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3-1

「一度家に帰ったらどう?」

 そうアリスに言われたのは、アリスのバースデーパーティーの翌朝だった。

 やっぱりプレゼントを用意しなかったのが不味かった?と恐る恐るアリスを見てみたが、特に怒っている様子はない。

「もうすぐお盆でしょ。私たちもその間は家にいることになるし」

 家、とはここではなく、昨日のパーティーがあった家だろう。

「別にラビットも一緒に菅原家に来てもいいわよ」

「帰ります」

 僕はアリスの言葉に慌ててそう答えた。



「ただいま…」

 黙って家に入るのも決まりが悪いから、僕は小さな声でそう呟いて靴を脱いだ。

「お帰りなさいませ」

 そう言って迎えてくれたのは、お手伝いさんの千代(ちよ)。真っ白な髪を後ろでビシッとまとめていて相変わらず姿勢が良い彼女が、柔らかい笑顔で前と変わらず迎えてくれて、僕は正直ホッとした。1ヶ月ちょっとぶりの我が家だが、多分変わってはいない。

 僕はそのまま自分の部屋に直行した。


 部屋は出て行った時のままだった。

 相変わらず埃一つ落ちておらず、おそらく定期的に掃除してくれているであろう千代にそっと感謝する。

 僕は部屋のソファーにダラリと座った。

『アリスの館』でも個室だったけれど、やっぱりここが僕の部屋だな、と実感する。まぁ、1ヶ月ちょっと暮らした部屋とおそらく18年以上過ごしてきた部屋を比べるのがおかしいとは思うけれど。

 でも。

 楽しかった。

 それは紛れもない事実だった。


 トントントン。

 ドアを軽く叩く音がして、僕は慌ててソファー上で身を正したが、誰も入ってはこなかった。

「昼食の準備が整いました」

 ドアの外から千代にそう声をかけられ、僕はわかった、と返事をすると、ゆっくりと立ち上がった。


 緊張しながらダイニングに行くと、父はおらず母が一人テーブルに座っていた。僕は黙って母の正面の席に着いた。

 母は僕を見て微笑んできたが、僕はそっと視線を外した。

「おかえりなさい」

 母の言葉に僕はとりあえず、ただいま、と返した。


 時折母が話しかけてきたが、僕は適当に相槌をうつくらいでろくな会話もないまま食事が終わり、なんとなくこのまま席を立ってしまうのも決まりが悪い。

 そうだ。女性のことは女性に聞くのがよいかもしれない。

 僕は思い切って聞いてみることにした。

「…アリ…有理さんの誕生日プレゼントなんだけれど…」

 何を送ったらよいだろうか、とつい小声になりながら母に尋ねたら、母はニッコリと笑った。

「あら、そのことなら大丈夫よ。ちゃんとあなたの名前で贈っておいたわ」

 赤い薔薇の花束にネックレスよ、と母は嬉しそうに教えてくれた。

「ネックレスは8月だからペリドットのものにしておいたわ」

 ペリドット、あの明るい黄緑色の石は8月の誕生石なのか。ふーん、そういや今日の朝のアリスの首には…。

「有理さんの誕生石であるペリドットとあなたの誕生石のダイヤモンドを組み合わせたものよ」


 間違いない。そういえば朝食のテーブルには赤い薔薇が飾られていたような気もする。

 あぁ、アリスには、そしてナイトにもすべて見透かされていそうだなぁ、と思うと、僕は憂鬱になった。

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