みんなで勉強会です
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「いぶんかけんしゅう?」
放課後、帰り支度をしているとエリクから声をかけられたので話を聞いていたところそんな単語が出てきた。
「そうだ。今までになかったことなんだが、せっかくケントが留学しに来てくれていることだし、色々な国の文化に触れる研修があってもいいかと思ってな。期末試験成績上位10名が夏休みにエメラルド国、ヒスイ国、サファイア国を巡る研修を企画してみたんだ」
そしてヒューゴ宰相に絶賛され、企画は無事採用ということになったそうだ。
「企画した張本人が成績悪くて参加できないのは格好がつかないから今まで以上に勉強がんばらないとな」
そう言って笑うエリクだが、私は知っている。この人先日の中間試験が学年1位だったんだよな。ライセも同列1位で3位がリム、4位がケントで5位がステュアート、6位アミル同列クロエ8位リィラと続く。私は20位。クロエと一緒に勉強したおかげで学年では上の方だけど30人くらいいる特進クラスの中では中の下。現時点で参加は夢物語だ。
でもあと数年先じゃないと行けないと思っていたヒスイ国に合法的に行けるまたとないチャンス!妥当エリクの勢いでがんばらないと・・・!
「シトラス、よかったら一緒に勉強しない?」
妥当エリクという無謀な目標を立てていた私の顔をリムが覗き込む。
「本当ですか!?助かります・・・!」
1人で勉強するとやっぱり和食作りの誘惑に負けるからな・・・!
「それはいいな。良ければ俺も混ぜてくれないか」
「俺も俺も!ライセも一緒にやるだろ?」
「人を勝手に巻き込まないでくれる?・・・と言いたいところだけど、たしかに一緒に勉強したらわからないところとか教え合えるから、いいかもね」
「俺も混ぜてもらっていいですか?」
エリク、ステュアート、ライセ、ケント・・・と攻略対象が芋蔓式に増えた。なんか豪華なことになってきたな・・・。このイケメン優等生軍団は私だけでは荷が重いでござる。
私は少し離れたところで見守ってくれていたクロエに振り返る。
「クロエも一緒に勉強しよ!(イケメンは健康に良いけど過剰摂取は心臓が負けるので一緒にいてくださいお願いします)」
「もちろん!誘ってもらえてうれしいわ!(大丈夫昇天覚悟でイケメンとともに過ごせる幸せを分かち合いましょう)」
よかったぁ!これで少しは心穏やかに勉学に励めそうだと安堵していると教室のドアから出て帰ろうとしているフィオと目が合ったので近くまで駆け寄る。
「フィオも一緒に勉強しない?」
「気持ちだけありがたく受け取っておく。俺にも気さくに話してくださる方々だけど、緊張して勉強どころではなくなりそうだからな」
なるほど?なんか全然緊張とかなさそうだけど。まぁ無理強いはできないもんね。残念だけど仕方ない。
「じゃあお休みの日は一緒に勉強しようよ。フィオはもしかしたらあまり興味ないかもしれないけど、私はフィオと一緒に異文化研修参加できたらすっごく楽しいと思うの!だから一緒にがんばれたらうれしいな」
「・・・わかった」
「まぁ、一緒にがんばったのにフィオだけ研修参加できて私だけお留守番という不吉な未来が見えなくもないんだけど・・・」
フィオは前回の中間試験15位だから、私より可能性あるもんな。
「やれるだけのことをやるだけだな」
「・・・うん、そうね!」
フィオの言うことってすごくシンプルなのに心に響いて、背筋が伸びる感じがする。私と違って余計なこと言わないからかな?不思議と言葉の深みや重みが違う気がする。私の方が精神年齢高いはずなのに・・・私も精進せねば!
先に馬車で待っていると言うフィオが教室から出ていくのを見届けてからエリク達の元へ戻ると、勉強会は明日の放課後からということになっていた。
「結構な大人数になるけどどこで勉強する?」
そして場所はどうするかという話題に移り変わる。
「図書室じゃないの?」
「教え合ったりするなら多少の会話も気にならないところがいいんじゃないか?」
「じゃあサロンはどうだ?勉強途中喉が乾けば給仕がお茶を入れてくれる」
サロンなら小腹空いた時に何か食べても大丈夫だから心底ありがたい。勉強するとおなか空くもんね。私のおなかの音が静かな図書室に響き渡って出禁になると困るからな!
次の日の放課後、私達はさっそくサロンに集まった。
勉強会が始まったところだか私のおなかが早くも鳴りそうだ。恥を忍んで「ちょっと軽食をとってもいいですか・・・?」とクロエ達に控えめに尋ねる。
「たしかに小腹減ったな」
「何か食べた方が勉強の効率は上がるかもね」
「サンドイッチか何か頼むか?」
心優しい攻略対象達は「勉強始めたばっかやないか!」と怒ることも呆れることもなく、メニューを渡してくれる。尊い。
サロンのサンドイッチもスコーンも大変魅惑的だけど、今日私が食べたいのは・・・これだ!
「ヒスイ国の軽食『おむすび』です!」
家から持ってきたバスケットの蓋を開ける。鮭の身を焼いてほぐしたものや昆布やしめじを甘辛く煮たもの、味付け卵を具として入れてあるおむすびや塩と枝豆を混ぜ込んだごはんやにんじんのぬか漬けを刻んで混ぜ込んだごはんで握ったもの、握って表面に醤油を塗って焼いたもの、もちろんシンプルな塩むすびまでよりどりみどりだ。中に具を包んでいるものは何が入ってるのかわかりやすいようおむすびのてっぺんに少しだけ具を乗せてある。
「たくさん作ってきたので、よろしければ皆様もいかがですか?」
「本当か?それはうれしいな」
「ありがとう、シトラス」
皆が興味深そうにおむすびを見ている。
「美味しそうだね。これはどうやって食べればいいの?」
ライセがそう尋ねてきたので私は手でおむすびを待つふりをしながら答えた。
「パンみたいに手で食べられる軽食です。遠慮なく好きなものを召し上がってください」
私以外の全員が1つずつおむすびを手に取ったところで私も遠慮なく味付け卵おむすびを摘んだ。そして大きな口を開けて盛大にかぶりつく。
おっいしいぃぃー!醤油が染み込んだぷりぷり白身にホクホクの黄身がごはんとともにほぐれてうまみが口いっぱいに広がってまさに至高。飲み込んだ後も幸せ。
「・・・パンみたいにと言ったけど、一口サイズにちぎって食べるんじゃないんだね」
ライセの言葉でハッと我に返る。しまった。貴族令嬢なら上品にちぎって食べるべきだったか・・・否!!!
「むしろこうやって食べるのがヒスイ国の作法ですわ!」
「そ、そうなんだ?」
「そうです!ですからがぶりと!大胆に!!」
思わず力が入ってしまったのは自分の行いを絶対的に正当化したいからではない。これが作法だ。作法ったら作法。
「・・・っうまい!」
「具の塩気がごはんとバランス良くて美味しいね」
「枝豆の風味がいいな」
「これはにんじんのピクルスか何かですか?食べたことない味わいですけど、美味しいですね」
「海藻とキノコ?珍しい組み合わせだけどクセになりそうだ」
「このおむすびも香ばしくてうまい。ヒスイ国独自の調味料・・・ショウユだったか?無事ヒスイ国に研修で行けたら買いたいな」
そうでしょうそうでしょう。一周回って塩むすびのシンプルさも非常に美味ですよ。
クロエも前世の懐かしさからかにこにこしながらおむすびを頬張ってる。美少女のにこにこ、かわゆすが過ぎる。
おむすびでおなかがいっぱいになったおかげで私は無事勉強会に集中できた。勉強会というより『シトラスに勉強を教える美男美女の集い』みたいになってしまっていたような気がするけど、深く考えないようにしよう。
家に帰って着替えに部屋へ戻ると机の上に小さなメッセージカードが置いてあった。ベルに確認するとフィオから預かったものらしい。封筒にすら入っていない簡易な二つ折りの淡いシトラスイエローのカードに綺麗な字で一行。
『おむすび美味かった。ありがとう』
よかった、厨房に置いておいたフィオの分のおむすび、食べてくれたんだ。
私は思わず口元を緩ませてそのカードを丁寧に畳み、机の一番上の引き出しに大事にしまうと、制服から着替えるためベルの元へと急いだ。




