食堂もいいけどお弁当もね!
前回の更新時に『がんばります』発言をしたくせにちょっと展開がまとめられず考えている間にプライベートでも色々あって・・・と、気がつけばこんなに月日が流れてて青ざめてます。
楽しみに待ってくださっていた方々には本当に申し訳ないです。
心よりお詫び申し上げます。
やっとちょっと展開がまとめられたかなと思うので再び筆を取りました。
少しでも楽しんでいただけると幸いです。
どうぞよろしくお願い申し上げます。
鶏もも肉の皮目を下にしてフライパンに置く。ただそれだけなのに手が美しいというだけでこんなにも絵になるものなのか。
そんなふうなことを考えながら眺めているとフィオがフライパンに蓋をしながら不思議そうな表情でこちらを見た。
「何かおかしなところでもあったか?」
「え?あ、うぅん。ただ鶏もも肉フライパンに置いてるだけなのに絵になるなぁと思って見てただけ」
正直に答えたのに解せぬというような顔をされた。解せぬはこちらだ。
「そろそろ焼けるぞ。タレはできたか?」
「もちろんよ!」
私の誠心誠意の回答を珍回答として取り合わないことに決めたらしいフィオの言葉に私は意気揚々と応えた。私だってただぼんやりフィオを鑑賞してたわけじゃない。
フライパンの蓋を開けて鶏もも肉を一度ひっくり返すと醤油、砂糖、すりおろした生姜を混ぜたタレを狐色の焼き目がついた鶏もも肉に回しがけた。じゅじゅじゅわーっと魅惑的な音を立てながらタレが瞬時に沸騰する。タレが少し煮詰まったらごはん泥棒・鶏の照り焼き生姜風味のできあがりだ。
本当はこのままできたて熱々にかぶりついてごはんをかっこみたいところをぐーっと我慢して冷ましてから一口サイズに切り分けた。
それからそばに置いてあった木製の小箱にせっせと詰める。鶏の照り焼き生姜風味の横にはほうれん草・赤パプリカ・黄パプリカの胡麻酢和え、カボチャのマヨネーズサラダ、だし巻き卵を並べた。
そうです!
お弁当を作っているのです!
ダイアモンド国立学園にはそれはそれは立派な食堂がある。種類も味も栄養バランスも量も申し分ないものが用意されているのであるが、和食党の私は時々こうしてお弁当を作って持っていっている。
わかってる。
公爵令嬢らしからぬことは本当に重々わかってる。
でももはやそんなの今更でない?
しかもフィオだって同じお弁当持っていってるんだからもうお弁当もそんな珍しくないんじゃないかしら?
学園内でまだ2人だけだけど。
お弁当を食べる時は校舎裏の庭園にあるガゼボをお借りしている。
同じくお弁当持参のフィオと食べることが多いが、たまにサンドイッチなどをテイクアウトしてくるクロエが一緒になることもある。
ただ今日は2人とも呼び出しを受けたらしいので私1人先にいつものガゼボにやってきた。
ガゼボ内にある椅子に座り、テーブルにお弁当を広げる。自分が作ったものなので『今日は何かな?』的なわくわく感はないけれど、好物ばかり入れているので毎回楽しみでしょうがない。
わっはー!見ただけでよだれがパブロフ級なくらい美味しそう!!
「いただきます!」
なかなか取れない前世の習慣でついつい今世では珍しい挨拶をしつつ、いざ鶏の照り焼きを頬張ろうとした時、ふとガゼボから見える庭園の池に目がいった。
裏というには表顔負けレベルで美しい庭園には四季折々を楽しめる植物の端にこれまた鏡のように綺麗な池があるのだが、そのほとりにアミルが立っていた。
あんなところで1人何しているのかしら?告白のお呼び出しで相手を待っているとか?アミルはめちゃんこ可愛いから告白のお呼び出しは仕方ないだろうけどお昼ごはんはもう食べたのかな?
そういえば先程フィオとクロエがそれぞれ呼び出しを受けていたのも告白だったのかもしれない。
あ、でもクロエは公爵令嬢だから気軽に告白もできないか。
フィオは目立ちたくないから伊達メガネをかけているはずなのに伊達メガネが彼の美貌を隠しきれてないので度々お呼び出しを受けている。全部綺麗さっぱりお断りをしているみたいだけどね。
自作弁当を見つめながら柄にもない色恋沙汰に考えを巡らせる。
つい先日、クロエがフィオに一目惚れしたようだ。特にその後クロエは積極的なアプローチを始めたわけではないけれど、時折フィオを遠目に見る顔が恋する乙女100%。
フィオはそれはもう類い稀なる美形だし、優しいし、頭も良いし、料理の腕も抜群だから惚れたクロエは見る目がありすぎるとしか言えない。
でもーーーーーなんか、ちょっとさみしいような複雑な気持ち
私だって公爵令嬢である以上はいつか誰かと結婚する。いつぞやはリムの力になってくれそうな家の方と婚約するとも言ったし。フィオだって、きっとどこぞの素敵な方と結婚するのだろう。それがクロエなら申し分ない。平民と公爵令嬢という壁があっても2人なら・・・
そこまで考えてやっぱり胸がつかえるような気がしたので考えを掻き消すように頭を振った。
とにもかくにも腹が減っては戦はできぬ!(ちょっと違う)と照り焼きを口に運ぶ。
っんー!やっぱり美味しい・・・!生姜風味の甘辛タレがぷりぷりの鶏もも肉に絡まってごはん欲する!だし巻き卵も安心安定の美味しさだし、ほうれん草・赤パプリカ・黄パプリカの胡麻酢和えもシャキシャキ爽やかだし、カボチャサラダは甘じょっぱくて最高だし・・・できたての味わいとはまた趣向の違う美味しさがお弁当にはあるよね!ビバお弁当⭐︎
お弁当も残すところあと半分という段階になってもアミルは変わらず池のほとりで誰かを待っているようだった。
アミルのお相手まだ来ないな。アミルはおなか空いてないかな大丈夫かな??
アミルの空腹を心配しつつ、よくよく考えたらだいぶ離れているとはいえこのままここで告白現場をお弁当食べながら見るのは大問題だからアミルに気づいた時点でガゼボから離れておくべきだったと後悔していると、アミルに向かって走っていく男性が見えた。
言うてる間にお相手来てもた・・・と思ったが明らかにスピードがおかしい。
あれは恋焦がれる少女の元へ駆けてるというより突っ込んでいくに近い。
ぶつかる・・・!と感じた瞬間私は席を立って走り出した。
「アミルさん!」
私の叫ぶ声にアミルが振り返りかけたその時走ってきた男性が体当たりするようにアミルを突き飛ばした。
アミルの身体が派手な水飛沫を上げて池に沈む。私は無我夢中で池に腕を突っ込みアミルの腕を掴んで引き上げた。
「アミルさん!大丈夫ですか!?」
「だっだいじょ・・・ぶ、です・・・っ」
アミルが何度か咳をして口に入った水を吐きながら答える。
ホッとしたのも束の間、私の背後から甲高い女性の叫ぶ声が響いた。
「シトラス様!何をなさっておいでなのですか!?アミルさんを池に突き落とすなんて!!」
・・・・・はいぃ?




