第1話:目が覚めたら女の子になってた
初めまして、鎌ろんです。
目が覚めると、知らない部屋に居た。
俺は明後日から再び始まる学校生活のことを憂鬱に思いながら、夏休み最後の日をどうやって過ごそうか考えながら眠っただけの普通の高校生だったはずだ。
まだ寝起きで頭がよく回らないが、何とか状況を理解しようと体を起こして周囲を確認しようとした。
その時俺は、俺の体の異変に気が付いた。股の部分がとても心許ないのだ。
慌てて手を当てて確認をするが、やはりそこに有るべきものが無い。
まさかと思い、俺は自分の胸に手をやった。予想していた程のものではなかったが、そこには昨日までの俺にはなかった膨らみが僅かながらにも有った。
「まさか俺、女の子になってる!?」
俺が驚いて声を上げると、部屋のドアが開いて女性が一人部屋へと入ってきた。ふわりとした茶髪で柔らかな雰囲気の若い女性だ。
その女性は俺に向かって何かを言おうとした。この訳の分からない状況を理解するためにもできるだけ情報を得たいと思ったが、
「~~~~~~~~」
何を言っているのか聞き取れない。日本語ではないし、英語というわけでもなさそうだ。しかし、何故か俺はその言葉を知っているような気がする。
状況の変化に頭が追い付かないが、今すべきことは目の前の女性の動きに注意することだ。
朝起きたら知らない部屋にいて何故か体が女になっている。こんな訳の分からない状況に現れたこの人が何の関係もない人物であるはずがない。相手の出方次第ではこちらも抵抗する準備をしなければいけない。
その女性はこちらが警戒していることを感じ取ってか、こちらの緊張をほぐすような笑みを顔に浮かべてもう一度口を開いた。
「そんなに警戒する必要はありません。私はあなたの敵ではありませんから」
今度ははっきりと聞き取ることができた。知っている日本語や英語ではないのに。
まあ分かるのだからそれに越したことはない。言葉が通じるのならこの状況を説明してもらうのが最重要だ。
「敵ではないと言われても・・・。俺の身に一体何が起こっているのか説明してもらえますか?」
そうやって日本語で口にしてみた。しかし女性は困惑した顔で
「えーっと、あの・・・。残念ながら私、そちらの世界の言葉は分からないんです。でも、あなたはこの世界の言葉を知っているはずなんです。だって、私の言葉を理解できているのでしょう?。一度、しっかりと記憶を辿ってみてはいただけませんか?」
そんなことを言われても知っているはずがない、とは思いつつも確かに知らないはずの言葉を理解できている。その事実があるので渋々と俺は言われたとおりに自分の記憶を漁ることにした。
すると、何故かこの知らない言葉を使ってきた記憶、そしてその言葉を使って営んできた生活が思い浮かんだのだ。
今までやったことなどないはずなのに、確かにやってきたとも思える不思議な感覚。まるで夢を見ているかのような感覚だ。
とにかくこの未知の言語を話すことはできそうだ。底知れない恐怖はあるが、俺は恐る恐るこの言語を使ってみた。
「えっと、目が覚めたらこんな知らない部屋に居て、性別まで変わってて・・・。一体俺の身に何が起こっておるのかまるで分からないんです。あなたはあまり悪い人には見えませんが事情は知っているようなので、今がどういう状況なのか教えてもらえますか?」
おお、なんだこの感じ。日本語以外でこんなにペラペラと喋れるなんてすごく新鮮だ。中学から学んできた英語ですらこんなにうまく喋れないのだから、ここまで話せるのは楽しい。
「ふぅ、良かった。今回も記憶の共存には成功したみたいですね。言葉が通じないと何も説明できないので一安心です。
えっと、あなたの身に何が起こったかでしたね。それはズバリ、異世界転身魔法です」
良かった、言葉が通じたみたいだ。これで色々聞きだすことができる・・・って
「え?異世界?転身?しかも魔法!?」
連続して驚きの単語が聞こえてきて、俺の思考が危うく停止するところだった。
「はい、そうです。ここはあなたが暮らしてきた地球という場所とは別の世界でリノスといい、その中のネストールという国に居ます。そしてこの国の英雄であるズーク様だけが使えるのが異世界転身魔法であり、あなたはその魔法でこちらの世界のルティアという少女と意識を入れ替えられたのです」
うわあ、マジでここ異世界なのか・・・。
しかし、転生とか転移とか召喚じゃなくて、魂だけを入れ替える「転身」?なんで召喚魔法じゃなくて転身魔法なんて面倒くさそうなことを?
そう疑問に思ったことについても、女性が事情を説明してくれた。
まず、この国は常に魔物や周辺国との争いに頭を悩まされていること。それらの争いで優位に立つために、異世界の者に頼ろうという試みが行われている。
まあこれは俺がよく読む異世界物の話だとよくあるな、と何となく納得できる。
そして、異世界との交流手段だが、異世界から人を召喚するような魔法はなく、さっきの話に出てきたズークという人だけが使える異世界転身魔法のみが地球とリノスを繋ぐことができるという。
この魔法だが、発動インターバルが非常に長く、5年に一度しか使用できないらしい。その兼ね合いで、そのズークがその魔法を使えるようになった10年前からまだ3度しか使われていない。
だからまだこの魔法のことも完全には解明されていないのだ。ちなみに、1度目と2度目の魔法ではこの国の王に使える忠臣の子供を対象に使われ、1度目の対象者は5年後に魔法が解けて意識が無事に帰還、2度目の対象者は入れ替わりでリノスへと来た者がこの世界で死んでしまい、対象者は未だに地球から戻って来れていないのだという。何とも恐ろしい話だ。
それからは忠臣の子供から対象者を選ぶということに反感が懐かれるようになり、3度目である今回はこの国の有能な孤児を保護・教育している施設から適した子供を選び抜いて転身魔法の対象としたらしい。
それがこの体の本来の主の少女で、「ルティア」という名前なのだそうだ。
そして、この魔法で入れ替わった者は、元の自分の記憶と、入れ替わった後の体の記憶の両方を持つことができる。だからこの世界の言葉も分かるし、あたかも自分が体験したかのように感じるこちらでの生活の記憶もあるわけだ。
入れ替わりで得る記憶に関しては体と意識が完全に馴染まないと知ることができないことも多く、また思考回路の違いから絶対に思い至ることができない記憶もあるのだそうだ。
とりあえず、どうしてこの世界に来ることになったのか、どうして体が女の子になっているのかという疑問は解消された。それでもまだまだ気になることは多いのだが・・・。
「さて、説明はこれくらいにして。積もる疑問はあるでしょうが、言葉が通じるようになったということで、まずはこの国の王へと謁見してもらいます。国王は寛大なお方ですが、最低限の礼節は弁えてくださいね!」
女性からの爆弾発言。え、いきなり国王と会うの?確かに国の一大事業っぽいから国王も興味がある話なのか?まだ全然詳しく知らない世界で礼節とか言われても困るんだけど。
しかしこれは決定事項らしく、あれよあれよという間に身なりを整えさせられ、俺は馬車に押し込まれることになったのだ。
1話の最後まで目を通してくれて、ありがとうございます。
異世界転身、これからお付き合い頂ければ幸いです。