第34話:歴史
「さて、今から世界史の勉強をするよ。皆、教科書を開いて」
カバト先生が俺達生徒にそう呼びかける。この世界の世界史とは、つまりリノス史だ。
今は新しい魔法の効果が分かってそれらの使い道を考えたいところではあるが、異世界の歴史を勉強するというのも楽しいものだ。
と言っても、大体の歴史の知識はルティアが既に勉強済みで、授業はその復習みたいなものになるんだけどね。
ルティアの記憶を探ってみると、この世界の言葉や魔法や魔物の起源に係わる興味深い古代の歴史が分かった。
まず、この世界は「意思と形無き神」によって生み出されたらしい。名前の通り意思を持たず、人間の姿をしているという類の神でもない。しかし、ハルウェルはこの世界の全ての物質、力、物理法則の源であり、この世界を満たすように存在しているという。だからこそ、この世界には大地と空があり、魔法やエネルギーがあり、法則に従い万物が変化するのだ。
そして、やがてこの世界に満たされたハルウェルを読み取ることができる力を持つ生物、神の子と呼ばれる人間達が生み出された。彼らはハルウェルを読み取って魔法の媒体となる武器を作り、言葉をも纏め上げた。その言葉が魔法を使うために必要な呪文の元である古代語なのである。そうして築き上げられた彼らの文明は暫しの間繁栄したが、それはそう長くは続かなかった。
時代が進むにつれケベフの人口は減っていき、普通の人間の人口は増加していった。ケベフの子孫のほとんどはケベフではない普通の人間だったからだ。ケベフでない人々はやがてケベフ達を畏れ敬う者と、恐れ妬む者に分かれていく。
そのように派閥は分かれつつも、争いのない平和な世の中が続いていった。また、ケベフがハルウェルを読み取る力は、世代が変わるごとにどういうわけか徐々に弱まっていったようである。時代が進むともはやケベフと普通の人々の間に違いは無くなったかのように見え、それによって一度はケベフを恐れた者達も心に平穏を保てるようになっていった。しかし、ある時に起こった「魔女の反祈」と呼ばれる事件を境にこの世界は平和を失ってしまう。
その事件は長い年月が流れ、存在するケベフが一人の女性だけになった時代に起こった。
ことの仔細は不明だが、ある時突然その女性が祭壇の前に人々を集め、神へと祈り、何か言葉を発した。その時、世界は一時暗闇に呑まれ、人々が気付いた時には既に世界の各地に魔物が生み出されていたという。
凶悪な魔物たちに蹂躙され、当然世界は大混乱へと陥った。それでも武器を取った人々の活躍により魔物は倒されていき何とか滅亡の危機は乗り越えたのだが、魔女の反祈以降はこの世界の至る所で魔物が生まれるようになってしまったらしい。
その後、世界に厄災をもたらしたケベフの女性はこの事件で恐慌状態へと陥った恐れ妬む者達により殺害され、それからというもの、普通の人間同士の間でも稀に生まれるケベフは厄災の子として殺さなければならないという慣習まで生まれてしまったのだ。この慣習は今では国際法にまでなっており、それほどまでにケベフへの憎悪は根強いものなのだと分かる。
とまあ、この世界の古代の歴史に関してはざっとこんな感じだ。ケベフに生まれるだけでその子は殺されなければならないなんて、なんと恐ろしい法律か。自分の子供がケベフだったらと思うと血の気が引く・・・、ってその前に俺が子供を作ることなんて恐らくないし、リノスでのたった5年間に限ればその可能性は0だろうな。だから大丈夫だと思いつつも、別の意味で悲しい気持ちになってしまったのは何故だろうか・・・。
後は武器と魔法と古代語の結びつきも何となくだが分かった。今この世界に魔法があるのはケベフ達がハルウェルを読み取った成果に他ならない。この世界の暮らしを豊かにしたその功績を忘れて今では世間はケベフを憎悪の対象としか見ていないのは酷い話に思える。
ああでも、世間は、と言ってもこのネストール王国は例外だったな。何でもネストール王国は数少ないケベフを畏れ敬う者達によって建国されたらしい。今でもハルウェルとケベフを信仰の対象としている者が多く、ケベフを忌み嫌う他国に異議を唱え続けているのだ。逆を言えば、そのせいで他国から敵対視され、ネストールは苦境に立たされているとも言えるわけだが。
どちら側に付くかと言われれば、俺はネストール側に付く。別に信心深いわけではないが、今はこの国に家族のような人も友達もいる。それだけでも元々ボッチだった俺にとってはかけがえのない物なのだ。
まあ俺が付いたところで大した役には立たないと思うけどね。せめてできる限りの知識提供は惜しまないようにしようとは思う。
読んで下さってありがとうございます。
活動報告で後書きしてます。




