第41話:念願の風呂
目の前に広がるのは立ち込める湯気と大理石らしきもので作られた銭湯で見かけるような巨大な浴槽。いきなりこの規模で作ったのかと突っ込みたい気持ちはあったが、そんな細かいことを気にしてる場合じゃないな。
そしてよく見ると浴槽には既に一人、若めの男の先客がいた。俺はこの人を知っている。
「あ、マジキタさん。この前は私の頼みを聞いてくれて本当にありがとうございました!」
「ああ、カイリ君、君が提案してくれたこの風呂という設備は素晴らしいよ。どうして今まで誰も作らなかったんだと文句を言いたいくらいにね」
このマジキタさんという人は研究員の一人で、以前俺がこの研究所に来た時にここの案内をしてくれた。名前の割にとても常識人で、優しく丁寧に色々教えてくれたので俺はこの人をかなり信頼している。
「まさかこの規模の浴槽をいきなり作るとは思いませんでしたよ。浴槽の規模はまあいいとしても、これだけのお湯を作るのはかなり大変じゃないですか?」
「そうだね、今は炎魔法を使える研究員の力と大量のガスコンロでお湯を沸かせているけれど、ガスコンロは貴重だからあまり良いやり方ではないね。ゆくゆくは巨大なボイラーを作ろうかと計画しているよ」
貴重なガスコンロまで使ってお湯を張っているのか・・・。頼んだのは俺だから何も言えないけど、随分と無茶をするなあ。マジキタさんの常識度をちょっと疑いそうになったけど、イクシムさんを含めた他の研究員達がかなり個性が強そうな人たちだし、多分マジキタさんは振り回されてるだけなんだろうな。
しかし、今の俺にはマジキタさんに同情している余裕はない。実に3週間振りの風呂を目の前にして、俺の我慢は限界にまで達しようとしていた。
「私も早く試してみたいので、早速入りますね!」
俺はそう言って勢いよく服を脱ごうとする。しかし、それを見たマジキタさんが慌てた様子で、
「今脱いじゃだめだよ!僕はもう上がるから待って!」
と、止めにかかってきた。そこで俺も気付いた。今の俺ってルティアの体じゃん!目の前の風呂に気を取られて完全に油断していた。危うく成人男性二人の前でルティアの裸体を晒すことになりそうだった・・・。み、見せちゃいけないところ見せちゃってないよな?
「ハハハ、別に裸の付き合いもいいじゃないかYO!私も一緒に入るYO!」
「いや、流石にルティアの裸を男の人には見せるのはちょっと・・・。私もできるだけ見ないようにしてるんですから」
「そうですよイクシム様!馬鹿な事言ってないでさっさと出ていきましょう!」
突如慌ただしくなった風呂場だが、マジキタさんがイクシムさんを押して出ていったことで事態は収束した。イクシムさんは一応これでも貴族なのに、扱いが雑だな。まあ、これは一種の信頼関係なのだろう。貴族とか平民とかの垣根を越えて対等な仲間になりたいって気持ちがイクシムさんにはあるだろうしね。それにしてはマジキタさんの苦労人感が強すぎる気もするけど。
ともかく、これでやっと風呂に入れる。俺はそれはもう俺の人生の過去最速記録を塗り替える勢いで服を脱ぎ捨てて浴槽に浸かった。
ああ~~~~これだよこれ。身を優しく包む温かさが徐々に体の芯へと浸透していく感じ。俺の異世界生活に足りなかった物が全て満たされたような・・・。あまりの気持ちよさに涙がじわりと溢れてきた。もうずっとこうしていたい。
そして俺はその快楽に身を任せ、意識を手放した・・・。
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