まずは食材確認を試みます
「まずは食材確認よね」
自分の破滅フラグ回避方法が意外とシンプルであることがわかったので、私はさっそく次の課題に取り組むことにした。
和食だ。
前にも話した通り、この世界で主食はパンやパスタである。前世でいうところのヨーロッパみたいな感じ。お米もあるけどリゾットなどによく使われるジャバニカ米で、日本人が愛してやまないジャポニカ米ではないし、お米をふっくらと炊いておかずと一緒に食べるというような文化もない。スープはだいたいコンソメスープかクリームスープかミネストローネ、メインは魚か肉を焼いてソースをかけて食べる。ソースも色々種類があってどれも美味しいけど、どこかホッとする醤油ベースは今まで出てきたことがない。
そんな世界で一体どれだけ和食を追求できるのか。
「市場に行ってみたいなぁ」
食材は基本的に料理人が市場まで赴き、選んだ食材を後日業者に届けてもらう。公爵家令嬢は自ら厨房に立つことはもちろん、市場まで出向くなんてあり得ない。そんなことは百も承知だが、食材を自分で見てみないことには和食追求が進まないのも事実。絶対市場に行ってみせる。破天荒令嬢。大いに結構じゃないか。
ただ―――――
「さすがに七歳児は市場に連れていってもらえないよねぇ・・・」
そう、ただでさえ蝶よ花よの公爵家令嬢なのに、これまた七歳ときたもんだ。
いくら中身が三十代とは言え周囲にそれを理解してもらえない以上私は七歳女子。前世でだって一人で買い物に行かせてもらえるかどうか微妙なラインだからなぁ。
かと言って、一人で市場へ行けるような年齢になるまで何もしないのはもったいない気がする。時は金なり。
さてどうするか・・・。
「とりあえず、家の厨房にあるものを見せてもらおうかな」
侍女のベルに厨房を見たい旨を伝えると案の定反対された。
そうだよね。貴族令嬢は生まれて死ぬまで自分で包丁は握らないものなんだよね、きっと。しかも私まだ七歳だから、傍から見ると危ないもんね。中身三十代でもね。某有名眼鏡少年探偵の気持ちが今すごくよくわかるわ。
でもそんなすぐには諦められません!
「お願い、ベル。刃物とか絶対に触らないし、料理人さん達の邪魔はしないように隅で見学するだけって約束するから!」
そう言って頭を下げる私にベルは青褪めた。
「シ、シトラス様!私のような者に頭を下げてはなりません・・・!わ、わかりました!わかりましたから!」
しまった。
つい前世の感覚で頭を下げてお願いしてしまったけど、こちらの世界では貴族は使用人に頭なんて下げないのが普通なのか。
でもそれってなんだか性に合わないんだよねぇ。体育会系みたいな厳しい上下関係で生きてきたわけじゃないけど、基本的に人様に偉そうにものを言ったり何かをさせたりというのは気が引ける。
私、そんなたいそうな人間じゃないし。
そんなことを考えている私にベルはお父様達から厨房へ見学に行く許可を得るよう提案した。
「まずはネクター様とミラベル様にお話してみてはいかがでしょう?お許しが出ましたらお連れします」
なるほど。ごもっともだ。
「わかった。じゃあさっそく行きましょう!」
『思い立ったが吉日』主義の私はさっそくお父様達のところへ向かった。
ベルが何とも言えない表情で後ろをついてきていることなんて、もちろん知らない。