これは、予想外です
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次の日、誰に対してなのかわからない気まずさを感じつつ登校してきた私を待ちかまえていたのはケントだった。
「きちんと挨拶を交わしたことはありませんでしたね。改めて、ケント・エメラルドと申します」
「・・・こ、の度はケント・エメラルド殿下にお声がけいただき誠に光栄でございます。ダイアモンド国ルベライト公爵家のシトラスと申します」
「そんなに畏まらないでください。クラスメイトではないですか。ぜひ俺のことはケントと呼んでください。俺も名前で呼んでもいいですか?」
突然の申し出に私はギョッとした。私はあなたのこと前世の時から知ってるけど、あなたは私とほぼほぼ初対面でしょ?!
「名前は好きに呼んでくださってかまいませんが、私がエメラルド国の王子を、そんな恐れ多い・・・」
「俺が呼んでほしいんですよ、シトラス」
だめですか?と微笑みながら小首を傾げてくる感じがあざと可愛いったらない。
「・・・では、お言葉に甘えます、ケント様」
あんまり固辞してもケントや周囲で聞き耳を立てている生徒達の心象を悪くしてしまうかと思い、承服することにする。
私の返事に満足したケントはさらにその笑みを深めた。
「これからよろしくお願いします、シトラス。ところで、よく裏庭で食べているあれは何かお聞きしてもいいですか?」
ケントの言葉に私は固まった。
見 ら れ て た。
「・・・・・僭越ながら私が作ったお弁当です・・・」
お弁当については何も思わないが、お弁当を食べてる時の私はかなりテンション高くて側から見れば恐ろしく気持ち悪かったであろうことを考えるとひたすらに恥ずかしい。
「シトラスが作ったんですか?すごいなぁ」
イケメン、しかも他国の王子に面と向かってまっすぐ褒められることのなんと気恥ずかしいこと。必死になんとか「ありがとうございます・・・」と口にした。
「シトラスは料理上手だから何作らせても美味しいが・・・」
ケントと話しているとエリクがそう言いながらやってきた。
「さすがに他人の弁当まで作っていたら大変だろう。そう思って俺もお願いしたいのを我慢しているんだ。ここは一つ、ケントも遠慮してくれないか?」
「そうですよね。すみません、ちょっと期待を込めて言ってしまって」
「いえいえそんな・・・っ」
エリクの茶目っ気たっぷりの言葉を受けてケントが軽い調子で謝った。王子2人の冗談っぽいやりとりは微笑ましくもどこまで冗談かわかりにくくて心臓に良くないな。
「では、目的も果たせたことですし、俺はそろそろ自分の席に戻りますね。シトラス、また話しましょう」
「ひゃ、ひゃい!失礼します!」
噛んだ。
まぁもうこの程度の失態は私のデフォルトなので致し方ない。
しかしケントの言っていた『目的』とは何ぞ?
そんなようなことを考えているとふとエリクが私を見ているのに気がついた。
「・・・もう、普通に話しかけていただけないのではと思っていました」
私がそう言うと、エリクは困ったように微笑った。
そうか。もしかしたらさっきケントが言った『目的』というのはエリクが私に自然に話せるきっかけを作ることだったのかもしれない。
「俺も無意識に人前でシトラスを敬称なく呼んでいたことが今回こんなことを引き起こしてしまったのなら今後改めねばと思ったんだがな・・・『今更呼び方変えたら逆に意識しているみたいで周りに痛くない腹探られるからそのままにしとけよ。堂々としてろ』とステュに言われて、それもそうかと」
さすが伊達男ステュアート、肝の座り方が違う。
「『急に距離をとる呼び方したらシトラスが色々気に病むよ』とリムにも言われたし」
さすが気遣い紳士リム、フォローの言葉が絶妙だ。
「『男女かかわらず気心知れた人間はきちんと守りつつある程度周囲に知らしめとくのも悪くないよ。だいたいは手出ししたらダメだなってわかってくれるもんなんだから。今回みたいな愚か者が今後出ないとも限らないけど、そんなのに負けるようなやつ、エリクの周りにいないよ。シトラスだって、あんな啖呵切れるんだから、わかるでしょ?』とライセにも言われてな」
さすが策士ライセ、一応それは褒め言葉と受け取っておくね。
「・・・本当に俺は良い友に恵まれた」
独り言のように小さな声でそう呟いてからエリクは改めて私に向き直った。
「この先、俺の『王子』という肩書きが足枷になってシトラスに迷惑をかけてしまうことがあるかもしれない。でも、そうならないよう努め、今後今回みたいなことがないよう、俺が必ずシトラスを守るから、これからも変わらず接してくれないか」
まっすぐこちらを見るダイアモンド色の瞳がとても真剣だったから、私はなんだかすごくドキドキしてしまって黙ってこくこくと頷くことしかできなかった。そんな不敬罪な私を見てエリクは安心したように優しく微笑み、「ありがとう」と言った。
「シトラス様!」
1日の授業を終え、帰宅しようとルベライト公爵家の馬車が待つ場所へ向かっていると後ろから呼び止められる。立ち止まって振り返ると、こちらへ走ってくるアミルの姿があった。
「アミルさん」
「お帰りのところ急にお止めしてしまって申し訳ないです。今5分ほどお時間をいただくことは可能でしょうか?」
「も、もちろん。何かありましたか?」
ドギマギしながら尋ねるとアミルは小さく頭を振った。
「いえ、昨日のことで、一言お礼をお伝えしたくて・・・」
なにそれちょっとあなたいい子すぎない?おばさん涙出ちゃう。
「お礼だなんて、とんでもない。むしろ今回は私への逆恨みに巻き込んで危険な目に合わせてしまって・・・心からお詫び申し上げます」
「そんなっ、頭をお上げくださいシトラス様!謝っていただくことなんてありません!シトラス様は私をすぐに助けてくださいました。本当にありがとうございました!それに・・・ジュディ様に対する毅然としたお言葉、私感動しました」
「いや、あれはそんな大それたことでは・・・」
むしろ早くも私の中で黒歴史になりつつある。
「いいえ!入学式の日に助けていただいた時も今回の時も・・・シトラス様の凛々しいお姿、心から感銘を受けました!こんなことを思うのはおこがましいのでしょうが、私はシトラス様みたいな淑女になりたいです!」
絶世の美少女が頬を微かに高揚させ、こぼれんばかりの瞳を輝かせて微笑みながら私を見つめている。とんでもない可愛さ。国どころか全世界が傾いてしまう。そしてそれほどの表情を向けられているのがこの残念モブ悪役令嬢の私。
ん゛ん゛ん゛〜そっかぁ〜!
私の顔が青褪めているのは言うまでもない。これって何フラグに繋がるのかしら?ヒロインと仲良くしてて破滅不可避になっちゃったりしない?
でもーーーーー
『美少女が友達になりたそうにこちらを見ている
▶︎友達になる
▷お断りする』
「アミルさんもすごく素敵な方だから私こそアミルさんみたいな女性になりたいですわ!よろしければこれからも仲良くしてください!」
「こちらこそぜひよろしくお願いします!」
私達は熱い握手を交わし合った。




