第40話:一度目の転身者 後半
それにしても、リノスに戻れるかも分からない実験段階の転身魔法なのに、5年も不慣れな地球で生き延びてちゃっかり情報も調べてきたなんてすごい精神力だな、イクシムさんって。
「リノスの事情を知る人も居ない異世界で、よく耐え忍びましたね・・・。色々と調べる余裕まであるとか、私、イクシムさんを尊敬します」
「いや、実際のところ余裕なんて全くなかったYO。最初は地球で何をするべきか、そもそも生きていけるのかも分からなくてかなり精神的に参ってたYO。でも、相棒のビリーの熱いソウルが私の中に響いて励ましてくれたんだYO!あいつは地球では運が無くて周りに認められなかったみたいだけどYO、本当に気の良い奴で文句の一つも言わずに私の体でリノスで生き延びてくれたすごい奴なんだYO!」
イクシムさんは誇らしげにビリーさんについて語る。確かに、俺の時よりも説明できないことばかりの転身魔法を使われて、それを受け入れるなんてビリーさんも大した人だよな。
5年経って意識が元の体に戻った時、ビリーさんがリノスで行ったことの記憶もイクシムさんに還元されたらしい。だからイクシムさんはビリーさんの気持ちを疑念無く理解できるようだ。
というか、俺もこの体にルティアの意識が戻ることがあったら、俺が何を考えてたかとか何をしてたとかが全部筒抜けになるんだよな。うっかりHなこととか考えたら俺のイメージが・・・ってこう考えてる時点でもうそれもバレるわけで・・・。そこまで考えた後、それがあまりにも不毛な思考であると気付いて俺は考えるのを止めた。
「私のことは話したから、次はカイリが話す番だYO!ジャパンの面白い話とかを聞いてみたいYO!」
ビリーさんのことも一通り話終えたイクシムさんはワクワクとした表情で俺にそう言う。
なんだかすごく期待されている気がするけど、さっきの話を聞いた後だと俺が話せることなんて何もない気が・・・。
「あの、あんまり私に期待されても、地球の技術で分かることなんて殆どないんですよ。大体の文明の利器はその構造を知らずに使ってたもので・・・」
ああほんとに、望めるなら異世界に来ると事前に分かっていたかった。それなら異世界で使える地球の技術をできる限り頭に詰め込んできたのに。
「オーウ、流石ジャパニーズは謙遜が上手なんだYO!カイリが前にここへ来た時に提案していったあの『風呂』って奴は、正に革命級の発明品だYO!アレに入るようになってから、ここの研究員達はみんな疲労が激減して作業の効率がグーンと上がったんだYO!」
いや、別に謙遜じゃないし。風呂だって効率的な設計とかは何も知らないし・・・。っていうか、そんなことよりも今のイクシムさんの口振りからするとまさか!
「えっ、もしかしてもう風呂が完成したんですか!?」
「もちろんだYO!私も他の研究員達もみんな風呂に興味津々だったから、最優先で作らせてもらったYO!」
まじかよ、仕事速すぎだろ!元はと言えば、俺がこっちの世界に風呂が無いのが耐えられなくて、自分用にだけでも作ってもらえないかって話だったのに。確かに売り文句で疲労回復だとか心の安息だとか色々言いはしたけど!
しかし、風呂があると聞いたなら黙ってはいられない。
「あの、その風呂って、私が入っても良かったり・・・します?」
「もちろんだYO!発案者の当然の権利だYO!」
まじか!よっしゃあああああ!これで冷たい水で体を洗う生活とはおさらばだ!何か初めて魔法を使った時よりもテンションが上がっちゃってるかも?それくらい風呂無し生活というのは日本人にとって耐えがたいものなんだな。
そんなわけで俺はこの研究所内に設置されているという風呂場へと案内してもらった。
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