side.L 第13話:星空の京
神楽視点です。
「今日の練習はここまでにしましょう」
「ええ、分かったわ母さん」
毎日のピアノの練習が今日も終わる。先生はピアニストである私の母親。一応現役ではあるけれど、今は私の練習に多くの時間を割いてくれている。
「あのねえ、あなたが一番分かっているとは思うけど、今日は全然練習に集中できていなかったでしょう?珍しく今日は友達と学校の勉強をするからって夕方の練習を無しにしたのに早く帰って来たし、友達と何かあったの?」
「別に、大したことじゃないわ。気にしないで」
母の問いを軽く流して、私は自分の部屋へと戻り備え付けのテラスへと出る。幼いころはよくここで星空を眺めていた。
物心つくころから弾いていたピアノ。母からも他の周囲の大人からも天才だと誉め立てられて、それが嬉しくて私は来る日も来る日もピアノの練習に励んでいた。そして、練習が終わるとこのテラスへと出て星々を見ては『私は星空で最も輝くシリウスみたいに、ピアノの世界では特別な星になるんだわ』と信じて明るい未来を思い描いていた。
でもそれは子供の儚い妄想だった。時が経つにつれて私の周囲に同年代の同じくピアノの天才と称される子たちが増えていき、高校上がるころには私は自分の存在が特別だとは全く思えなくなった。
ずっと自分が特別だと思っていた私にとって、私が特別ではなくなることは底知れない恐怖を感じさせるものだった。だから私はどうすれば特別になれるのかを考えた。それで導き出された答えは、他者との隔絶。
私がピアノを続けているのは、周囲の賞賛によるものだ。他人の影響で作られた自分が特別になれるわけがないのに、私はまだ幼心のままにその影響を受け続けている。
そんな中でも私は自分自身の力のみで一から自分を特別にするための方策を探っていた。他者との隔絶がうまく進んだ今でも正解の道は全く見えていないのだけれども。
そうやって私が苦心しているときに、姫子との通話で藤山君の話を聞いた。私の中での彼のイメージは、虐められている現状を変えられない人。同じクラスだった1年の時は、彼が虐められている光景は変わらない日常の一部だった。変わらなければいけないのに自分を変えることができない彼には妙な親近感を覚えていた。
私と同じような境遇だった彼が急に虐めていた人たちに反撃したと聞いて、彼の話なら聞く価値があるかもしれないと思った。あくまで参考にするだけで、真似をする気は全くないのだけれど。
実際に会った彼は以前とは全く別人に思えるほどに堂々とした態度で、流石に私も驚かされた。
結局彼の話からは何も得ることができなかったのだけれど。私が彼に覚えた親近感が偽物で、彼は私とは全く別の人間だったってだけの話。やはり私を変えることができるのは私だけだ。
このテラスから見える星空は、私が幼い時と比べると発展した町の灯りで星の数が減ってしまっている。早くしなければ、私はシリウスになれないまま町の灯りに飲み込まれて消えてしまう。その前に私はもっと輝かなければいけない。
読んで下さってありがとうございます。
活動報告で後書きしてます。




