料理人見習いを見つけました
お言葉に甘えて、厨房の隅から色々観察する。
調理器具は前世で使っていたものと同じものもあるな。食器はやっぱり洋食向きよね。お箸やお椀的なものを見つけないといけないなぁ。それか特注?
肝心の食材はというと・・・。
たまねぎ、にんじん、じゃがいもは問題なさそう。トマトやナス、キュウリも心配ないかな。お米・・・はここからじゃどこにあるのかわからないけどジャポニカ米じゃないよね、きっと。リゾットくらいしか米料理食べたことないもん。残念。けどジャバニカ米でも米ぬかはとれる?よね?そうなるとぬか漬けはできるかも!大豆・・・はこの世界にもあるのかな?大豆があればお味噌とか醤油とか・・・自家製はかなり難易度高いけど、長い人生、挑戦してみる価値はあるよね。
和食についてあれこれ考えながらしばらく厨房を眺めていると大人達の中に一つだけ小さな人影を見つけた。
こんなところに子供?
不思議に思ってさらに注意深く見てみるとそれは私と同じ歳くらいの少年だった。どうやらリンゴの皮を剥いているようだ。
え、この子この歳でもうリンゴの皮剥けるの?すごくない??
真剣に手元へ集中して作業する横顔を思わず食い入るように見た。すると私の視線に気づいた彼はふと手を止めてこちらを向いた。私は小さく息を呑む。
なにこの子超かわいい・・・!!!
窓からの光で少し茶色く透けて見える黒髪は見るからに柔らかくさらさらで、不思議そうにこちらを見つめる瞳は夜明けを予感させる空のような澄んだ瑠璃紺色だ。目も鼻も口もその顔を形作る全てが抜群に整っている。左目尻の下にとても小さなほくろが三つ並んでいるのが珍しいが、それもとてもチャーミングだ。
この造形美はもしかして攻略対象?でもこんな髪や目の色の人はいなかった気がする。隠しルートキャラはケントだし・・・。
「あの、何か?」
思わず見惚れていた私に少年が声をかけてきた。
やっばい、声もかわいい・・・じゃなくて。
不審者を見るような彼の目つきをなんとかすべく私は慌てて笑顔を作った。
「あ、ごめんなさい。そんな歳でもうリンゴの皮を剥けるなんてすごいから、思わず見入っちゃった。あなたも料理人なの?」
「え?あ、それは・・・どうも・・・・・。俺はまだ見習いです」
「そうなんだ。すごいね」
「そうですか・・・?」
『そうですか?』て!私が初めてリンゴの皮剥いたのは前世で十歳の時家庭科の授業でよ?それがもっと幼いのにもう料理人見習いで、大人が傍についていなくても大丈夫なレベルって相当だと思うんだけど。
でも彼は『なんでこんなあたりまえなことにそんな感心されているのか』とでも言いたそうな表情をしている。怪訝な顔でもイケメン。すごい。
「すごいわよ!本当にすごい!あなたは・・・えっと、あ、ごめんなさい。まずは自分からよね。私はシトラス・ルベライト。あなたは?」
「フィオです」
私が名乗ると彼は持っていた包丁とリンゴを置いて、私にきちんと向き直った。礼儀正しい子だな。
「フィオ、よろしくね。ところでそのリンゴで何作るの?」
「アップルパイです」
「え、アップルパイも作れるの?」
「いえ、シトラス様達にお出しするものはジル料理長達が作ります。俺は余る材料で練習をさせてもらうだけです」
アップルパイかぁ。好き。
和食和食言っている私だが、もちろん洋食も好きだし、スイーツも大好物だ。前世ではドーナッツとかパウンドケーキとかも作ったなぁ。
前世で作った和洋折衷色々思い出して、ふと料理したい気持ちがむくむくと膨らむ。『食べたい』は最大の原動力だ。
私は思わず「私も作りたいな」と零していた。