第32話:『リグレッション』
昨日はお預けを食らってしまった俺の未知の魔法の実験。今日は授業でのMPの消費を極力少なくしたから、万全の状態で試すことができる。
ミサさんとコマリさんも同伴だ。コマリさんは護衛だから当然だとして、ミサさんにはどうしても新しい魔法が判明する歴史的瞬間に立ち会いたいとお願いされた。ミサさんにお願いされて断ることなんてできないし、断る理由もない。よって、俺を含めた3人で実験をすることになった。
そしてやってきたのは首都ネストの西門の外にある草原地帯。ここは別の出入り口である東門、南門の外に比べて魔物が非常に弱く、よく冒険者志望の子供たちがレベルを上げるために親や親戚の冒険者と共にやってくる初心者用マップって感じだ。
今日はその一角を国の権限で立ち入り禁止にしてある。そこで安全に俺の魔法を試すのだ。
「よし、周りに危険な魔物もいないし、これなら問題なく魔法を試せるだろう」
「いよいよですねー。どんな効果なのかすごくワクワクしちゃいます!」
周囲の安全確認を終えたコマリさんの言葉にミサさんが笑顔で答える。ミサさんには昨日は肩透かしをさせてしまったから、今日はきっちりと期待に応えたいところだ。
昨日発覚した呪文の一つである『リグレッション』は退行という意味らしく、生物の成長を促進する『グロウ』の対になるものなのだろうと推測できる。もう一つの『ポイントアップ』は点上昇という意味らしいが、これはどういう効果なのかよく分からない。これらの呪文は古代語なので、何か別の知られていない意味があるのかもしれない。
まあ、とりあえず簡単に試せそうな『リグレッション』を試すためにこの草が多い茂った場所を選んだのだし、こちらから試してみようか。
「それじゃあ使ってみますね。『リグレッション』!」
俺は手に持つ鎌を草に触れさせ、呪文を唱えた。予想通りなら草が縮むなり種になるなりするはずだが・・・。しかし何も起こらない。
「あれ?何も変わらないですね」
きょとんとするミサさん。
あ、あれえ?なんで草に変化が無いんだ?
「もしかして、呪文が間違ってたんですかね?」
「いや、それはないだろう。鎌が反応を見せていたからな。効果の見立てそのものが間違っていたか、別の条件があるかだが・・・。カイリ、一度『グロウ』を草に向かって使ってみてくれ」
コマリさんが考察をする。確かに鎌は光ってたんだよね。だから呪文が間違っているわけではないというのは分かるが、どうして『グロウ』を?
まあ俺にできるのは言われた通りにすることだけだ。
「分かりました、『グロウ』!」
すると、魔法の対象にした足首くらいの高さしかなかった草が一気に成長し、俺の背丈と同じになるくらいにまでになった。おお、これが『グロウ』か。成長魔法自体が実は使えないという可能性もあったが、どうやらそこは問題ないようだ。
「うむ、問題なく使えたな。なら、次はその成長した草に『リグレッション』を使ってみてくれ」
コマリさんが次の指示を出す。でも、それってさっきと何も変わらないんじゃないの?いまいちコマリさんの意図を掴めないが、ここは従う他ない。
「えっと、はい、『リグレッション』」
さっきと同じで変化なしになると思われたこの実験。しかし、今度はちゃんと魔法の効果が現れ、草の高さが初めと同じ足首の高さにまで戻った。
「え!?今度は魔法の効果が出るなんて、これってどういうこと?お姉ちゃん」
「ふむ、この『リグレッション』とやらは恐らく『グロウ』で成長させた分だけを元に戻すことができる魔法なのだろう。だから、一度目のただの草には何も効果が現れなかったのだろうな」
ほー、なるほど。その可能性にすぐに気付いたコマリさんってすごい・・・。ってか、何その微妙な効果!?『グロウ』を使っていることが前提の退行効果って何に使うんだよ。
「何か、すごく微妙、というか使い道が無さそうな魔法ですね・・・」
「まあ、魔法全てが有効に扱えるというわけではないですからね。でも、こうして新しいことが発覚しただけでもすごい進歩なんですよ」
がっかりする俺をミサさんが慰めてくれた。ああ、でもミサさんも内心落胆しているに違いない。あんなに期待されていたのにこんな空気になってしまうとは・・・。いや、俺が悪いわけではないんだけど。これで申し訳ない気持ちになるとかやっぱり俺って小心者なんだな。
読んで下さってありがとうございます。
活動報告で後書きしてます。




