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inner child scope

作者: 掃除する王子



幼い頃の景色。それは幻。パチパチ飛んで行く蛍火。

畦道。私の産道。暗くて白い。

ひぐらし、スズムシ、私を追い立てる。私はなおも立ち尽くす。

ブーンバップが聞こえる。



3年ぶりの里帰り。今日の天気は曇り、黒い曇り。

峠道、おばさんの車は時速40kmでのんびり進む。他の車、どんどん追い越してく。

おばさん、遠くを睨んでる。


「あら、向こうはもっと暗いわ。着いたら雨かもね。あぁでも、あけみちゃんは、雨好きだっけ」


雨、好き。落ち着く。音も景色もうるさいのに。肌も濡れると冷たいのに。リズムが好き?


「向こう着いたら散歩したい」

「散歩?うーんそうねぇ、だったら、まゆみさんに頼んでみましょうか」

「一人がいい」

「えぇ......うーん悪いけど多分それは厳しいと思うわよ」


散歩、一人が良い。あそこに行きたいから。

願い叶わず、私、ちょっとブルー。


そのうち、カーミュージック、ジャズに変わる。ゆったり軽いシンバルレガートとサックス。私、眠る。



午後4時、家、木造の風通しの良い家、到着。山に囲まれたとこにある。天気は雨、土砂降り。

6時間走った。おばさん疲れてる。


ママ、ピンクの傘をさして出迎えてくる。クリーム色のブラウスに赤紫のスカート。相変わらず。

おばさん、ママに挨拶する。


「まゆみさん、お久しぶりでございます」

「藤田さん、お久しぶりです」


ママ、挨拶の後、すぐにこっちに向き直る。ゆっくり助手席を覗いてくる。


「明美、久しぶり」

「久しぶり」


私、ママの傘に入れてもらう。おばさん、後ろの席から傘を出す。家入る。


家の中、懐かしい匂い。玄関にきこり人形。


「奥さん、着いたばかりで恐縮なのですが、車の中であけみちゃんが一人で散歩したいとおっしゃっておりまして......」

「一人で?それは難しいわね。こんな天気だし。それと藤田さん、私はもう奥さんではなくてよ」


おばさん、ハッとする。ママ、顔だけで笑ってる。怒ってるわけではなさそう。


「失礼しましたまゆみさん」

「いいのよ、別に」


ママ、またこっちに向き直る。


「明美、疲れていないの? 散歩するなら明日でもいいんじゃない。それに今日は雨よ」

「雨だから、散歩したい」

「うーん、聞いてあげたいのは山々だけど、やっぱりだめね。近くで最近土砂崩れがあって危ないし」


やっぱり。残念。


「......」

「ごめんね明美。また明日二人でいきましょう。今日はゆっくり休みなさい」


仕方がないから和室で黙ってることにする。

和室にある大きな窓、全開。でも屋根が広くて、部屋の中に雨、入ってこない。


外を見てると、蝶を見つける。大きなやつ。雨なのにひらひら飛んでる。私、そいつを追いかけてく。


外に出ると、あっという間にずぶ濡れ。冷たくて寒い。歩くたびにぴしゃぴしゃいう。滑らないように走る。裸足で走る。


5分走る。必死に走る。疲れ、感じない。もっと走る。息が切れる。でもまだ疲れない。

あの場所に着いた。畦道。使われてない田んぼの。蝶、奥の森へ入っていく。


......ここ、私が好きな場所。追っかけるのやめて、立ち止まる。



ただの畦道。ぼーっと黙ってる。雨の音を聞いている。臭いけど落ち着く匂いがする。カタツムリが歩いている。カエルが跳ねている。懐かしい。

ここは、思い出の場所。ここに住んでた時よく来たところ。前もよく、雨の音を聞いてた。その時間好きだった。

でも、一番好きなのは雨の後、夏の夜。蛍がたくさん集まる。私の宝物。


「明美?」


振り返る。さとるだ。私の幼馴染。友達。


「やっぱりそうか、帰ってきてたんだ。傘くらい持たないと風邪ひくぞ」


さとる、言いながら近づいてくる。私もさとるも笑顔。


雨音のせいで、お互い怒鳴りあうみたいに喋る。


「さとる、久しぶり!」

「久しぶりー」


嬉しい。会いたかった。3年ぶり。さとると、よく一緒にこの場所来てた。


「おまえ、でかくなったな」

「うん、ちょっと。さとるは変わらないね」

「低身長の親の呪いだな」


さとる、私を自分の傘に入れた。


「にしてもよく伸びたなぁ。高校生なのに」

「これでもう私を子供扱いできない」

「いやぁ、おまえを子供扱いしてるのは身長のせいじゃないんだけどねぇ...」


さとるは私を子供扱いする。同い年なのに。妹だと思ってるみたい。昔から。


「寒くないの?」

「寒い」

「じゃあ家ん中入ろうぜ」

「嫌、ここにいたい。普段部屋の中ばっかり、外にいたい」


さとる、上を見る。ちょっと悲しそうな表情。カエルいなくなった。


「そっか。でもここでなくてもいいんじゃないか? とりあえず体拭かないと」

「嫌、ここが良い。ここずっときたかった。さとるもここ好きでしょ?」

「あぁ...まぁな」


さとる、また考える。


「これちょっともってて」


さとる、私に傘を渡す。さとる、服脱ぎ出す。


「何やってるの?」

「ほら、とりあえずこれ着ろよ。濡れた服着てるより良いだろ」

「なんで?」

「風邪引くだろう?」


私、仕方がないので言われた通りにする。ワンピースを脱いでさとるに渡す。ちょっと恥ずかしい。

さとる、私のブラをみて若干口を開けてすぐ目を逸らす。驚き? ブラ、こっちにいた時はつけてなかった。


着替えたら、暖かくなった。さとるのにおいがする。

さとるはパンツ一丁。私のワンピースを下着をくるめてもっている。


「それ着るの?」

「まさか、俺はこれで良いんだよ。身体丈夫だからな。おまえは弱いだろう?」

「うん...ありがとう」


しばらく一緒に黙ってカタツムリを見ていた。カタツムリ、元気が良くて可愛い。さとると一緒にいるの、落ち着く。

さとる、喋り出す。


「お前、あっちでどうしてんの?」

「学校行ってる」

「学校行ってない時は?」

「家で寝てるかおばさんと出掛けてる」

「そっか......」


さとる、少し大きく息を吐く。


「卒業したらどうするの?」

「わかんない」

「......こっち帰ってこいよ」

「どうして?」

「お前の家金持ってるだろ?別にわざわざお前が働かなくたって良いだろ。もし金が足りないって言うなら、俺は去年から家の仕事手伝って給料もらってるから貯金あるし、卒業したら本格的に家業に専念するつもりだから俺が世話してやるよ」


さとるの家、お店やってる。私もよくいってた。


「......わかんない」

「そっか、まぁだよな。わり、俺から直接まゆみさんに聞いてみるわ」

「さとる、なんで私を世話するの?」

「そりゃあ幼馴染だからさ」


よくわからない。



「あけみちゃ〜ん!」


おばさんの声。走ってくる。

大げさな表情してる。


「あぁ本当にここにいたのねぇ。心配したわよ、急にいなくなっちゃって」


おばさん、さとるの方をみる。


「ええと...あなたは?」

「はじめまして、明美の幼馴染の味山さとるです」

「あぁ、あなたが見ててくれたのね。はじめまして、あけみちゃんのお母様からあけみちゃんの世話役として雇われている藤田です」


「あけみちゃん、その格好は?」

「さとるからもらった」

「もらった...?」


さとるが割り込んででくる。


「ずぶ濡れだったから風邪をひかないように着替えさせたんです」

「あらぁそうなの。何から何まで申し訳わねぇ」

「いえいえ、慣れてるので」


さとる、知らない人と話すの慣れてる。前とちょっと変わってる。


「じゃああけみちゃん、散歩はこれくらいにして帰りましょう」

「もうちょっといたい」

「でも散歩もできたし、さとるくんとも会えたしよかったじゃない」


まだ帰りたくない。でもさとるも私を帰らせようとする。


「明美、多分まゆみさんに黙ってきたんだろう? 帰ったほうが良いと思うよ。体濡れてるのには変わりないんだし。また会えるんだから」


私、観念する。


「うん...。またね、さとる」

「あぁ、また」


手を振りながら帰る。さとるも手を振ってる。私、寂しい。



次の次の日、さとる、私の服を持ってやってくる。

私、帰りかけ。また会えて嬉しい。


「これ、忘れ物」

「うん、ありがとう」

「今度の時はうちに寄りなよ。親父もお袋も会いたがってるからさ。その時は、ちゃんと前もって連絡よこしてな」

「連絡...うん、する」

「よし、それと...」


さとる、私の耳に囁く。


「俺が世話するって話。考えといてくれよ。前言った通り、まゆみさんには言っとくからさ」

「うん、わかった」

「よし。それじゃあな!」

「じゃあね...」


車、走り出す。私、さとるとさよなら。また寂しい。



でも、今日晴れてる。私、晴れも好き。カーミュージック、ジャズから始まる。気分、ノッてきた。

世界、光って見えた。

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