第6話:転身したら同居人が変態だった件 前半
城を出て、また馬車に乗り、家へと帰る。これから俺が住む場所は、最初に目が覚めたあの家と同じだそうだ。
国王から無事に学校に通う許可を得ることができ、明後日にも転入ができるように取り計らってくれる。国王の権力すごい。
心に余裕もでき、これからの生活に胸が弾む。信頼できる国王が治める国、しっかりした住居、そして学校。異世界物の物語の主人公たちよりもかなり優遇された生活なのではないか。
このまま平穏に異世界ライフを満喫したい、心からそう思うのだった。
そう考えている内に我が家に着いた。最初に出る時はバタバタしていて家を見る余裕もなかったが、改めてみるとかなり立派な建物だ。日本にある俺の実家よりも2倍はあろうかという大きさだ。ここに俺と、世話係のミサさんとで住むのか?考えるだけで気持ちが昂る。
興奮した俺は、勢いよく家の扉を開け、
「ただいま俺の家―!」
と叫びながら中へと入った。この時俺は完全に失念していたのだ。この家に他に人がいるという可能性を・・・。
「俺の家?今そういったのか?」
その声が家の中から聞こえたことに気が付いた俺は、家の中にいる背が高くて橙色のロングヘア―の女性と目が合った。その時の俺は、行きの馬車の中でミサさんに注意されたことを思い出した。
『それよりも、俺っていうのはやめて頂きたいです。転身魔法は極秘扱いで、一般人には知られてはいけないんですから』
そう言われたのだ。国王の前では元々敬語を使うように意識してたから問題なかった、そもそもあの場に居た者は転身のことを知っているのだから問題があろうはずもないのだが・・・。
しかし、緊張する王城での活動から解放された俺は完全に油断しきっていた。そして今、その油断が祟って、いきなり窮地に立たされようとしているのだと悟った。
急いでごまかさねばいけない。
「あ、えっと、俺っていうのは・・・」
「くっ・・・、ルティアの中に男が入ったというのは本当だったのか!あの愛らしいルティアがまさか男に侵食されるとは!こんなことになるならばやはりどんな手を使ってもルティアを引き留めるべきだった・・・」
俺が言い訳を口にする前に、その女性はまるで地獄に引きずり落されるかのような形相で妙なことを叫び散らした。あまりの勢いに半ビビりになりつつも、どうやら俺が転身していることを知っている人物のようで先ほどの失言はセーフだと分かり落ち着いて挨拶から入ることにした。
「えっと、転身のことは知っている人なんですね?ルティアさんの知り合いみたいですので挨拶させてください。転身魔法でこの体を使うことになったカイリと言います。どうぞこれからもよろしく・・・」
「なにがよろしくだ!ルティアの決意に絆されて、毎晩のようにせめて女と入れ替わるようにと祈ってきたというのにその結果がこれとは、やはりこの転身は間違っていたのだ!」
またも遮られた。これでは話ができない。今まで順調だっただけに、この状況は応える。しかし、困っている俺に救いの手が差し伸ばされた。
「お姉ちゃん、カイリさんは殿方ですけど、すっごく良い人なんですよ。それに何といっても、あの国王にも気に入られるほどの方なんです!」
そう言ったのはミサさんだ。男というだけでズタボロにされていた俺への橙髪女性の評価を持ち上げてくれたのだ。それは嬉しいのだが、一つ気になる単語があった。
「お姉ちゃん?」
「はい、この人は私の姉のコマリです。孤児院では子供たちに勉強を教えたり戦闘訓練をしたりしていました。とても強くて優しい自慢のお姉ちゃんなんです!今日からカイリさんの護衛役を務めてくれるんですよ」
ミサさんの姉のコマリさんか。ミサさんは随分とで姉への評価が高いようだが、コマリさんから俺に対しての優しさが微塵も感じ取れないのは気のせいだろうか。
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