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タキシード姿のお爺さんに迎え入れられ、僕らは門を通った。お爺さんの綺麗なお辞儀に、僕はきまり悪くなりながら軽く会釈を返した。
はっきり言って、僕はものすごく場違いだ。ちゃんと言ってくれたら僕だってきちんとした格好を準備したのに、と恨みがましい目でアリスたちの方を見るも、気にする様子はない。
それにしても、門を通ってすぐに広がる綺麗に手入れされた薔薇を中心として形作られた庭は美しい。残念ながら今の季節は薔薇は咲いておらず、薔薇の時期に来たらさぞかし見事だろうな、と想像させられた。というより、その見事に咲いた時期のこの薔薇園を見たことがある気がする。いつだっただろうか。
そんなことを考え込んでいたら、いつの間にか建物の玄関前に着いており、先導してくれたタキシードのお爺さんがドアを開けてくれ、アリスたちに続いて僕も中に入った。
「お、お邪魔します…」
恐る恐る中に入ると、何故かアリスが振り返ってニッコリと笑った。
「菅原家へようこそ」
アリスの言葉に、あぁ、そうだ、ここは菅原家のお屋敷だ、と記憶が蘇った。そして、アリスがようこそ、と言ったということは、もしかして…。うん、今は考えまい。
「宇佐様、お着替えはいかがなさいますか?」
お爺さんから、ラビットではなく、宇佐の名で呼ばれるってことは、この人は僕のことを知っているってことだよね。
あぁ、いろいろ聞きたいことはある。だけど、まずは。あの菅原家の中で自分一人Tシャツにジーンズという格好はとにかく居心地が悪い。
「お願いします」
僕がそう言ってお爺さんに案内してもらおうとすると、私が案内するわ、とアリスがおじいさんを制し、先に立って歩き出した。
連れて行かれたのは立派な客室。ここもなんとなく見覚えがある。10年くらい前、両親と訪れた際もここに通されたのではなかっただろうか。なんだか懐かしい。
「早く着替えてちょうだい」
アリスに急かされながら部屋のクローゼットを開けると、そこには家に置いてきたはずの服がいくつもぶら下がっていて、僕は首を傾げざるを得なかった。
「どういうこと?」
思わず漏れる言葉に、どういうことだろうなぁ、とナイトがニヤリと返す。ということは、ナイトもなんか色々と事情が分かっといるということだ。
とりあえず僕は、クローゼットの中から一番着慣れていたスーツを取り出すと急いで着替えた。
着替えの間は部屋の外に出ていてくれていたアリスは、着替えた僕の姿を見て、ふーん、と頷いた。
「まぁ、いいんじゃない」
アリスの言葉にホッとしつつ、でもまだ全く分からない状況にホッと出来ず。
「あの…アリスさん、色々教えて欲しいのですが…」
恐る恐る僕はそう言ったが、アリスはニッコリ笑って、両手でバツを作った。
「ダメよ。それじゃぁ、面白くないじゃない」
アリスの言葉に、呆然とする。面白くない、ってどういうことだろう。
「それと」
アリスはさらに笑みを深めた。
「ここでは、アリスやナイトとは呼ばないでね」
本名を教える気は全くない様子でそう言われた。アリスに関しては、おそらく、という予想があるけれども、自信がなくて、その名を口にする勇気はない。
「わかった?」
アリスに顔を近づけられながらそう言われると、僕は、はい、と返事せざるを得なかった。




