表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/8

田村仁の、男の見せ所②

人目のない場所を探すと、体育館裏が静かで人がいなかったので、適当な段差に小生は腰を下ろす。寄木さんは腰を下ろさず立ったままだ。


別に小生に気を使う必要などないのに。律儀な人だ。


「…この前の一件の男が、現れたんですか?」


「昨日、塾の帰りにバス停に行ったら、あの人がいたんです。私、怖くて…。でも、帰らないといけないから知らない顔してバスに乗ろうと思ったら、『あ!』って怖い顔して来たから叫んで逃げたんです。人も多かったし、追いかけて来なかったから良かったんですけど…。その日はタクシーで帰りました。流石に今日も塾があるし…。どうしたらいいと思います?」


「それは、困りましたな…。ご両親に相談は?」


寄木さんの口がへの字に曲がった。前髪で目が見えないぶん、表情が口元一点に出るため、寄木さんの気持ちを知ろうとするなら、口元にだけ集中しておけばいいい。

一度口が開きかかり、閉じる。そしてまた、開くが、声が出ない。

小生は何も言わずに寄木さんを見ていた。グラウンドのある方から「ボールこっちー!」と声が聞こえる。

体育館の裏手は道路に面していて、車が二台通り過ぎた。小生は車に興味がないから車種は知らないが、小さい車と、荷物を積んだトラックだった。


「だ、誰にも言わないで欲しいんだけど…」


「もちろんです。小生、口はコンクリートより硬いと自負しています」


心配せずとも、喋る相手がいないので安心していただきたい。


「私の家、片親で。お父さんが育ててくれてて。夜遅くまで働いてるから、あんまり、心配事を持ち込みたくないの。小学生の頃、お母さんが家を出てから、ずっと育ててくれた。長い間、お父さんは無理をして、何回か身体を壊してる」


「寄木さんはお父様が大切なのですね」


「…まぁ」


モジモジして照れくさそうにしている寄木さんが可愛らしい。


これは寄木さんのためにも何とかしなければならない。何とか彼女の気持ちを大事にしたいと思う小生である。


「承知しました。けれど、どうして小生にその話しをしてくれたのです?」


来栖さんの方が頼りになりそうでは?と言おうと思ったが、プライドが邪魔して言わなかった。


「…口、硬いんですよね?」


「愚問です」


「…相談したんです。そしたら、田村さんが絶対いいって」


「ほう。そんな嬉しいことを仰る方がいるのですか?」


「彼女です」


寄木さんが僕の後ろの地面を指差した。あら。そこには可愛らしい雀が一羽いた。


「彼女とは?」


寄木さんが手招きすると、雀が羽ばたいて彼女の肩に止まった。寄木さんのペットなのだろうか。ペットが雀とは珍しい。


「私、生き物と会話が出来るんです。田村くんの話しはこの子から聞きました」


「生き物と会話?」


肩に乗った雀が羽を広げて「ピー」と鳴いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ