一話:仕事が終わってまた仕事
あれから何時間こうして鉄騎を押しながら歩いたのだろう?
真上にあった太陽は、気が付けば沈み始めていた。
それでも何とか無事に私達は目的の街へ到着する事が出来たのだった。
その日訪れた街の名はニベルゲン。
背の高い建物が多かったり、魔物の対策手段が外壁を築く事ではなく魔物避けの結界が刻み込まれた魔石を使用している辺り、結構栄えている街のようである。
常に魔物を警戒しながら休む事なく歩き続けた事もあって、私もノワレも街の中へ入る頃には疲労困憊だった。
もしも許されるのなら、早々に宿を取ってフカフカのベッドに直ぐにでもダイブしたいところだった。
でも今は仕事の途中だ。
だから私達は今晩の宿探しの前に、先にやるべき事を片付けなければならなかった。
そんな訳で、まずは依頼物の配達から。
この街に来た一番の目的、それがこの今回の依頼物である手紙を届ける事だ。
報酬は先払いであったため目的の家のポストに手紙を投函する事で、配達はあっさりと終了した。
次に、壊れた鉄騎を修理に出す。
これは魔道具専門店に預けたところ、明日の朝には修理が終わるから取りに来てくれとの事だった。
正直かなり金銭面にダメージを受けたが、何とか宿代は残り一安心である。
そうして、一通りやるべき事が終わるとようやく待ちに待った自由時間となる。
私は早々に適当な宿を探しチェックインを済ませると、そのままベッドへと飛び込んだ。
「だらしないぞフィリカ、上着とブーツくらい脱いだらどうだ?」
自分だって足も拭かずにベッドに倒れ込んでいる癖に、自身の事は棚に上げてそんな母親のような事をノワレは言う。
「何だ、その不満そうな目は?吾輩は魔法でしっかり身体の汚れを洗浄しているぞ?」
「ずるい、これだから魔法と言う奴は。」
なんて、そんなたわいのない言い合いを続けていた私とノワレだったけれど、気が付けばお互い眠りに落ちていた。
外で沈み掛けていた夕日はいつの間にか朝日に変わっていて、私もノワレも相当に疲れていたようで、いつ寝たのかを全く覚えていなかった。
まだ覚醒していない重たい頭を振りながらも、私はシャワーと着替えと食事を済ませて、眠気と疲労が抜け切らぬままに宿を出た。
そうして預けていた鉄騎を魔道具専門店に取りに行った時の事である。
店の店主である青年が、私達へ配達の依頼をお願いして来た。
配達物は魔剣。
配達先は最近発見された魔物の巣であるダンジョン、その破壊へ単独で向かった勇者に、との事だった。
その情報だけでもわかるだろうけれど、物凄く重要な依頼である。
その昔、魔物の王を倒し、世界を救った勇者は人ではないらしい。
そのため、使命を全うし聖剣を返上した今でも、世の為人の為に活動しているとか。
そんな勇者の現在の使命は未開拓エリアに存在する魔物の発生源、すなわちダンジョンを破壊する事だった。
店主の話では
何でもそのダンジョンの主がとても強力な魔物だったらしく、並の武器では勇者の技量であっても殺し切る事が出来なかったそうなのだ。
その結果所持していた武器は全て壊れ、現在、勇者はダンジョン内に確保したセーフエリアから動けずにいるらしい。
「危険な依頼ではあるのですがとても重要な配達です。なので是非貴方にお願いしたいのです。」
深々と頭を下げる店主に、しかし私は疑問を持つ。
「あの?そんな重要な依頼であるなら何故私に?この街は栄えているようですし、もっと優秀な運び屋を雇う事だって出来るのでは?」
「またまたご謙遜を、黒猫を連れた緑の髪の運び屋と言ったらここら辺では有名ですよ。どんな配達も難無くこなし、曰く竜をも恐れぬとか。」
それは初耳である。
竜をも恐れぬって何だ?
私は怖いよ?竜。
頭を傾げる私とついでにノワレを置いて、店主は興奮気味に黒猫を連れた運び屋の伝説を語る。
聞けば聞くほどに私達ではないと思うのだが
しかし、確かに私の髪色は緑だし、相棒のノワレは黒猫である。
髪色が同じである事はあっても黒猫を連れて運び屋をする物好きなんて、きっと私達くらいだ。
ならばここら辺で有名らしい運び屋と言うのは私達で間違いないのかも知れない。
が、店主の語るような武勇は一切無いので、いったい何処からそんな話が出たのか不思議な所である。
でもまあ今はそんな事はどうでも良い。
未開拓エリアを抜けるだけでも危険なのに、あの天下の勇者様でも倒せない魔物が巣喰ったダンジョンに入らなければいけない依頼なんて引き受ける訳が
「報酬はとりあえず、前金でこれくらいで如何でしょうか?」
「是非とも引き受けさせて頂きます!」
こうして、私達はその依頼を受ける事にしたのだった。
だって報酬がとても魅力的な額だったから!
報酬の金額を聞くや否や、即決で依頼を引き受けた私をノワレは凄く何か言いたそうな目で見ていたけれど、気にせずに私は届け物の魔剣と修理の終えた鉄騎を受け取ると、真っ直ぐに店を出た。




