side.L 第7話:甘いものを食べてみるわ 前半
私はこういう時にどこに行けばいいかが分からなかったから姫子に行きたいところが無いかを聞いたら、ショッピングモールに行きたいと言いだした。
高校の近くにある大きなお店みたいなんだけれど、実際にそれを見るとお城かと思うような大きさでびっくりしたわ。大きな建造物は所有者の力の誇示だっていうのがリノスでは常識だったけれど、この世界にはこのレベルの建造物があちらこちらに建てられているみたいね。お店なんかのためにこんな建造物を作るなんて呆れるわ。
「私は実家暮らしだから、ここのフードコートを使ったことがないの。だから、午前で学校が終わる今日はここで食べるチャンスかなって思って」
そう言う姫子に連れられて行ったのは、色んな食べ物を売っているこの建物の一角。うどん、ラーメン、牛丼など、興味が惹かれる食べ物がたくさんある。どれも食べてみたいけれど、私はこの世界に来たら食べてみたいと思っていた種類の食べ物があるわ。周りの食べ物屋さんを見ていくと・・・。あ、あったわ、あれね。
「海入君は何か食べたいものある?」
ちょうど姫子に尋ねられたから、
「あれがいい、鯛焼き!」
迷わずそう答えたわ。リノスでは甘い物なんてほとんど食べる機会が無かったから、この世界に来たら絶対に食べたいと思っていたの。
「え、鯛焼き?ラーメンとかじゃないんだね。海入君って結構甘いもの好きなんだ」
「うん、ずっと甘いものを食べたかったんだ。だから俺は鯛焼きにするよ。姫子はどうする?」
「海入君が鯛焼きにするなら私も鯛焼きにしようかな。私も甘い物が好きなの!」
あら、姫子も甘い物が好きだなんて、気が合うわね。というか、勝手に海入に甘い物好きのイメージを付けちゃったけど、問題ないわよね?海入も甘い物は好きみたいだし。
そんなことを思いながら、私は姫子と鯛焼きを買ったわ。
席に座って、手の中の出来立てで温かい鯛焼きを見つめる。鯛という魚を模したこの造形、これだけでもかなりの価値がありそうに思えるわね。早く味わいたいし、早速食べてみましょう。
「何これ、すごく甘い!」
外側の生地も十分甘くて美味しいのに、その中に包まれたこの餡子っていう黒い塊は更に何倍も甘く感じるわ。リノスでここまで甘いものを食べようと思ったら一体どれだけのお金が必要かしら。
「鯛焼きなんだから、甘いに決まってるよ。海入君、おかしなこと言うね」
ああ、思わず口に出しちゃったから姫子に訝しがられているわ。味覚とかの感覚的な記憶は薄れやすくて正確に引き出すことができないみたいだから、この甘さは予想外だったのよ・・・。
でも、そんなこと言うわけにはいかないし、ここは話を変えてごまかすしかないわ。
「そ、そんなに変かな?それよりも、姫子が食べてるのって、俺のとは中身が違うよね?」
「あ、私はカスタードクリームで注文したの。良かったら食べてみる?」
話を変えたかっただけの私に、姫子は鯛焼きをちぎって差し出してくれた。
「う、うん、ありがとう」
厚意を無駄にするわけにはいかないし、このカスタードクリームという物も味わってみたかったから受け取って食べてみたわ。そしたら、これもまた甘くてその上なめらかで、とてもおいしかったの。この世界の甘味、本当にレベルが高いわね・・・。こんなにおいしいものを分けてくれた姫子にはお返しをしないといけないわね。
「うん、カスタードクリームもおいしいね。お返しに姫子には俺の餡子のやつをあげるよ」
そう言って私は自分の鯛焼きを姫子に差し出したわ。そしたら姫子は少し様子が変になって、
「え、海入君が食べかけのところからって、それって間接キ・・・、い、いや何でもないの。頂きます・・・」
と、モゴモゴと言いながら顔を赤くして一口私の鯛焼きを齧ったわ。鯛焼きを食べるだけでこんなに恥ずかしそうにするなんて、姫子も充分変よね。まあその話をぶり返すわけにもいかないし、別の話をしようかしら。
読んで下さってありがとうございます。




