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都での出迎え

 お昼を前にして、聖都の城壁が見えてきた。

 平原の中をゆるりと流れる大河の側に、これまで訪れた街とは規模が数倍も違う大きさだ。


(ここまでお迎えはナシ、か)


 ジークたちに、ではない。

 仮にも隣国の王子様がやってくるのに、直近の街はおろか聖都がすぐそこにあるのに兵士の一人の出迎えもなかった。


 魔王国大戦から人の側で中心となっていた聖王国と、魔王が滅してようやく国土を奪還した復興途中の弱小王国。

 パワーバランスを考えれば当然と言えなくもないが、エドワードの立場を如実に示すものではあるだろう。


 聖都城門で通行証を見せる間、門兵たちはどこかピリピリしていた。

 こちらはエドワードのみならず、勇者殺しの大罪人が半魔族を引き連れているのだ。警戒や恐れがあるのは当然だろう。


(でも注意のひとつも言われなかったところを見ると、イザベラ先生が手を回してくれたみたいだね)


 実のところ半魔族の問題は聖王国のみならず各国で発生している。

 魔王国で迫害対象であるのは周知の事実となり、積極的に保護する国も、彼らを戦力として使うという打算はあるものの、あるくらいだ。


「ふわぁ~、都会ですねー」


 箱馬車の中でルナが目を丸くする。

 エドワードの命を狙っていた者たちは途中の街で聖王国兵に引き渡し、以降はフェリが荷馬車を操り、ジークとルナは箱馬車に乗せてもらっていた。


「ルナは聖都が初めてなの?」とエドワード。


 道中、同じ英雄学院に通う同級生になるのだから、とフレンドリーに話そうとの提案が彼からあった。


「そうですね。わたし、辺境の村から出たことなかったですから」


 もっともルナは『こういう話し方が慣れていますので』と丁寧な言葉遣いは変えていない。

 それでも『エドさん』と略称で呼びかけるほどにはなっていた。


 城壁近く――聖都の中心部からかなり離れているのに、多くの人で賑わっていた。

 中にはエルフやドワーフといった、人ではないが魔にも属さない精霊に近い種族もちらほら歩いている。


 石造りがメインの三階建て以上の高層の建物もあり、道は舗装されて快適だ。

 だが大通りから一本奥へ入っただけで、薄暗く陰気臭い空気で淀んでいるのをジークは知っていた。


「エド、君はランバート伯の邸宅へ向かうんだよね?」


「はい。名残惜しいですけど、皆さんとはここでお別れですね」


 箱馬車と荷馬車が道の端で止まる。


「授業が始まればまた会えるよ。ルナとは専攻が違うけど、学内で会ったら仲良くしてあげてね」


「はい! 共に研鑽して高め合い、いずれ勇者や賢者と呼ばれるよう精進します」


「エドさん、また会いましょう」


 箱馬車から降りて、荷馬車の御者台に上がったジークは念話でフェリに指示する。


『しばらく彼の護衛を頼むよ』


 山賊にみせかけた襲撃犯以外に、それが失敗した場合に備えて聖都に刺客が潜りこんでいる可能性は十分にある。


『承知しました。仮にエドワードさんを狙う者がいた場合はどう対処いたしましょう?』


 ジークはさらりと告げる。


『エドに気づかれないよう、処理して構わない』


 何かしらの情報が得られるならそれに越したことはないが、迅速かつ秘密裏に、を優先するよう付け加える。


「では、わたくしはもろもろ買い出しに出かけてまいります」


「あれ? フェリさんは一緒じゃないんですか?」


「僕たちのお迎えが来たら話に時間を取られるからね。その間にフェリには必要な物をそろえてもらうんだよ」


 フェリは一礼して歩き出す。エドワードの箱場所を追いかけ、人波に消えた。


「で、僕たちのお迎えはもう来てよさそうな――と、アレかな」


 大通りを近づいてくる一台の箱馬車。エドワードのものより質素だが、貴族所有のもので間違いない。正面に刻まれた紋章にも見覚えがあった。


 ジークたちの前に止まった箱馬車から、中年男性が降りてくる。鎧姿ながら覇気のなさそうな表情で、細身の騎士はジークを見るやへらへらと笑った。


「やあルティウス卿、久しぶりだねぇ」


「ハーキム卿、ご無沙汰しております」


 ジークはルナと一緒に彼の前に進み出る。


「そっちのも久しぶり。ルナちゃん、だったかな?」


「あ、はい、その節はお世話になりました」


 ぺこりとお辞儀するルナに目を細め、ガラン・ハーキム伯爵は小さくうなずく。


 彼は以前、ドラゴン討伐の任で辺境の村を訪れた。

 それに参加したルナとは面識がある。一騎打ちまでした相手で、彼女が英雄学院に通えるよう推薦してくれた一人でもあった。


「もう一人、お付のメイドがいると聞いていたけど?」


「彼女には用事を頼んでいます。後で合流しますよ」


「半魔族って聞いてたけど、一人にして大丈夫? ま、君が大丈夫と判断したなら問題ないかな。それじゃあ君とは積もる話もあるから、私の馬車に来てくれる?」


「わかりました。ルナ、荷馬車で後を付いてきてくれるかな?」


「かしこまりました!」


 ルナは元気よく荷馬車の御者台へ駆けていき、ジークはハーキム伯爵の箱馬車へ乗りこんだ。

 その直後、フェリから念話による報告が入る。


『エドワードさんを付け狙う存在を複数、確認いたしました』


 その対処を任せてあるのに、わざわざ知らせて来た理由。

 フェリは淡々と告げる。


 ――魔族です。



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― 新着の感想 ―
[一言] この世界いろいろと腐ってるところがおおいなぁ.....
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