第39話:一度目の転身者 前半
・・・え?このチャラい人がイクシム様?ってことは貴族ってことだよね?コマリさんもミサさんも全然貴族らしくなかったけど、この人もまたかなりイメージから外れてきたな。
「あ、えっと、お会いできて光栄です、イクシム様。リノスと地球、両方を知るイクシム様にはこの世界での生活について何卒教示願いたく・・・」
「オーウ、そんなに堅苦しくなくてもいいYO!地球ではもう身分制度は廃れていたから地球を体感した者同士もっと距離を縮めたいんだYO!様付けも敬語も必要ないYO!」
マジかよ、とんでもなくフレンドリーだなこの人。一応ルティアの記憶にもほんの数回姿があったけど、さすがにこのテンションは隠してたんだな。その時リノスで地球のことを知ってる人物はこの人だけだった訳だし、これでも暴走して変なことを口走らないだけの判断力はあるみたいだ。
しかし、初対面の時から貴族と分かっているのにそんなにフランクに接するなんて俺にはできない。確かに日本には貴族制は無かったが、小説等の影響があって貴族というのは高慢で横暴だというイメージが強い。この人はそういうタイプではないんだろうけど、周りの目もあるしあんまり馴れ馴れしくはできないよなあ。
「それではイクシムさんと呼ばせてもらうので、敬語は勘弁してください」
ミサさんもコマリさんも「さん」付けで呼んでるからそこまでなら抵抗はない。これでなんとか手を打ってもらおう。
「分かったYO。言葉遣いにはいつでも改めてくれて構わないYO。それよりも折角会う機会を得られたのだから地球のことについて語り合おうYO!」
良かった、分かってくれて。
イクシムさんは俺の地球の知識に興味があるみたいだけど、多分あんまり役には立てないというのが心苦しい。
でも俺も、一度目の転身魔法について詳しく知りたいからぜひ話をしてみたい。
そういう思いで俺はイクシムさんと地球について語り合った。
「・・・と、そんな感じに私は地球での暮らしを終えて、リノスへと戻ることができたんだYO」
イクシムさんが一度目の転身魔法で起こったことについて話してくれた。異世界転身魔法という名前からリノスとは違う世界が関わる魔法であるとは分かってはいたが、最初の段階で分かっていたのは本当にそれだけだったそうだ。消費MPも莫大でとんでもないことが起こりかねないこの魔法に国運を委ねることが決まったとき、魔法の対象者に自ら進んで立候補したのが好奇心に満ち溢れていてこの魔法を使うべきだと積極的に国王に訴えかけていたイクシムさんなのだという。
そしてイクシムさんに魔法が使われ、「ビリー・スタンレイ」というアメリカの売れない男性ミュージシャンと意識が入れ替わった。
最初はどうなっているのかが分からず戸惑っていたイクシムさんだが、明らかに周囲が別世界であり、自分の体も別人のものになっていることにも気が付いて、魔法の予想されていた効果の中にあった「異世界の人物との入れ替わり」が正に起こったのだと悟った。
それからはビリーさんの記憶と持ち前の好奇心を頼りに地球という異世界での生活への適応を図りつつ、できる限りの情報を仕入れて暮らしていた。そして地球で暮らし始めてから5年目となったある日から、寝ている間にリノスの夢を見るようになったという。その夢は日に日に現実味を増していき、夢を見るようになってから一週間経った時に突如リノスのイクシムさんの体へと意識が帰ることになったらしい。後から分かったことだが、夢の内容はビリーさんがリノスで体感したことをそのまま再現したものだったという。
ビリーさんも同じように地球の夢を見るようになったらしいから、元の世界の夢を見るのが意識が元の世界に戻る前兆なのだろう。だから俺も地球に戻る時が近づいたなら、ルティアが地球で体感したことを再現した夢を見る可能性が高いと考えていいな。まだまだ先の話だろうけど、一応見る夢には注意を払っておこう。
読んで下さってありがとうございます。
お陰様で10万字突破できました。




