期末試験終了です
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疲れた。疲れ果てた。
『異文化研修絶対参加』という目標の下、前世含め未だかつてないくらい勉強した。もともと頭の出来が良い方ではないもんで、いくらやっても不安でなんかもう夢の中でも勉強してたから今が現実なのかそうじゃないのか区別がつかないほどだ。
そしてとりあえず運命の期末試験をすべて提出して、今に至る。これが夢で目覚めたらもう一度期末試験開始とかいう展開になったりしないよね?大丈夫よね??頼むよほんと。
「おつかれさま、シトラス」
自席ででろでろのスライムみたいになっている私にリムが労いの言葉をくれる。
「お義兄様こそおつかれさまです。ご自分の勉強もあるのにたくさん教えてくださって・・・申し訳ないくらいでした」
「そんなふうに思わなくていいよ。シトラスのおかげで僕もいつもよりがんばれたから。一緒に異文化研修行けるといいね」
義妹に向けている、なんてことない笑顔のはずなのに周囲の生徒達が思わず頬を染めて見入っている。美形の破壊力。
「そうですね。念願のヒスイ国へ行ける貴重な機会ですからぜひ参加したいですけれど・・・異文化研修に参加したい方は他にもたくさんいらっしゃいますし、私より頭の良い方も多いですから、現実は厳しいかもしれませんわ」
私も勉強がんばったけど、他の人達もがんばってるからな・・・。
リムと話しているとステュアートとライセもやってきた。
「ずいぶん弱気だな。あれだけがんばってたんだから自信待てよ」
「そうだよ。異文化研修に行く準備でも始めてたらいいんじゃない?」
「ステュアート様、ライセ様・・・」
2人とも励ましてくれてる・・・優しい・・・しゅきぴ。
「お気遣いありがとうございます。お2人がわかりやすく教えてくださったおかげで前回よりは手応えがあったかとは・・・思います、が・・・・・結果はあんまり楽観視するとダメだった時にショックが大きいので覚悟だけはしておきます」
「たしかに一生懸命努力した分結果が出るまでは緊張するものだな」
エリクも会話に混じる。その後ろにはケントもいた。
「前回首席でも緊張するんですか?」
「それはそうだろう。油断すると誰に抜かれるかわからないからな。たとえば隣国の優秀な留学生とか」
「たしかにそれは怖いですね。その留学生も異文化研修に参加したくて必死でしょうから」
「研修先の1つはその留学生の母国でしょ。どうせ夏休み一時帰国するんじゃないの」
ライセの指摘にケントはあっけらかんと応えた。
「そうですけど、ただの一学生としてヒスイ国やサファイア国に行ける機会なんて貴重じゃないですか」
「そりゃそうだ」
ステュアートが笑いながらケントの肩を軽く叩く。
「もちろんエメラルド国にお越しの際はきっちりおもてなししますよ」
「それは楽しみだなぁ。エメラルド国の水路の街とか行ってみたい」
リムが年相応にわくわくしている。
イケメン達の男子学生らしさ満載のやりとりを微笑ましく眺めていたらちょっと疲労感が和らいだ気がする。イケメンってマジで健康に必要不可欠だと思う。
期末試験を終えた次の日。久しぶりに勉強をしなくても許される休日だ。私は朝食後はダラダラ惰眠を貪り、昼食後は自室の窓辺でぼんやりとしていた。
本当は久しぶりに手の込んだ和食を作りたかったのだが、気怠さが邪魔をしてなかなか厨房へ足が向かない。勉強の疲労もあるけど、結果が出るまで落ち着かないという緊張もあるんだろうな。小心者な私。前世の頃から何か心配や緊張することがあったら何も手につかなくなってしまう。成長してないなぁ。
ジメジメとした自己嫌悪に陥りそうになっているとベルからお茶の時間だと言われた。
ティールームへ入るとテーブルの上に白いキューブ型のケーキのようなものがあった。生クリームらしきもので表面を綺麗にコーティングされたそれはどうやら今日のお茶請けらしい。
お父様お母様リムも席に着くとベルがその白い立方体にナイフを入れた。
「わぁっ・・・!」
現れた断面を見て私は思わず歓声を上げた。
イチゴやキウイ、バナナやメロン、ブルーベリーなどフルーツと生クリームを薄いパンに挟んで何層にも重ねられたそれはフルーツサンドというよりミルフィーユケーキに近い。断面がとてもカラフルで華やかなだ。
フォークを入れるのがもったいないほど美しいフルーツサンドを一口頬張る。口の中にバターの香りがしっかりとした薄いパンの柔らかさと甘さ控えめな生クリームのなめらかさとそれぞれの果物の風味豊かな瑞々しい甘さが広がって思わず目を見開いた。
「美味しい・・・!」
疲れた心と身体にみるみる元気があふれてくるようだ。
「甘いサンドイッチなんて斬新だねぇ。美味しいなぁ」
「見た目もケーキみたいに美しいですわ」
「食べる手が止められませんね」
お父様にもお母様にもリムにも大好評なフルーツサンド。これはきっと、うぅん絶対、フィオの作ったものだ。
私はそう確信して家族でのティータイムが終わるとまっすぐ厨房へ向かった。
厨房へ辿り着き、私がノックをして扉を開けると料理人達は夕食仕込み前の休憩中だった。
もう厨房に来るのがあたりまえ令嬢となっている私に彼らもとても気さくに接してくれるようになった。
料理人達に軽く挨拶してフィオを探すと厨房の奥でジル料理長と話しているのを見つけた。
私に気づいたジル料理長がフィオに何かを囁くと、フィオがこちらを向く。そして私の姿を認めたフィオのところへ私は歩み寄った。
「今日のフルーツサンド、とっても美味しかった!すごく綺麗でびっくりしちゃった」
「それはよかった。ささやかだけど、お祝いのつもりで作ったから」
「お祝い?何の?」
「期末試験終了」
期末試験終わっただけなのにお祝い??
「すっごくうれしいけど、結果はまだ出てないから、こんな美味しいフルーツサンドをいただく理由にならない気がするんだけど・・・」
こんなにしてもらって残念な結果だったら申し訳なさすぎるし。
「結果が出たらまた改めてお祝いに何か作る。勉強、すごくがんばってただろ。だから、まず、そのがんばりに何かしたかったんだよ」
「おむすび作ってもらって俺も勉強捗ったしな」と、あいかわらずの無表情でフィオはなんてことないようにそう言ったけれど、私はなんだか照れてしまう。がんばっていたことを認めてもらえるだけでもくすぐったいくらいなのに、『結果が出たらまた改めてお祝い』って、良い結果だと信じてもらえているのも言葉にできないくらい、ただ、うれしい。
「・・・あ、りがとう」
なんだか胸がいっぱいで、なんとかお礼を言うのが精一杯だった。




