4. 『ともに明日に向かって進む』を考えると
「お返事ですよ、ドルドレン」
イーアンは、着替えを取りに寝室へ入って気が付いた、手記帳の光を手に取り、光が静まったので、ページを捲った。ドルドレンも来て『なんて?』と覗き込む。
「そうですね。ええっと・・・あなたへ、とあります。私とこの方は同じ言葉を使いますので、前置きは私に宛てて説明があります」
「ふむ。いいよ。座って読んで」
ベッドに腰掛けて、ランタンの明かりの下でイーアンは書かれたお返事を読む。
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勇者ドルドレン
とても美しい言葉をありがとう
それは私が未だかつて向けられた事のない称賛であり
自らを再確認させる導きでもあった
私はあなたと同じ小さく弱きもの
無力で愚かな存在
そして同じように日々成長し一生をかけて学ぶ
目の前のか弱き者とまだ見ぬ助けを求める者のために
長く暗い夜があっても陽の光は必ず夜明けを運ぶ
太陽の民ドルドレン
あなたは私に新たなる夜明けを齎した
あなたの高潔なる精神を胸に
私は自らの闘いに邁進するだろう
異なる場所 異なる道にいようとも
いつでもあなた方を想い
ともに明日に向かって進む事を
私は誇りに思い誓う
遥かなる地の名もなき者より
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「名前。あるのだ。彼は名乗らないけど」
ドルドレンの灰色の瞳が、愛妻に向く。イーアンは頷く。言わないが、イーアンは知っている、そのお名前。でもね・・・お手紙部分だけということなので。言いません。
黙る愛妻に、ドルドレンは少し考えてから思うことを話す。
「彼は。『かつて向けられたことがない称賛』と言う。これほど律儀で、人に尽くそうとしているのが文面でも分かるのに、その態度が日常で見られないわけはない。称賛を受けないような人物に思えん」
「そうですね。私も不思議に思います。ここまで気持ちを砕く方ですから、彼はもしかすると控え目」
ドルドレンはその『控え目』の意味を質問。
「だって。ご自身に何かしら。そう思わないように自重する傾向がなければ・・・こうした態度を大切にされている方って、誉められたりしないわけないと思うので、あのう、全部を受け取らないのではと思うのです」
何かあるんだろねとドルドレンは頷く。『きっと、そう簡単に信用できないとか。環境が微妙なのか』呟くドルドレンは、少し考える。
「彼は一生懸命なのだ。希望を信じている。希望を信じている理由は、裏を返せば何かが、彼を蝕む状況ではないだろうか。それは何か。俺には分からないが、彼の悩みは同じ場所から涌いている。それは思うな」
イーアンは黙って伴侶の言葉を聞いていた。伴侶は何かを思いついた気がした。
「どうだろうね。彼は闘うと言っているだろう?俺たちのように、攻撃を繰り返す戦いではなく、何か大きく続くものとの闘いのように、その言葉に思いが滲む。
応援してくれることは理解した。俺の手紙が届いたのも理解した。彼は・・・俺にはそうとしか聞こえないのだが、心の中で叫んでいないだろうか。彼は俺たちの、何かを。上手くは言えないが。繋がりが彼を支えそうに思えないか?」
そしてイーアンは、伴侶に、次の返事を書くように言われる。
「俺たちが旅に出る出発や、大忙しになれば、連絡もそう出来ない。しかし今は大丈夫だ。これがギリギリかどうか。それはどう捉えるかによる。俺は時間は時間だと思うから、この時間で訊ねてみよう」
そういうことで、イーアンのペンは動いた。手紙は短いが、内容は大きく思えた。本当に叶うなら。