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「あ、あの…」
アリスの前で、恥ずかしそうに『彼女』が俯いていた。
アリスの紫の部屋の隣には小さな部屋があって、紫の部屋の中が見れるようになっていた。
ナイト曰く、紫の部屋からはこっちは見えないらしい。何かトラブルがあったらいけないから、来客の時はよくこの部屋にいるとのこと。
「やっぱりナイトさんのナイトって騎士なんですね」
そう僕が言ったら、ナイトは少し顔を赤くして、首を横に振り、唇に人差し指を当てた。
そうだった。来客中。私語は厳禁。僕は気を引き締めて隣の部屋を観察することにした。
『彼女』の前のアリスは、紫の布に包まれていて、僕からその表情は窺い知れない。
「予約が取れて、びっくりしているのですが…」
恐る恐ると言った感じで、『彼女』が言う。
「本当に1万円で占ってもらえるのですか?」
あれ?と僕は声を出さないように口を押さえながら首を傾げた。今回、僕はこの件で動いていたはず。バイト代で計20万円は受け取っているし、住まいに食事も…。どういうことだろう。まったく計算が合わないと思うけれど。
「ふふふ…」
いつもより低めの笑い声がアリスから漏れて、僕は我にかえった。
「『アリスの館』は占いはあたるが、価格が高い、という噂があるのは知っていますよ」
僕もその噂は知っていた。だからこその僕のバイト代だと思っていたんだけど。
「ふふふ…価格は占い内容によって、適正価格でやらせていただいていますよ」
だから心配しないでください、と言うアリスの言葉に『彼女』はコクコクと頷いていたけれど、僕はなんだか納得できないものを感じていた。
「それでは占っていきましょう」
アリスは、ブツブツと呟きながら手を掲げ、そして、ポツポツと語り出した。
「きっと上手くいくことでしょう」
やがて、アリスがそうまとめると、『彼女』はありがとうございました、とテーブルに頭をつけんばかりに下げると、嬉しそうに去っていった。
翌日、飯田と大学帰りにカフェでコーヒーを飲んでいると、『彼女』が現れた。店は満席。だけど僕らは4人席に2人。
「あの…ご一緒してもいいですか?」
「うん、もちろん。吉野さんだよね」
宇佐も問題ないよな、と言われた、僕は慌てて頷いた。
『彼女』・吉野は、飯田の言葉に嬉しそうに微笑むと、飯田の向かい側に座る僕の隣に腰掛けた。
それから1週間後、飯田の隣には、吉野の姿があることが多くなり、僕はなぜか少し寂しさを感じるようになった。
そして、そうこうしているうちに、8月になり、僕は長い夏休みに突入した。
第1章終了です。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。