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捜査協力

 エドワード殺害を企んでいた魔族たちは情報を引き出してのち、とある屋敷の前に死体を放置した。

 明確に企みが失敗したと、裏で糸を引いていた者たちに知らしめるのが目的のひとつ。


 一方で魔族から得た情報から、彼らを聖都に招き入れた聖王国貴族の名が明らかになった。

 魔族たちの死体を置いたのは、その人物の屋敷の前だ。


 勇者殺しに加担した一人。


 偶然、とは断じきれない。

 聖王を除き連中は軒並みこの三年で出世して、要職に収まっていた。しかし三年も経てば勢いは弱まる。

 より高い地位へ這い上がろうと、他国と通じて資金なりを得んとする者がいてもおかしくなかった。


 その人物は、そうした浅ましい欲に塗れた男だったのだ。

 この機に、彼には社会的にもこの世からもご退場願おう。

 ジークはさっそく動き出した――。




 聖都に魔族が侵入し、死体として発見された。

 おかげで翌朝には上を下への大騒ぎで聖都は大混乱に陥る。


 三日が過ぎたころ、ジークはフェリを連れてハーキム邸から徒歩十分ほどにある屋敷を訪れた。

 この辺りは教会関係者が多く住まう区画だ。


 応接室に通されてしばらくして、波打つ金髪を持つ美しい女性が現れる。


「ようこそ、マティス。無事に聖都へ到着したようでなによりです」


 イザベラ・シャリエル司教長だ。

 部屋の隅に控えるフェリにも挨拶した彼女に、ジークは立ち上がって応じる。


「ご挨拶が遅くなってすみません、イザベラ先生」


「構いませんよ。私も忙しくて時間が取れませんでしたからね」


「もしかして、先生も例の調査に関わっていたのですか?」


 対面でソファーに座ると、イザベラは身を沈ませるのに併せて肩を落とした。


「ええ、ガディフ将軍の邸宅前に魔族の亡骸が放置されていた件で、教会側の調査を指揮しています」


「お疲れのご様子から察するに、あまり進展はなさそうですね」


「伝え聞いているとは思いますが、魔族の亡骸の上には妙な置手紙がありました。ゆえに将軍を一時拘束したのですけれど……知らぬ存ぜぬの一点張りで」


 置手紙には『お仲間をお送りします』とあったので、ガディフが疑われるのも当然だ。

 しかしストラバル王国と通じてその国の王子たるエドワードの殺害を企んでいたとは誰も知る由がない。

 それを示す証拠も得ていないようで、ガディフが解放されるのも時間の問題だろう。


「将軍は軍の要職ですから、軍部側の捜査は彼の無罪を前提に進められています。それどころか『教会側の陰謀ではないか』との憶測まで飛び出す始末。まったく困ったものです」


 げんなりするイザベラに対し、ジークは内心でほくそ笑んでいた。狙いどおり、教会と軍部の対立が起こっていたからだ。


 聖都に魔族が侵入したのは一大事。『わかりませんでした』では捜査指揮官の首が飛ぶ事態だ。

 捜査が難航すれば、犯人をでっち上げてでも決着をつけようとする。

 

 もともと平和な世になり軍部の力が落ちかけていた。教会側はさらなる失墜を求め、軍部は逆に教会を貶めようとする。


 対立の溝を深めるには、格好の材料だった。


「ガディフ将軍は以前から素行がよくなかったように思いますね。彼が将軍になったのが不思議でなりません」


「以前も何も、今でも悪いですよ。彼は三つの禁忌のうち二つを犯しているとの噂が絶えません」


 聖王国では三つの許されざる行いがある。

 ひとつは人身売買だ。奴隷制を認めていないこの国では、エルフやドワーフなど精霊種を含めて売り買いを禁じていた。

 また性産業にも非寛容で、娼館を営めば極刑とされている。これが二つ目だ。


 ただこの二つとも形骸化しており、貴族が領内で行っても堂々とでなければ黙認されているのが現状だ。

 もっともガディフはそれらを聖都で隠れて行っているとの噂だ。さすがに聖王や教会のおひざ元で行う大胆さには、教会側も辟易している。


 そして三つ目の禁忌が、『魔と結託すること』。

 いくら形骸化していても三つが重なれば、軍部も教会の圧力に耐えられなくなる。ゆえにガディフを無罪に持ちこみたいのだ。


 そんな結末を、ジークは許さない。


「僕にも何か協力させてもらえませんか?」


「ぇ? 貴方に、ですか?」


 訝るような視線にも、ジークは真摯に告げる。


「イザベラ先生はあの大法廷でも僕の弁護をしてくれました。その恩に報いたいのです」


「貴方ほどの頭脳の持ち主に手を貸していただけるのは大変ありがたいのですけれど……さすがに子細な情報を教えられませんし、何かしらの権限も与えられません」


「わかっています。僕が独自に調査して、都度報告する。一市民として逸脱しない範囲で黙認していただければ、ね。貴女に迷惑はかけませんよ」


 イザベラは黙考してのち、教え子の黒い瞳を見返した。


「では、お願いいたします。貴方の邪魔をしないよう部下に命じることもできないのは申し訳ないのですけれど……」


「僕が好きでやることです。不自由には感じませんよ」


 では早速、とジークは微笑んで告げる。


「件の魔族たちの目的と、聖都への侵入ルートをお伝えしましょう。彼らから直接(・・)訊いたままを、ね」


 イザベラが目を見開いた――。



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― 新着の感想 ―
[一言] 直接って、、、 いきなり自分が犯人と白状しちゃうんですか
[良い点] いつも楽しく読ませて頂いてます! マティスさん仕事が早いw 次なる獲物をどうさばくのか楽しみです。 [一言] いつも更新ありがとうございます!
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