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偽の賢者の英雄譚 ~亡き親友《とも》のため、【最強】は世界を欺き伝説となる~  作者: すみもりさい
第四章:新たなる聖王国

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信頼に足る協力者

 父が自分を呼びつけるなんて珍しい。定期報告さえしていれば問題なかったのに。

 だからこそ嫌な予感が頭から離れてくれなかった。


 ロマ・リーグはコンコンと控えめにノックして中に入る。

 執務机についてこちらを見据える父から思わず目を逸らしてしまった。


「今日はあのふざけた調子のノックではないのだな」


「……父上、私にどのようなご用件でしょうか?」


「私がお前を呼びつけた。その一点をもって察することもできぬのか?」


 質問を質問で返されるのはよくあること。

 どのような回答を求められているか理解しつつも、自分から口にするのはプライドが許してくれない。


「苦い顔をしているな。相変わらず私の前では感情が顔に出る」


 淡々と告げた父は机の上に小瓶を置いた。親指ほどの大きさで、液体が入っているようだ。


「遅効性の睡眠魔法薬だ。数滴なら安眠を誘う程度だが、この瓶の半量でも摂取すれば三十分で意識が混濁し、昏睡の一歩手前までになる」


「ちょ、父上? まさかとは思うけど、それをクラリスに……?」


 無言で見据えるのが答えらしい。


「ですが、相手は女王陛下です。口にするものは毒見されますから……いや、遅効性なら誤魔化しようがあるの、か……?」


 毒見役に効果が表れる前に魔法なり薬なりで解毒すればいい。


「毒見があるにせよ、差し出した物をその場で口にする程度の信頼関係は構築しているのだろう?」


「それはまあ、そうですけど……いやでも、昏睡させて私に何をさせようっていうんです?」


 回答を知りつつの質問は、やはり事が大きいだけに責任の所在を父に押し付けたいがため。


「やることはひとつだ。どのような手段であれ、既成事実を作ってしまえば陛下の心も折れよう。薬が効き始めてからは記憶が覚束なくなる。事後はそのよく回る舌で言いくるめておけ」


 簡単に言ってくれる、とロマは内心で舌打ちする。

 だが状況は停滞し、打つ手がなかったのも事実だ。


「わかりました。やってやりますよ」


 ロマは小瓶をつかむとポケットにねじこんだ。


「私はこれより自領へ戻る。朗報を期待しているぞ」


 ロマが退室すると、ユアロ・リーグ――に扮したフェリが念話を始めた。


『ご主人様、こちらの首尾は上々です。わたくしが父親だと、まるで疑う様子もありませんでした』


『お疲れさま。それじゃあ僕も動くとするかな。リーグ領では慌ただしくなると思うけど、よろしく頼むよ。変身が解ける時間には気をつけてね』


『承知いたしました』


 フェリはすぐさま従者を付けずに顔を隠し、屋敷を後にした――。




 オレリィ・ラガットは側仕えとして五年を現女王、かつての王女と一緒に過ごしている。

 まだ二十二になったばかりであるが、入れ替わりの激しい王女付きの中では古参と呼べた。


 凋落著しい子爵家の長女である彼女は、御家再興の一手と満を持して王宮に送られる。


 もっとも彼女は一家を背負う気概がなかった。

 ありふれた容姿に平凡な能力。どうせ一、二年でお役目御免。王宮勤めの箔をつけて適当に知り合ったどこぞの貴族家の三男坊辺りとでも婚約できればいい方だと、軽い気持ちで臨んでいた。


 ところが、当時の王女で現女王クラリスとはものすごく気が合った。


 なにせ互いの〝推し〟が被らず親友同士という抜群な状況。


 勇者にご執心なクラリスに対し、オレリィは平民出でどこか陰のある賢者に惹かれ、親友同士のただならぬ関係を夢想して楽しんでいたのはさすがに隠していたものの、それぞれの魅力を夜遅くまで語り合ったものだ。


 だから、であろうか。

 オレリィは至高の賢者が魔族を手引きして勇者の殺害を企んだとはまったく信じていなかった――。



 とある夕刻。

 早くに仕事を終えたオレリィは大聖堂にある礼拝堂に入った。一日の終わりに神への祈りを捧げる日課をこなすためだ。


 大勢が彼女と同じ理由で大勢の人が集まる只中で、オレリィは一人の青年を見つけて息を呑んだ。


 白を基調とした衣装が多数を占める中、髪と同色の漆黒のローブ姿の彼は実に目立つ。

 静かに目を閉じ、唯一神の巨大彫像に首を垂れる彼は紛れもなく、三年ぶりに見るオレリィの〝推し〟その人だった。


 礼拝を終え、あろうことかこちらへ歩み寄ってくる。

 余裕など吹っ飛んだオレリィは硬直するのみで何もできなかった。


「おや? 貴女は……オレリィ・ラガット嬢、でしたか。お久しぶりです」


 まさかの呼びかけ。しかも名前まで覚えてくれていた。


「は、はひぃ……」


 天にも昇る気持ちで舌が回らない。


「今から礼拝ですか?」

「はひ……」

「もしお時間があるのでしたら、その後すこしお話しさせていただいても?」

「あい……」


 正直なところ、この間の記憶がない。

 気づいたときには礼拝堂の片隅で、並んで座っていた。


「……あの、僕の声は聞こえていますか?」


「はぅえっ!? ……っと、なんでしょうか?」


「ですから、女王陛下のご様子はいかがかと」


 一瞬誰のことかわからなかった。

 オレリィにとってクラリスはやんちゃな姫君で、このところの陰鬱とした姿は三年前の一時期に重なるので否定したい気持ちでいっぱいだったのだ。


「クラリス様――陛下は最近ご多忙でして、いろいろな出来事が積み重なって元気がありません。特に先代聖王陛下がその……、ジーク様を暗殺せよと命じられたとのことで、気に病んでいらっしゃるようで……」


 先代聖王ジルベールが勇者暗殺を命じた件は公にされていない。

 自害する現場にいた者たちには緘口令が布かれていたのだ。


 もっとも人の口を縫いつけるわけにはいかない。

 市井にも噂は飛び交い、そう仕向けたのは他ならぬジークであった。


「なるほど。お辛い状況の中で、それでも政務に励んでいらっしゃるのは陛下の強い愛国心と責任感によるものだけではありません。きっと、貴女が支えているからでしょうね」


「そ、そんな、私なんてなんの役にも……」


 憧れの推しに褒められて、オレリィは有頂天になる。


「……やはり貴女は信頼に足る人だ。久しぶりに話をして、三年前と変わらず陛下に尽くされているのがわかりました」


 ジークは頭を下げる。


「試すようなことして申し訳ありませんでした。実は貴女に声をかけたのは、お願いしたいことがあったのです」


「試す? ああ、いや、べつに気にしませんというかむしろご褒美というかげふんげふん……それで、お願いというのは……?」


 真摯に熱っぽい視線をまともに受け、頭が沸騰しそうだ。


「最近、陛下に近づく輩がいると聞きました。先日は二人が一緒にいるところにも出くわしまして」


「ロマ・リーグですね。あの不遜にして軽薄な男はいつか寝首を掻いてやります。ええ、刺し違えてでもクラリス様から引き離し――はっ!? 私ったらなんてはしたない……」


 急に殺気立ったかと思うと顔を真っ赤にしてうつむいたオレリィに、ジークも思わず苦笑した。


「僕も彼にはよい印象を持っていません。そこでとあるお方の許可を得て、周辺を探っていました。すると――」


 ユアロ・リーグの屋敷の使用人が妙な魔法薬を入手したのを確認した、と告げる。


「遅効性の睡眠魔法薬です。命にかかわるものではありませんが、相当量を服用すれば昏睡状態に陥ります」


「睡眠……どうしてそんなものを?」


「わかりません。しかし陛下に使用される危険が万が一にでもあれば――」


「まさか寝ている間にいやらしいことをするつもりでは!?」


 思わず立ち上がって叫ぶと、礼拝堂にいた者たちの視線が一気に集まった。


「お、お騒がせしました……」


 オレリィはすとんと腰を下ろし、耳まで真っ赤にする。


「で、でも、冷静に考えて陛下に薬を盛るなんて不可能ですよ?」


「あらゆる事物には何かしらの綻びがあるものです。不可能と思われることにも、小さな隙はあるかもしれない。特に人が関わるものは疲労や油断、慢心などが折り重なって隙を広げてしまいます」


 なるほどたしかに、とオレリィはうなずく。


「逆にあえて隙を見せることで、不届き者を罠に嵌めることもできます」


「えっ、それって……」


 わざと薬を盛れる状況を作ってやる、という大胆な策だ。


「さすがに陛下になんの相談もなく、とはいかないでしょう。不義極まりないですし、そもそも陛下の協力がなければ難しい。でも貴女の言葉なら、陛下も承諾してくださるでしょう」


 ジークは具体的なやり方を説明し、ポケットから小瓶を取り出した。


「これは件の魔法薬の対抗薬です。完全に効果は消せませんが、すこし眠気が表われる程度に抑えられます。念のため持っておいてください」


「わ、わかりました。私、がんばります!」


 まさかの推しとの共闘に、オレリィは天にも昇る気持ちになった。


「ああ、でもひとつ。僕がお願いしたとは、陛下には言わないように」


「? どうしてですか? 成功すればルティウス様の功績になりますのに」


 ジークは肩を竦めて言った。


「僕は陛下に嫌われていますから。そのせいで協力していただけないかもしれません」


 そんなことはない、とオレリィは思うも。


「わかりました。秘密にしておきます」


 ただしすべてが上手くいったなら、


(話しても、構わないですよねー)



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― 新着の感想 ―
[良い点] オレリィただの貴腐人かと思ったら意外と気概あるやんけ 気に入った! 存分に推しで妄想して良いぞw
[一言] 現女王とそのおつきがコロコロされるのが楽しいね
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