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対話、その後に

 七色に揺らめく魔力の波動。


(先生の魔力波ってきれいだなあ)


 ルナは師にお姫様抱っこされながら、うっとりとため息をこぼす。


(それに、やっぱり先生はすごいな)


 肉体の外へ放出された魔力が目に見えるのも相当な魔力が必要だ。

 物理的に外界へ干渉するのはさらに上。ましてそれだけで岩をも砕くとなれば、史上最強と謳われた勇者の領域だ。


 彼女は師の正体を知らない。

 しかし勇者並みの強さを持っているとは知っていた。

 ゆえに彼女は秘密にするとの条件で、彼に師事したのだ。



 ジークと黒竜が睨み合う。

 しかし固まって動けない風のドラゴンに対し、ジークは涼やかな笑みを浮かべていた。


「我が声を聞け」


 静かに放った言葉はしかし、七色の魔力波に乗ってダーク・ドラゴンに襲いかかった。


「僕とこの子に、貴方と敵対する意思はない。話を聞いてほしい」


 黒竜は目を細めると、首を垂れてジークへ向けて顔を突き出した。


「ありがとう。ここへ貴方を討伐する部隊が向かってきているのは知っているかな?」


 黒竜は微動だにせず、それでいて強い意思を目に宿した、直後。


『承知している』


「しゃべった!?」


 びっくりして声を出したルナは慌てて手で口をふさぐ。


「なるほど。ここで迎え撃つつもりだったのか」


『然り』


 大街道沿いは広い平地だ。個の武力が高いハーキム伯爵と、手練れの兵士たちが連携すれば四方からの攻撃に対処しきれない。

 一方、岩だらけの斜面では足場が不安定。連携は取りにくい。対するドラゴンは上空から黒弾で落石を誘発すれば多くの兵の動きを封じられる。


「けれど確実とは言えない。彼らを退けられても、深手を負う危険は高いと思う」


 黒竜は無言でジークを睨んだ。


「失礼。可能性の話をしたまでだよ。でも危険がある以上、無理をする必要はないよね?」


『尻尾を巻いて逃げろと? これ以上の屈辱を味わえと?』


「おそらく長旅で(・ ・ ・)休息中に問答無用で襲いかかられたんだろうから、相当腹が立っているのは理解できる。でも貴方は屈辱を飲みこんでも優先することが、あるんじゃないのかな?」


 またも黒竜は押し黙った。苦々しげにジークをじろりと睨む。


「この山を越えてずっと北へ進んだ山脈が、貴方の目的地では? だったら人の部隊なんかには関わらず、早く行ったほうがいいと思うよ? 先を越されちゃうかもしれないからね」


 悪戯っぽく笑うと、黒竜は首を持ち上げた。


『ふん、何もかもお見通しか。それこそ癪ではあるが、従わずば貴様に追い立てられような』


 背の翼がばさりと羽ばたく。巨躯が浮き上がった。


『怒りに任せて連中と戦っても同じか。事を成す前に自慢の鱗が傷つけられてはたまらぬ。提言、受け取るとしよう』


 ぐんぐん高度を増したダーク・ドラゴンは、やがて山向こうへと消えていった。


 ジークは魔力の放出を止め、ルナを降ろす。


「先生、あのその……ありがとうございました!」


 勢いよく膝に顔をくっつけるほど頭を下げたので、赤いポニーテールがぶおんとジークを襲った。


「あまり無茶はしないでくれ。ケガをするならまだしも、死んでしまったら僕にはどうにもできないからね」


「ごめんなさい……」


 しゅんとするルナの頭をそっと撫でると、くすぐったそうな嬉しそうな表情になった。


「ところで先生、ドラゴンさんとのお話って、つまりどういうことですか? 最後のほう、話がよくわからなかったんですけど」


「あの個体はね、お嫁さんを探す旅をしているんだよ」


「はい?」


 ドラゴン種は棲み処が重ならないよう、世界各地に散らばる。一方で繁殖の適齢期になると特定の場所に集まってパートナーを見つける習性があった。


「北の国境を越えた山脈が、彼らの出会いの場のひとつなのさ」


 また彼らは地脈から魔力を吸って自らの力に変える。

 あの黒竜は遠方からそこへ向かう途中、長期に及ぶ旅で力を使い果たしたので、一週間ほど大街道付近の地脈上で羽を休めていたのだろう。

 そこを見つかり、討伐隊に襲われたのだ。


「そ、そんな習性があったんですね」


「一般には知られていないよ。魔物は謎の多い生き物で、特にドラゴン種は人の寄りつかないところで生活するのが基本だからね」


 なるほどー、と感心するルナは目をキラキラさせる。


「それで先生、ドラゴンさんとお話しする方法は――」


 前のめりになった彼女をジークは手で制した。


「その辺りの講義はまた今度かな。そろそろ討伐隊が到着してしまうよ」


「あっ、そうでした」


「彼らにはうまく誤魔化しておいてよ。もちろん、僕がここに来たことも内緒でね」


「はい! わたし、ちゃんと嘘をついてみせます!」


 元気いっぱいの返事に苦笑が漏れる。

 ルナは大きく手を振って、討伐隊のところへ戻っていった。


(さて、それじゃあ僕は――)


 ジークは、自身の(うち)にある感情のスイッチを切り替えた。


 ――狩りにでも行くか。



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