第8話:知ってる食べ物
コマリさん事件から程なくして、夕食の時間となった。
この世界に来てから初めての食事で、何を食べられるのかワクワクする。
ちなみに夕食を作ってくれるのはミサさん。孤児院で家事をしていたのもあり、料理は得意だと自信あり気に語っていた。
コマリさんはというと、中身が男のルティア相手に興奮で倒れてしまったことがショックで寝込んでしまっているらしい。
俺は何も悪くないはずだが、ここまで沈まれるとなんだか申し訳なさを感じるな・・・。
ミサさんは、そっとしておけばその内お腹が空いて食べに来るだろう言っていて、俺達だけで先に食べる気でいるようだ。
姉であるコマリさんのことをよく分かっているミサさんがそう言うのだから俺もそれでいいと思うことにした。どんな料理が出てくるのか気になるから早く食べたいしね。
和風洋風中華、どれかに似たものが出てくるのか、それか民族料理風?まさかゲテモノ料理なんてことも・・・。
期待と不安が入り混じる中、ミサさんが「できましたよー」と言いながら食卓へと向かってくる。
「意外と早かったですね」
「ふふっ、そういう料理なので。カイリさんも見たら納得するはずです」
え、納得?異世界の料理なんて見ても分からないと思うけど?なんて思いつつ、出された皿の上を見た。
切れ込みの入れられたロールパン風のものに大きなソーセージが挟まれていて、刻まれたタマネギや漬物がトッピングされている。
あ、知ってる。知ってるやつだこれ。これはどこからどう見ても・・・
「ホットドッグですよね」
「ピンポーン、正解です!」
ミサさん、すごく良い笑顔。これ、異世界人にはホットドッグを出せば喜ばれると思ってる?確かにおいしいけど、日本だとそんなに主流な料理じゃないんだよね。
まあなかなか手を付けないのは失礼かもだし、いただこう。
「あ、おいしいですね。ケチャップが普通にあるのも驚きです」
「ふふっ、おいしいって言ってもらえて良かったです。一度目の転身者の方が、『ホットドッグが嫌いな奴はいない』って言ってこの国に広めて回ったほどなので、異世界の方にはまずこれを食べてもらって安心して頂こうと思ってたんです」
うーん、美味しいけど、日本人の俺にとっては日常的な食べ物じゃないし、安心感があるかというと・・・。それよりも、ひょっとしたら一度目の転身者って。
「もしかして、一度目の転身魔法でこの世界に来た人って、アメリカ人とかですか?」
短絡的に考えるとホットドッグ好き=アメリカ人って感じがするんだよね。
「ええと、私が転身者のお世話をするのって今回が初めてなので、実は前の方のことはあまり詳しくは知らないんです。ごめんなさい」
ああそうか、孤児を対象にしたのは今回からだから、孤児院の従業員だったミサさんが知らないのは仕方がないな。
「知らないのも無理ないですし、別に謝るようなことじゃないです。でもちょっとその方に興味が湧いてきたので、お話しする機会とかがないかなと思いました」
もしアメリカ人だったら、それなりの知識や技術を既にこの世界に持ち込んでいる可能性がある。トイレとか見事な洋式だったし、俺の出番はほとんどないんじゃないかな。
「うーん、今ではもう一度目の転身魔法は効果が切れてそれぞれ元の世界に戻っていますが、こちらに戻ってこられた方は今でも精力的に異世界の技術の再現に尽力をされていて忙しいらしいので、会えるかどうかは分からないですね」
そうか、会えるにしても当分先ってことになるのかな。それはできたらいいなってことで今は置いておこう。
それよりもやりたいことが決まった。この世界の食事情がアメリカ文化に偏っているとしたら、これからの食事がホットドッグ、ハンバーガー、ピザばかりとかになりかねない。
そんな偏った食生活は御免なので、早いうちに俺は日本食をこの世界で再現しなければならないと感じたのだった。
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