田村仁の、男の見せ所④
背の高い建物が雑多に立ち並ぶ、この街の中心地。その中心地のど真ん中にある大きな駅で降りる。

十七時三十分を回るこの時間は、仕事終わりのサラリーマンやオフィスレディ、学校終わりの学生達でごった返している。
「これだけ人が多いと、来栖さんが何処にいるか全く見当もつきませんね」
「大丈夫だよ。ホーちゃんが全部教えてくれるから。空から見下ろすと、誰が何処にいるかは簡単に分かるみたいだよ。さっき別れてから、ずっと探してくれてるはずだし、もう見つけてるかも」
寄木さんと小生は改札を出て、人混みをかき分けて進む。駅の中央出口を出て、寄木さんが空を見上げながら鳩のホーちゃんを探している。
小生も見上げてみると、夕焼け空を背景に、とある方角に黒い点が旋回しているのが見えた。その黒い点を発見したのと同時に、寄木氏が口を開いた。
「いた!あの方角に来栖さんがいるって!行こう」
駅から北東の方角だ。
「ホー氏はもう来栖さんを見つけたのですか?」
「うん。あの場所にいる!」
寄木氏は小生と同じで体力がない筈なのに、人混みをかき分けながら走り出し、それも十五分間も走り続けた。
来栖さんに何かあってはとの思いが、寄木氏の体を突き動かすのだろうか。小生は体力がないので、寄木氏を見失わないように着いていくのが精一杯だった。どんどんと小さくなっていくその後ろ姿を見ながら「連絡先も知らない相手を見失っては一大事だ!」と、己を鼓舞して走り続けた自分自身を褒めてあげたい。
やがて、寄木氏が動きがピタリと止まった。
遅れながらも何とか追いつくと、目の前には大きな公園が広がっていた。
呼吸を整えて額の汗を拭いながら、公園の入り口の案内板を見ると、そこには「中央運動公園」と書かれていた。
「いた」
寄木氏が指差す方角には、なんと草むしりに勤しむ来栖さんの姿があった。
来栖さんの周りには、ご高齢の方たちが作業着姿で同じように草をむしっては大きなゴミ袋に詰めている。
よく見ると草だけでなく、それと同時に空き缶やお菓子のゴミ袋も拾っては、それもゴミ袋に回収している。
既にパンパンに膨らんでいるゴミ袋が四つまとめられている。
「凄いよね来栖さん。実は昨日、他の場所で作業しているのを見つけて、こっそり参加している方に来栖さんのこと聞いてみたの。あの方たちはボランティアで街のゴミ拾い活動をしてるんだけど、来栖さんは学校終わりによく参加してくれるんだって。何か、それ聞いて、本当に来栖さんって人のために何かをしたい人なんだなーって…うん。自分がちっぽけな存在な気がしちゃう」
「小生も同じです!来栖さんと言う方を、知れば知るほど、自分が小さい存在だと思わされてしまいます」
だが、それが来栖さんの魅力なのだ。人のために自然と動けてしまう来栖さんから、小生は何かを学びたいと思っているのかもしれない。
寄木さんが腕時計を見る。
「いつも日が暮れるまでは作業をしてるらしいから、あと三十分ぐらいはかかると思う。手伝いたいところだけど、今日は来栖さんにばれたらまずいから、遠くで隠れて待ってよう」
我々は公園の隅で息を潜めながら、身を隠して来栖さんを観察していた。来栖さんは楽しそうに他の方達と会話を交えながら、せっせと公園の草をむしり、ゴミを拾っている。
来栖さんに今、是非聞いてみたい。
「どう言う気持ちで、どういう考えで行動しているのか」
来栖さんの考えを知ったところで、凡人の小生にそれを理解出来るかどうかは分からないのだが…今度聞ける機会があったら聞いてみよう。
四十分後、夕陽が落ちて辺りが真っ暗になった。
公園のゴミ拾いをしていた方々は、公園の中の時計台の下に大きなゴミ袋を集めて何事かを話し合っている。
来栖さんは笑みを浮かべて一礼し、スクールバックも持って歩き出した。
公園を出た来栖さんは、駅に向かって歩いて行く。我々は一定の距離を保ちながら尾行を続ける。
「家に帰るのでしょうか?」
「どうだろう。まぁ日も暮れたし、そろそろ帰ってもおかしくないよね」
バレないように尾行して歩くと言うのは、大変疲れる。いつも全く使っていない神経を使っている感覚だ。
駅が近づくにつれ、また人が多くなってきた。
…何だ?
妙に人の視線を感じる。
明らかに、通り過ぎる人達が我々を見ている。
いや、我々ではない。集まる視線の先を追うと、寄木氏の顔があった。
「あの子、芸能人?」
「モデルかな?」
なるほどなるほど。そう言うことか。
「ね、ねぇ、田村くん。何だか、みんなが見てない?」
「はい。皆様、寄木氏を見ております。その美貌に見惚れておられるのかと」
「そ、そんなことないでしょ。田村君の勘違いだよ」
「…因みに、何か変装道具などはお持ちなのでしょうか?」
「い、一応、隠れるときのために、帽子は持ってきた」
「被りましょう。今すぐに」
寄木氏が持ってきた帽子はツバが長く、目元が影になって隠れるタイプだった。寄木氏の溢れ出る美しさが、帽子一つですっぽりと隠される。
帽子を被って顔を隠した途端、周囲のざわめきが嘘のように消えた。集まっていた視線は靄のように、周囲に広がっていくようにして消えていった。
「あ!来栖さんが走り出した!」
前を歩く来栖さんが突然駆け出した。
もしや、我々の尾行に気が付かれたか?それとも、まさか近辺にあの男がいるのか⁉︎
「ん?」
来栖さんが前を歩いていたサラリーマンの肩を叩いた。何かを渡している。
「あれは…ハンカチ?」
サラリーマンが振り向き、来栖さんに頭を下げて、ハンカチを受け取った。
「落とし物を拾ってあげたのかな。来栖さん凄く親切だね」
それからまた歩きだした来栖さんは、他にも携帯電話と睨めっこしている外国人に話しかけては、ジェスチャーを交えて道案内をしたり、ベビーカーが段差を超えられないのを見ると、駆け寄って手助けしたりしていた。
人のために行動している来栖さんの姿は、とても輝いて見えた。オーラを態々視なくったって分かる。来栖さんは輝いている。
何か違和感を感じ、ふと、道路を挟んだ反対側のビルを見ると、居酒屋の看板に隠れて我々と同じように来栖氏の様子を伺う不審人物を発見した。
「よ、寄木氏。いました。バスの男です」




