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次なる標的

 黒炎が五つの遺体を包みこむ。五人のうちの一人は、どこか安堵したような表情を浮かべていた。


 彼は自分の知る限り、洗いざらいを吐き出した。

 ジークは燃え朽ちる彼を冷ややかに見下ろす。


(やはりハーキム卿の暗殺が目的だったのか)


 ドラゴンとの戦いのどさくさに紛れ、ハーキム伯爵の戦死を誘う。

 一度目は準備不足が祟ったのか失敗したようで、今度こそと意気込んでいたのをジークに邪魔されたのだ。


(にしても暗殺の理由がまた、くだらない……)


 すでに落ち目のハーキム伯爵を、聖王国で上位に位置する権力者のダボン公爵が恐れる理由は皆無と言っていい。

 暗殺を企んだのは、極々個人的な事情からだったのだ。


 ハーキム伯爵には世継ぎが一人しかいない。

 ルナと同い年ながら剣も魔法もかなりの技量で、次期勇者との呼び声も高い少年だ。


 そしてダボン公には、その子と同い年の孫がいる。

 こちらもまた優秀ではあるが、ハーキム伯爵の息子には及ばないらしい。


 いずれもこの秋には聖都の最高学府に通う。

 首席争いでは敵わないと悟ったダボン公爵は、伯爵を亡き者にして無理やりその息子に跡を継がせて入学させまいと考えたのだ。


 むろん見栄だけの企みではない。それだけならその息子を直接狙えばいいからだ。

 伯爵の息子の後見人となり、以降いいように使い倒そうとの思惑もあったとか。


(秋、か……。うん、タイミング的にはちょうどいい)


 五つの屍がその痕跡をすべて消したのを確認し、ジークは地面に魔法陣を描く。


 古代の失われたとされる秘術――転移魔法の術式だ。

 至高の賢者〝マティス・ルティウス〟は五年前、現代に再現するに至っていた。


 ただそれは、誰にも語っていないこと――唯一、心許せる親友ともを除いて。


 最初に使ったのは魔王との戦いの折。そのときは術式をマティスが刻み、ジークは魔力を通して起動したに過ぎない。

 ジークは彼の遺産から、転移魔法の詳細術式を読み解いていた。


 さすがに任意の場所へ行ける便利な魔法ではない。

 事前に術式を刻んだ場所としか行き来はできなかった。


 ジークはこの五年の間に、聖王国はもちろん他国にも、いくつか術式を刻んで転移できるようにしていたのだ。


 転移先を庵へと設定し、ジークは転移魔法を発動した――。




 庵の奥の部屋にはフェリがいた。


「お帰りなさいませ、ご主人様」


 まったく同じ姿で恭しく頭を下げられ、ジークは思わず苦笑した。

 彼女の首輪を外して自分に付け替える。


 フェリは元の姿に戻り、てきぱきとメイド服を着た。


(どうしてメイド服は再現しないんだろう?)


 彼女の変身魔法は衣服も含めて他者とそっくりになれる。尋ねるのはなんとなく気が引けたので知らないが、彼女なりのこだわりがあるようだ。


 彼女が着替える間に、黒竜との話し合いからダボン公爵が放った暗殺部隊の話をする。


 フェリには常日頃から、必要な情報をすべて伝えている。得られた情報を吟味して、彼女は命じられずとも適切な行動を取ってくれるからだ。


「すぐにダボン公爵にまつわる資料をお持ちいたします。ご主人様は喉を潤されてはいかがですか?」


「ありがとう。そうさせてもらうよ」


 フェリがいなくなり、ジークは水を飲んでひと心地着く。

 やがて彼女は紙束を抱えてやってきた。

 受け取り、中身を確認する。


「うん、いいところを拾ってくれたね」


「彼の悪事(・・)は多すぎます。ピックアップしたものだけでも死罪は免れないでしょう」


 さすがに彼女は優秀だ。同時に、これ以外にも多くの悪事を働いてきたダボン公爵に怒りを通り越して呆れてしまう。


「そろそろあの老人には退場してもらおう」


 親友(とも)を死に至らしめた元凶の一人。

 三年もの間、ただ放置していたのではない。


 人生で最高潮に達した彼を、奈落へ突き落すため。

 あるいは都合の良いときに、利用するため。

 今このタイミングは、ともに該当する絶好の機会だった――。



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