育児放棄
レイリと名乗るドラゴンの掌から小さな光る玉が浮き出てきた。
「少し痛い思いをしますが我慢しなさい」
そう言った瞬間光る玉が一瞬で私の身体の中に入っていった。
「ぐわぁぁぁぁぉぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
少し痛いどころ問題じゃない、身体が焼けるように熱い、身体全体が何かに上書きされている感じがする。
更には頭の中に無理矢理知らない知識が流れこんでくる。
もうやめて!私が私で無くなってしまう!
心の中でそう叫ぶと私は意識を失った。
「・・・うぅ、ここは・・・えっ?」
寝ぼけてはいたが言葉を出した事にまず驚いた。
そうか、さっきの痛い思いはやっぱり夢だったんだ。
よかった、夢とはいえあんな目にはもう二度とあいたくない。
そろそろお母さんと弟も家に帰ってくるだろうし晩御飯でも作って待っとこう。
そう思ってうつ伏せになった身体を起き上がらせようとした時、ふと自分の腕に目がいった。
明らかにさっき見たドラゴンの腕がまだ付いていた。
えっ?まだ私夢見てるの⁉︎いい加減目を覚ましてよ私!
そんな事を思っていると後ろから
「あら、目が覚めたのね。」
びっくりして後ろを振り返るとさっきの夢に出てきたエメラルドグリーンのドラゴン・レイリが声をかけてきた。
「まさか気を失うとは思わなかったわ、でもまぁ目が覚めてよかったわ」
いいわけあるか!こっちからしたらえらい迷惑だわ!
「一応説明しておくとさっき私があなたに与えたのは我々龍族にのみ与えられる[伝承の加護]と言うものよ、覚えておきなさい」
一体何を言っているんだこいつは?龍族?加護?全くもって意味がわからない。
「簡単に言うとあなたに龍としての力を与え、この世界の知識、言葉を与えます」
待って・・・本当に理解が追いつかない、確かに私の知らない知識が流れこんできたのは憶えているけど・・・まさか・・・本当な現実なの・・・?
だとしたら、ラノベ小説なんかでよくある異世界転生って事なの?
「さて、あなたはどんな属性の魔力を持っているのかしら?ちょっと[鑑定]させてね」
レイリがそう言うとうっすらと目の色が変わった。
出た!異世界転生の話でよくある[鑑定]って言葉。
夢でも現実でも実際言われるとテンション上がるな〜。
そんな呑気な事を思っていると、
「あ〜、どうやら期待外れな子が生まれてきてしまったようね」
レイリの雰囲気が変わったのを身体全身で感じ取った。
「結果から言うとあなたはこの世界で6つある属性の内、どれにも当てはまらないどころか魔力を一切感じなかった」
一体どういう事・・・?魔力を感じなかったって・・・。
「あなたは魔力無しの忌み子ってことよ。」
そう言うとレイリは何事も無かったかのように後ろに振り返り、大きな翼を広げてどこかに飛び立とうとした。
「ちょっ、ちょっとまって!わたしをおいてどこにいこうとするの⁉︎」
「・・・もうあなたに興味が無くなっちゃったの、それにどこに行こうと私の勝手でしょ」
「ふざけないで!わたしひとりでこんなきけんなばしょにおきざりにしないでよ!」
今私がいる場所は眺めがいいだけの崖がすぐ近くにある広めの岩場だ。
こんな所で初っ端から育児放棄されたんじゃたまったもんじゃない!
「あなた生まれたばかりなのによく喋るわね・・・だって正直すぐにでも殺してやりたいけど同族殺しは龍族ではご法度なの、むしろ生かしてあげる事に感謝しなさい」
こいつ本当に何を言っているんだ、産みの親だからってそんな事許されていい筈がない!
「はいはい、わかりました。
じゃあ最後のお情けにあなたに名前を授けてあげる、それでいいでしょ?」
レイリの若干投げやりな言い方に腹が立ち、
「わたしにはちゃんとしたなまえがあるの!わたしのなまえは・・・⁉︎」
自分の名前を叫ぼうとした瞬間、まるで誰かに口を防がれたかのように、私の、高見 麗と言う名前が口から出てこなかった。
「何を言っているの?生まれたばかりなのに名前なんてある訳無いでしょ」
「そっ、そんな・・・うそっ⁉︎なんで⁉︎」