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1. 最初のページ

 

 手記帳を見るイーアンは、じーっと。開いたページを眺めている。


「お返事が来ました」



 *****



 昨夜。少しずつ荷造りをする、イーアンの時間。衣服選びの途中で、最初にこの世界に来た時に、着ていた服を畳み直した。アイペンシルくらいしか、ポケットに入っていなかった、薄いパーカー。


 畳んだら、なぜか手帳が落ちた。よく、余り革を表紙に、小さく切った紙をまとめた手帳作りをしていたから、その時の手帳だと思ったのだが。でもあの時。ポケットにはなかった物。

 開いても何が書いてあるわけでもないし、水に濡れていた様子もない、小さな手帳に『どこから』と眉を寄せて見つめた。


 そして暫く調べていると、最初のページに文字が浮かんでくる。千切れた点のように浮かんだそれは、徐々に形を作り、目を丸くするイーアンの見ている前で、手紙のように文が出来た。

 驚いたものの、そこに書いてある文に更に驚く。『日本語です』うそー、と言いながら、目を近づけて急いで読んだ。


 誰かの。誰かへの手紙のような。


 自分ではない、と分かるが・・・でも『この世界のことです。この方、きっとここの世界のことをご存知』イーアンは、およその誰かの手紙を読んでいる、と思うと、少し申し訳なかったが、自分が読める場所に現れたことは、何かあるのかもと思って、心の中で謝りながら読み進める。


 この人はお医者さん。それで誰かを励ましているのかもしれない。ただ『この方、お相手の方と始まったばかりのやり取りでは』イーアンは、自己紹介のような文面に呟く。

 そしてビックリ。『あ。私とドルドレンの名前、世界が繋がってる?』最後を読んで、イーアンは手を口に当てた。『男龍のことも知ってらっしゃる。ドルドレンが大好きなのも』何で?何で?を繰り返すイーアン。


 で、分からない。これは旅に関係あるのか。それとも、自分のように何か誰かがリンクしたのか。



 イーアンのデカイ独り言で、髭を剃って出てきたドルドレンが寝室を覗いた。『どうしたの』イーアンはドルドレンに不思議な手帳を見せた。ドルドレン、ちんぷんかんぷん。


「これ何。イーアンの文字」


「そうです。私の母国語。でも私たちではないような。とはいえ、私たちのことを知っているようでもあり」


 旅に関係あるのかな、と二人は真剣に話し合う。何て書いてあるのと伴侶に訊かれ、イーアンは内容を棒読み。でも、ドルドレンに分からなさそうな、あちらの世界の言葉は何となく飛ばす(※ブログとかコメントとかモニターとか)


「うーん。なぜ俺が男龍を好きなことが、見も知らぬ者に知られているのか(※戸惑いはある)」


「そこじゃありませんでしょう。それもそうだけど。この手帳の存在が、何を示すのか」


「でも。この者は、イーアンに別に用事があるわけではなさそうなのだ。誰かを丁寧に慰めているような。励ましている言葉の中に、幾らも優しさがある。少しずつ相手の心を撫でるような」


「んまー。ドルドレンは素敵。読み解き方が素敵」


 えへっと笑うドルドレン。分からないが、害がないような気もする、と愛妻(※未婚)に意見を言う。

『こういうこと。これまでも、あったのだ。連絡球もそうだし』見つけ方が不思議でも、役に立つこともあるんでないのと。


「ですけれど。この文面は、あなただから見せましたが・・・誰にでも見せられるものではありません。だって、人様のやり取りです」


「連絡球とは違うのだ。見せることはない。あれは何だか、誰でも使えそうだったから使ってるけれど。これは覗き見に近い(※すみません)。でも。最後、気になるのだ、もう一度読んでくれ」


「『男龍に声かけてもらったドルドレンみたいに舞い上がっていますが』」


「違う。そこではない。それはいいのだ、恥ずかしい。その前だよ」


「ええっとね。『みんなからのお返事お待ちしています』です」


 ドルドレンはちょっと考える。『もしかすると。イーアン、その者は俺たちの誰かと繋がると知っているのでは』驚く愛妻に、ちょっと返事を書いてみたら?と提案する。


「え。私が書くの。この方、お手紙が上手です。私お手紙は、支離滅裂の自信があります」


「自信があってもいいけれど。そんなことは関係ないのだ。心を籠めて、割り込むっ」


「ゲッ。割り込む。嫌ですね、人様の手紙のやり取りに首を突っ込むのですか、私」


「だって、この者は・・・思うに男性だろう。彼は俺たちの何かを知っているのだ。少なくとも、男龍までは。それにどうも返事があると、信じている。いや彼は、知っている、と表現するべきか。だから大丈夫だと思う」


 さぁイーアン、書いてみなさいと、伴侶にペンとインクを渡され、イーアンはうーんうーん考えながら、この男性の文面から、自分が『割り込みました』ことをどうにか、やんわり伝えようとした。伴侶は背中から覗き込み、ちょっとアドバイス。


「彼は返事をもらうと知っている。『皆』ということは、誰でも良いのだ。

 だが俺が思うに、男龍を望まれても難しそうだ。すこーしお返事をもらうのは出来るにしても、物分りとノリの良いのは、ビルガメスくらい。

 誰が良いのかだけでも、聞いてみると良い。新たな情報を得られる。それと彼は丁寧だ。あまり口の利き方が良くない者は、選ばせない方が良さそうだ。大体そうだけど」



 こんなことで。イーアンは小さな手帳に、日本語で書く。これは助かる。それに、少し()()()()も出す。あちらはご存知かもだけれど、警戒されるに決まっている前提。


 私が受け取りました・読んでしまいました・とても素敵な思い遣りある内容です、有難うございます(←自分アテではないけれど)と『やんわり割り込みました』感を自然体で書き込む(※不自然だがイーアンには精一杯)。


 そして。明日、誰かの約束を取り付けようと思って、自分は明日の朝に返事をまた書きますとも、書いた。



 *****



 そんなこんなで。


 朝になり、イーアンは目が覚め、何となくぼんやりした部屋に、ふんわり青白い光が浮かぶ棚に視線が動いた。


 ぼけーっとしているので、暫くの間。そこを見つめていたが、1分後、あの場所に手帳を置いたことを思い出して、起きて手帳を取った。手に取ると光は消えた。まさかと思って、昨日のページを開くと。


「お返事が来ました」


 イーアンは内容を読む前、目に飛び込んできた名前にビビった。なぜ。私が日合三呼応と知っているのか、この人は。

 それに、赤ちゃんsのことも知っている。なぜか龍気の回復を心配してくれている。男龍のプライドが高いのも知っている。

そして愛しい旦那さん、そう。それはドルドレン。『あ。でも。ここまで何やらご存知なら、ドルドレンと私のことは、知っていらして当然でしょう』でも何で、どうして、この方は精霊絡みなのか、どこの出身なのか(※関東?そうじゃない)。



「とはいえ。彼はドルドレンを希望・・・・・ 大人な子供なドルドレン。

 思うに、この彼は。私たちを遠くから見ている誰か。かも。しれない。です。何かを通じて。応援して下さってる?そう?」


 どう?そう?イーアンが朝一番で、頭ぐるぐるしていると、ドルドレンが目を覚ます。『男龍でも来たか』と訊かれ、昨日の手帳に返事が来たことを話し、『彼は、あなたがお好きかも』と伝えると。


「誰かは知らんが。しかし、応援してくれているのか。何だか雰囲気が、優しい一点張り。それがまた、他の誰かを仲介して、俺たちのこの場所に届いて。だろうか?

 うむ。俺が『大人で子供で理想的な男の子』・・・それ、男の子の時点で、大人ではないのだ」


 恥ずかしそうに眉を寄せるドルドレンに、イーアンは笑って『お手紙を私が書くから、ドルドレンは内容を考えて』と頼んだ。今度は自分は記入係のイーアンは、気楽に伴侶に手紙担当を回した。



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