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黒猫連れた運び屋さん  作者: 鳥ノ音
一章 魔剣配達
3/6

二話:出発前にひと仕事

入る度にその形や構造を変え、無尽蔵に魔物を生み出す、謎多き迷宮、通称ダンジョン。

魔王が生きていた時代には、このダンジョンは魔王が世界を侵略するために作ったと言われていたのだが、最近になってそれは間違いである事がわかった。

一説にはダンジョンその物が巨大な一体の魔物であり、生きているのだなどというとんでもない話もあったりするらしいが、詳しい事は今のところ誰にもわからない。



「なあ我が主人よ。何故こんな危ない仕事を引き受けたのだ?」


白い布でぐるぐる巻きにされた魔剣を背負い、修理の終わった鉄騎を押しながら街の出口へ向けて歩く道中、ノワレが唐突にそんな事を聞いてきた。


「そりゃ、お金のためだよ?」


そう返してやると、どうやらソレは求めていた答えでは無かったようで、ノワレはあからさまに不機嫌そうな顔をする。


「わざわざこんな危ない仕事にしなくても、運ぶ物など他にいくらでもあるだろう?どうしてこの仕事なんだ?他にも理由があるのだろう?言ってみろ。」


「うーん、そうだね、理由を付け足すなら、ダンジョンには一度行っておきたかったって言うのと、勇者に会って見たいと思ったからかな?」


そうあっけらかんと言う私を見て、ノワレは呆れた用にため息を吐く。


「ああ、そうだったな。吾輩の主人はそう言う人間であったな。全く、そんなにスリルのある生活が送りたいのなら冒険者にでもなってダンジョン攻略に志願でもしたら良いのだ。」


何処と無くいじけた用にソッポを向いて、延々と愚痴を吐き出し続けるノワレ。

普段は偉そうで生意気で可愛いげの無い彼だが、その実、過保護で臆病で寂しがり屋だったりするのだから何とも嫌いになれない猫である。

そんな感じで、ノワレの愚痴を適度に聞いてあげつつも歩き続けて、ようやく街の出口に到着する。

ここから一歩でも外に出れば、魔物の生活圏だ。

私は鉄騎にまたがるとノワレに動力となる魔力を回して貰うように頼んだ。


「ちょっと待て、まだ索敵をしていない。」


そう言ってノワレはいつも通り、魔法で街の外に危険が無いかの確認を行う。

キラキラと光る蜘蛛の巣のような光の線が、ノワレを中心に広がって行き、そして消える。

何時もならばソレが終わると直ぐに鉄騎に魔力を回してくれるのだが、今回は何時もとは違うようだった。


「何かいた?」


「ああ、先日のゴブリンの群れを覚えているか?」


流石に昨日の今日で忘れる事など出来るはずがない。

ノワレの問いに私は頷き返答をした。


「奴らが街周辺に潜伏している。誤算だった。あのゴブリン供、恐らく運び屋を見た事があるぞ。ご丁寧に罠まで用意している。」


苦虫を噛み潰したような顔で、吐き捨てるようにノワレは言う。


「どうする?我が主人よ。今ならばまだ仕事を破棄してゴブリン供が諦めて散るまでここで過ごすと言う手もあるが?」


「それは出来ないよ。」


「チッ!」


あ、舌打ちした。

どうやらノワレはこの事態にかこつけて、私に魔剣配達の仕事を辞めさせようとしていたようである。

私が即答すると、すっごい不機嫌そうな顔をした。

しかしソレと同時に何かが吹っ切れたようでもあった。


「少し時間を貰うぞ。」


「何か手があるの?」


「無論ない。だから今から作るのだ、そのための魔法をな。」


そうあっさりと言ってのけると、ノワレは目を閉じて動かなくなってしまう。

時たま「使えん小鬼供め」とか「この程度ではこの馬鹿者を止められんだろう」とか「いっそドラゴンの一、二体連れて来い!」と何やらブツブツ聞こえたが、私は聞かなかった事にしてノワレの準備が終わるのを大人しく待つ事にした。


魔法作成(マギノクラフト)

それはノワレが唯一使う事の出来る固有の魔法であり、文字通り魔法を作る魔法である。

作れる魔法は多種多様で、便利な物から危険な物まで何でも作れるすごい魔法。

でもノワレ曰く万能と言う程の物ではないらしい。

簡単な物なら即座に作り出し使う事が出来るらしいけど、複雑な物になると作るのに時間がかかるみたいだ。

更にはこの魔法、作る工程と使う工程で二度魔力を消費する上に作った魔法は使い捨てなため燃費も良くないのだとか。

でもまあ、魔法が使えない私からしたら魔法が使えるだけでも凄いと思う訳で、羨ましい事この上なかった。


「良し、準備が出来た。待たせたな。」


青い空を漂う白い雲を眺める事数分、ようやくノワレは準備を終えたようで、久しぶりにその小さな口から声を発する。


「特に変わった感じはしないね。」


「術式を組んだだけだからな、銃でいう所の弾を込める感じだ。そんな事より準備は良いか?忘れ物は無いな?買う物もしっかり買ったか?」


なんだか旅行前の親のような事を言い出すノワレに、私は「大丈夫。」と言うと、改めて鉄騎にまたがる。


「良し、では我が主人よ、走り出したら絶対に止まるな。そして絶対にハンドルを離すな。良いな?」


「うん、わかった。けど、それってそんな真剣に言う事かな?」


「人間と言うのは驚くと力が抜ける物だろう?だから一応念を押しただけさ。」


これから一体、彼は何をしようとしているのだろうか?

この程度の事は今までだって経験して来た筈なのに、何だか急に不安になって来た。


「ねえノワレ?これから何かするつもりなの?出来る事なら前もって教えておいて貰えると私も安心出来るんだけど?」


走り始めた鉄騎を操縦しながらも、私はノワレにそう聞いた。


「飛ぶ。」


「へ?」


気付いた時、私の足下には地面など無くなっていた。

つい先程眺めていた白い雲が、今では手を伸ばせば掴めそうな程近い場所にある。


「の、ノワレさん?これは一体?」


「見ればわかるだろう?飛んでいるのだ。我が主人よ」


「なぜ?」


真っ白な頭で、遥か真下に見える地上を呆然と見渡しながら、私が口から発する事が出来た単語は、その二文字が精一杯だった。


「説明しただろう?奴らは罠を貼っているのだと。それに引っかからない為だ。」


「......いや、なぜ?」


こんなに高く飛ばなくても良いのでは?

と言う言葉を紡ぐ余裕が無かった私は、間抜けにも先程と大差のない単語を吐き出した。


「罠が地面だけではなく、空中にも仕掛けられていたからに決まっているだろう?それと奴らの射程外に行くためでもある。」


決まっているのだろうか?

今の私にはそれすらも考える余裕が無かった。

そうしている間にも、落下する事なく鉄騎は前方へ進んで行く。

ノワレの次なる魔法は何の前触れもなく発動した。

鉄騎の下に広がる青い色の魔法陣が雨雲を生み出し、そして間も無く雨を降らせる。

それからひとしきり大地を濡らし地面に降りてから辺りを見渡すとたくさんのゴブリン達が寝息を立てて彼方此方で眠っていた。

どうやらあの雨には触れた者を深い眠りにつかせる効果があったようだ。


「これで丸一日は起きないだろう。」


「凄い効き目だね。」


「ゴブリン共は魔法を使うくせに魔法への耐性が低いからな。」


「そっか。」


「それで、どうする?我が主人よ。今ならば殺してしまう事も容易だが?」


「別に良いよ。血を流さなくて済むならそれが一番だもの。」


私の返答に異議は無いようで、ノワレは「そうか。」とだけ呟くと鉄騎に魔力を回し始める。

魔物だって生きるのに必死だ。

人間からすれば害であるし、善か悪かで言ったら間違いなく悪である。

しかし世界からしたら、自然に生きる魔物と自然を破壊して生活圏を広げる人間、どちらが悪だろうか?

眠るゴブリンの群れの中にはライダー達が乗っていた狼もいて、一緒に寝息を立てて眠っている。

きっとこれがこの疑問への答えなのだろうと、私は勝手に思っている。

ノワレもきっと同じ考えだから何も言わなかったのだろう。

それ以上の会話は特に無く再び鉄騎は走り出す。

作り物の雨が止んだ空には綺麗な虹が掛かっていた。

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