってきてくれて宿題をする前に昼食を食べる事に。
「めっちゃいい匂いするね」
部屋を見渡しながら深呼吸して肺いっぱいに雪田さんの匂いを取り込むと「恥ずかしいし、キモいからやめて!」と腹パンされ吸ったものが吐き出されてしまった。
「さ、宿題始めよっか」
「はぃ」
ご飯を食べて少し眠くなってきたが雪田さんに言われ、本来の目的である宿題を始める事に。
お互い集中して黙々と宿題を進めていく。部屋には吐息とシャーペンの走る音、時間の経過を知らせる時計の針の音、そして衣擦れの音しか聞こえない。
俺も思ったよりも集中する事が出来て理性がどうこうとかそういうのは完全にいらぬ心配だった。




