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一方的制圧

 少年へ向けて放たれた火炎球がふたつ、ほぼ同時に消滅した。


 放った二人はもちろん、弓を持つ者たちも唖然とし、切り結んでいた三組も相手をほったらかしで立ち尽くす。

 その一方。


「ぇ、あの……、今、なんて言いましたか……?」


 師の言葉に、ルナは困惑を隠せない。


 山賊めいた者たちだけでなく、襲撃された者まで『制圧しろ』と言われれば当然の反応だ。

 けれど彼女が尋ねた理由は別にもあるとジークは考えた。


(ルナはストラバル王国と浅からぬ因縁があるものね)


 ジークたちが暮らしていた辺境にもっとも近いお隣の国。

 おそらくだが、ルナはあの少年を知っていると感じた。


 とある事情でルナの正体は知られてはならない。相手が王国の者ならなおさらだ。


(でも、あの少年を避けてもあまり意味がない気がする)


 これまた推測だが、今この場でルナと少年を会わせなくとも、今後どこかで出会ってしまう可能性が高い――いや、状況から推察すれば『確実に』出会う。


「大丈夫。ちゃんとフォローするから」


 微笑みで応じると、ルナの目に力が宿った。

 様子を窺っていたらしいフェリがすっと立ち上がる。


「では、わたくしが先行します。ルナさんはあの少年をお守りください」


「は、はい!」


 まだ躊躇いはあるようだが、ルナは大剣を手にするとフェリに続いた。


 フェリが疾走する。

 もっとも近くにいた山賊風の男と護衛の女が、彼女を見てぎょっとする。獣の耳に尻尾を付けた半魔族なのだから驚くのは無理もない。


(けど、ともにフェリを迎え撃つ気満々なのは――)


 ジークは確信する。


(やっぱりグルだったか)


 突然現れた第三の勢力。

 半魔族に警戒はして当たり前だが、すくなくとも護衛側は先に襲撃した者たちを放っておく理由がない。

 むしろ同じはぐれ者ではないかと疑ってかかるのがあるべき姿だ。


 フェリが消えた。二人はそう感じただろう。

 ただでさえ常人を遥かに超える速度で迫ってきた彼女が、地面に上体がくっつくほど身を沈めるやさらにスピードを増したのだ。


 肉薄しての足払い。

 二人の体が地面につくその前に、フェリは手刀をそれぞれに打ちこむ。


「ぐはっ!」

「がはっ……」


 防御する間もなく、男女は白目を剥いて地に落ちる。

 フェリは一瞥での確認を終えると、すぐさま別の一組へと襲いかかった。


「おのれ魔族め、やつらの仲間か!?」


 ようやくフェリに尋ねたのは、箱馬車の御者台から飛び降りた男だ。おそらく護衛隊長だろう。


「構うな! 小僧をれ!」


 彼の戦っていた相手、真っ先に斜面を滑り降りてきたリーダー格と思しき男が叫んだ。

 斜面にいた四人が弓を構えた。一斉に矢の雨が少年に降り注ぐも、


「はあっ!」


 大剣の一閃。

 突風が巻き起こって矢がすべて吹き飛ばされた。剣の風圧のみならず、刀身に付与された風魔法の効果が重なった。


(術式の展開がスムーズだね。状況を的確に捉えての選択もいい)


 大剣を手にしてから少年の前に躍り出るまで、広範に散らばる敵の動きに注意しつつ、無駄なく魔法の発動に至った。

 また『飛び道具の攻撃に対処する』うえで風系統の魔法は、彼女が使える中でベストな選択だ。


「な、なんなんだ、こいつらは……」


 護衛隊長と思しき男が愕然とする間に、フェリは淡々ともう一組を沈黙させた。そのまま山賊風のリーダーと護衛隊長へ迫っていく。


「撤た――ぐふっ……」


 山賊風のリーダーが吠える途中で、その腹にフェリのこぶしがめりこんだ。泡を吹いて膝から崩れ落ちる。


「ごぼぁっ……」


 すぐそばにいた護衛隊長も掌底で顎を突き上げられ、後方へ飛ばされた。


 斜面にいた者たちが我先にと上へ逃れようとした。

 片側はフェリが追いかけたので問題ないが、彼らを倒しても反対側は間に合わないだろう。


「逃がしません!」


 ルナが大剣を引き絞る。両手に魔力を注ぐと、刀身に風が絡んだ。


(あ、でもこれ、威力の調整がまだ……)


 手加減しなければ殺してしまいかねない。


(ううん、きっと大丈夫!)


 なぜなら師は『フォローする』と言ったのだから。


 大剣で虚空を切り裂く。刀身に絡んだ風が解き放たれ、刃となって斜面を駆け上る男たちに襲いかかった。


「がはっ!?」

「ぉ……」


 風の刃は一人の後頭部にぶち当たると、軌道を変えてもう一人の側頭部を叩いた。

 しかしいずれも切り裂かれてはおらず、意識を失った二人はごろごろ斜面を転がり落ちた。


 風の刃に魔法の膜が被さり、落ちた男たちにも防御魔法がかけられていた。

 いずれも遠方からジークが施したものだ。


(僕とフェリだけだったら数名を生かしておけば十分なんだけど)


 つまらない連中が相手だ。まだ若い教え子に罪悪感を抱かせるのは気が引けた。


 フェリも手早く二人を沈黙させ、首根っこをつかんで斜面を駆け下りると放り投げる。

 こっそり逃げ出そうとしていたメイドを踏んづけて気絶させ、そのまま箱馬車へ飛びかかると、ジークから見えない位置にいた御者の男も意識を刈り取った。


 制圧、完了だ――。



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