忘れない
「あなたの名前は『ゼロ』、何も持っていない『出来損ないのゼロ』よ。最後に名前を貰えてよかったわね。」
『ゼロ』?ふざけるな!私には両親に貰った麗って言う名前があるんだ!そんな名前なんか要らない!
だが言葉を発しようとするとまた誰かに口を防がれたかのような感覚になる。
やめて! 認めない・・・こんなの絶対に認めない!
「じゃあねゼロ、二度と私の前に姿を現さないでね、さようなら。」
「がぁっ⁉︎」
そう言うとレイリは自分の翼を再び広げると同時に自身の尻尾を使って生まれたばかりの、空の飛び方すらわからない私の身体を横から叩きつけ、そのまま私を岩場の崖から落とした。
「・・・あれ?わたし・・・いきて・・・る?・・・やっぱり・・・ゆめじゃないんだ・・・。」
地面に落ちた衝撃で私はまた気を失っていたようだ。
目を覚ました私は辺りを見渡すと周りは木の茂みに囲まれていて、上を見上げると自分が落ちた崖の山が聳え立っていた。
「いたたたたっ、たぶんぜったいにだぼくだらけだよ・・・。」
だけどそれだけの怪我で済んでいるとも言える。
きっと身体全身を纏っている鱗がレイリの尻尾の攻撃や地面や木にぶつかった衝撃を抑えてくれたのかも知れない。
あんな酷い目にあったのによく生きてたなと思うと同時に死ねなかったという気持ちも徐々に生まれてきた。
「わたし・・・これからいったいどうなってしまうの?」
一体何のためにこの世界に生まれたのか、前世では悪い事なんかしていないのに、むしろ仮にしていたとしてもそんなの全く身に覚えが無い。
もしかして神様的な存在が私を陥れようとしているのか。
そんな自暴自棄な感情が出てくるが、そんな事を考えてる内に逆に頭の中も冷静になっていく自分がいた。
「とにかくおちこんでいてもいられない・・・
いまのげんじょうをなんとかだはしないと!」
とにかく何処か身を潜める所を探さないといけない。
私は全身打撲だらけで慣れない手足で地面を這うようにしてひたすら見知らぬ森の中を歩いて行った。
しばらく歩いていると穴の深さはあまりないが大きなの洞窟を奇跡的に見つけた。
「すごい・・・どうくつなんてぜんせのせかいでもみたことなかったけど、こんなにひろいんだ!」
中は思ったより湿気でジメジメしていた。
中を調べてみると奥の方に砂利になっている地面にバスケットボール程の大きさの穴が空いていて、そこから湧き水が出ていた。
「のどはかわいているけど・・・のんでもだいじょうぶなのかな〜これ?」
だが生まれてから何も口にしていなかったせいもあってか勇気を振り絞り、湧き水を口の中に入れて飲んでみた。
「・・・おいしい・・・ほんとうにおいしい・・・これがみずなの?」
初めて口にするのが水というのもどうかと思うが、前世で飲んでいたミネラルウオーターとは比べ物にならないくらい美味しい。
気がつくと自分でも引くくらい夢中になって飲んでいた。
「おいしかった・・・!わたしがいままでのんでたみずはなんだったんだろう?・・・あははっ、こんどはおかあさんのてりょうりがたべたいな・・・。」
ふと一言、無意識にそんな事を言った瞬間、目から涙が大量に溢れ出てきた。
「あれ・・・なんで・・・?
きゅうに・・・なみだが・・・でて・・・きて・・・・・・う・・うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜ん。」
その後の事は全然憶えていない。
だけど、今まで経験した事のない悲しみや怒りを今日一日で味わったことを私は一生忘れない。
次でゼロ視点は最後の予定です。