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「疲れたぁ」

 僕は『アリスの館』の自分の部屋に辿り着くと、ポスン、と布団の上に倒れ込んだ。そして、顔がニヤついていることに気付いて、なんだか恥ずかしくなった。だって…なんだか『友達』っぽかった。


 隣で一緒に講義を受けて、学食で一緒にランチを食べて…そうそう、連絡先も交換した。それにしても、飯田は凄い。ランチの時なんか他に3人もの友達と一緒だった。どうやらみんな同じ専攻の同級生らしいけど、僕は飯田の隣に座って彼らの話にたまに相槌を打つくらいしかできなかった。残念ながら、『彼女』の姿はそこにはなかったけど、特にアリスたちから『彼女』については何も言われていないから問題ない…はず。

 ああ、僕は初めてなんだか大学生活を満喫している気がする。まぁ、まだ入学してたったの3ヶ月しか経ってなくて、大学生活は4年もあるのだ。


「あ、でも…」

 ふと、僕はあることに気付いてちょっと寂しさを感じた。

「あと1ヶ月もしないで夏休みかぁ…」

 うん。その頃には、帰って来て欲しいと頼まれて、仕方なく家に帰っているかもしれないな。



 夕食後、僕はアリスとナイトを前に緊張していた。

「飯田くんと『友達』っぽくなりました」

 そう報告したら、なんか2人してニヤリと意味ありげに笑うから。

 なんか、間違えただろうか。

「そう、よくやったわ…」

 アリスが怪しい笑みを引っ込めて、いつもの笑顔になってそう言ってくれたが、なんだか褒められている気がしないのはなぜだろう。

「それで?色々聞かせてちょうだい」

 僕は、アリスに促されるまま、飯田の親切さやランチで食べたメニュー、そして、送ってもらった講義メモ等について報告した。

「講義メモ?」

 アリスの目がキランと光った気がした。

「見せてちょうだい」

 僕はタブレットを持ってくると、飯田が送ってくれたデータをアリスに見せた。

 アリスは食い入るようにそれを見ながら、時折頷いたり、腕組みをしたりしていたが、僕らが受けた講義内容に興味があるわけではないよね?

「うん、うん…やっぱり……の結果と一致しているわね…あとはもう少し…」

 ブツブツと呟いているアリスの様子は怪しくて、僕はなんだか見てはいけないものを見てしまった気がした。


 僕はアリスに報告を続けた。

 飯田はいい奴で、はじめて話をしてから1週間経った頃には「飯田くん」から「飯田」と呼ぶ許可が出て、なんだかその日はウキウキしながら帰った。

 話を聞いたアリスとナイトはやっぱりニヤリと笑った気がしたけど、気のせいだと思いたい。そう言えば、飯田ははじめから僕のことを「宇佐」って呼んでいたなぁ、なんて不思議に思ったりもしたけれど。


 とにかく、僕は大学に行った日は毎日アリスに報告した。

 今日はどんな会話をした、どんなものを食べた、帰りにどこに寄った、などなど。報告は、「友達」との今日の出来事を報告するみたいで楽しくもあり、その一方で、勝手に飯田のことを教えているみたいで、なんだかモヤモヤとしたものもあった。


 報告をはじめて2週間くらい経ったある日、僕の報告を聞いたアリスは満足そうに頷いた。

「うん、終わっていいよ」

 笑顔でアリスにそう言われ、僕は愕然とした。

「…じゃあ、もう、飯田とは…」

 話したりできないのだろうか。はぁ、せっかく色々話すことが出来るようになってきたのに。

 思わず俯いた僕の頭をナイトがガシッと掴んで上を向かせた。

「おい、ラビット。あくまでも調査が終わりだからな。『友達』は続けたかったら続けろよ」

 エッ?あぁ、続けていいんだ。

 上を見上げると、ナイトが少し顔を逸らしながら、「同級生なんだから『友達』でいいじゃないか」と言っていた。その顔が若干赤い気がしたけど、風邪ひいたのかなぁ。


「うん、完全に一致しているわ」

 ふふふーん、と鼻歌を歌いながらアリスが去っていく。なんかよくわからないが、アリスはとても機嫌がよさそうだ。

 そして、僕も。これからは、多分、何も気にせず飯田と『友達』でいられる。

 きっと明日は素敵な日になる。

 僕は弾む心を押さえながら部屋に戻った。

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