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助けた彼は――

 フェリが気絶した連中の衣服を切り裂き、縄にして両手を後ろ手に、両足も縛っていく。相手は魔法も使える手練れなので、ジークが遠くから硬化魔法で厳重に拘束した。


「ケガはありませんか?」


 ジークは金髪の少年に近寄って声をかけた。近くで見るとやはり小柄であどけないが、年齢はルナと同じくらいに感じる。


「ひっ……」


 彼は腰を抜かしているのか、へたりこんだまま怯えまくっている。

 味方と信じる護衛たちまで拘束されては、ジークたちを『助けてくれた恩人』と思えないのも仕方がない。


「あの山賊は訓練された兵士です。そして護衛たちは彼らと本気で戦っていなかった。示し合わせて貴方の命を狙ったものと考え、乱暴とは思いましたが貴方の身の安全を優先し、事実確認を後回しにして対処しました」


 あえて自己紹介はせず、事情を先に説明する。


「僕の、命を? 狙った……?」


 そんなバカなと否定したい気持ちの他に、どこか心当たりがあるような悔しげな感情も見て取れる。


「その辺りを、これから訊いてみましょう」


 フェリが護衛の男を一人、引きずってやってくる。その肩にも一人を担いでいた。身なりからして御者らしい。

 御者は拘束しておらず、フェリはそっと彼を降ろす。痩せた初老の紳士といった風貌をしていた。まだ気絶はしているようで、ぐったりと横たわる。


 御者は文字通り横に置き、フェリがぺちぺちと護衛の男の顔を叩いて起こしたので尋ねた。


「貴方たちは護衛なのに山賊風の襲撃者たちと結託し、この少年を殺そうとしていたよね?」


「な、何を言っている? 貴様はいったい何者だ! エドワード様に何をするつもりだ!」


 地面に転がって喚く男に、ジークはこれみよがしにため息をこぼした。


「じゃあ訊くけど、数に勝る相手をばらけて迎え撃ち、守るべき人をほったらかしにしたのはどうして? 弓を持った襲撃者が見通しのきく斜面に四人もいたのにね」


「そ、それは……私の判断ミス、ではあるが……」


「どんな判断をしたら護衛対象から離れる選択をするんだろうね? 相手は見た目が山賊だ。金品目当てなら馬車を放棄して少年の周りを固めつつ馬車から離れればいいし、少年を攫う目的と考えたならなおさら彼を一人にすべきじゃない」


 護衛の男は唇を引き結ぶ。しかしハッとして口を開いた。


「荷馬車が見えた! だからエドワード様だけでもお逃げいただこうと、そちらに向かわせたのだ!」


「でも貴方が指示したようには見えなかった。他の二人の護衛もメイドの女性も、あらかじめ決められていたかのようにそれぞれ動いていたと僕は感じたけど? 特にメイドの女性はわざとらしく転んで、少年に向かって『足を挫いたから先に逃げろ』と喚いていたね」


 フェリに目配せする。


「彼女は足を挫いてなどいませんでした。また筋肉が屋敷仕事での付き方と異なります。あれは訓練された兵士のものでしょう」


「ぇ……?」


 エドワードと呼ばれた少年が絶望したような表情になるのを見やり、ジークは告げる。


「つまり、メイドの女性は初めからこの少年を一人きりにさせるつもりだったらしいね」


 わなわな震える男を、エドワードは悲しそうな瞳で見つめ、震える声を絞り出す。


「僕からも、ひとついいでしょうか?」


 どうぞ、とジークが促すと、小さくうなずいて護衛の男に問う。


「ただ殺すだけなら、ここまでの道中にいくらでも機会があったはずです。どうして今、この場所だったのでしょうか?」


 押し黙る男に代わり、ジークが答える。


「待っていたんですよ」


「待っていた? 何を……?」


「〝目撃者〟が通りかかるのをね。だから僕たちが後ろからやってきたのを見て事に及んだのでしょう」


 彼らは『山賊に襲われて少年が命を落とした』との、第三者による証言が欲しかったのだ。


「のんびりこの山道を進んでいたのは、そいうことだったのですね……」


 でも、とエドワードは食い下がる。否定の証が見つけたいというより、自身が狙われた確証が欲しいのだと感じた。


「彼らは僕の護衛です。守れなければ、国に戻って相応の罰を受けるでしょう。その危険を冒してまで、僕の殺害任務を請け負うでしょうか?」


「罰以上の見返りがあればやるでしょうね。というか、彼らは罰を受けませんよ」


「な、なぜですか?」


「表面上の護衛が三人なんて、明らかに少ない。おそらく聖王国側が人数を制限したのでしょう。他国から多くの兵士を入れたくなくてね。難癖をつける口実がありますから、護衛の彼らは無罪放免。そういう約束だったのでは?」


 護衛の男はただ放心していた。反論する気も失せたようだ。


「しかし危なかったですね。貴方自身もそうですけど、貴方がここで殺されていたら極めて深刻な国際問題に発展しかねなかった。この犯行自体が面倒事ではありますけど……そうでしょう? ストラバル王国第二王子、エドワード・ストラバル様」


「ッ!?」


 驚いたのは当のエドワード一人だけ。

 少し離れた位置で聞いていたルナに表情の変化はなかった。


(やはり顔見知りか。ま、親戚(・・)なのだから当然だね。さて――)


 事は慎重に運ばなければ。

 ジークはルナを気にしつつ、エドワードと話をすることにした――。


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