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悪役令嬢は和食をご所望です  作者: 朝日奈 侑
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乙女ゲームスタートです?

いつも読んでくださっている方、ブックマークや評価をしてくださっている方、本当にありがとうございます!

これからもよろしくお願いします!!

 乙女ゲーム『ラブ・ジュエリー~この恋は永遠に輝く~』では『平民のくせに特進科なんて生意気だ』と悪役令嬢クロエが主人公アミルに突っかかるところをエリク達が助けにやってくるところから始まるのだが、小説『悪役令嬢に転生したけれど、わたしはげんきです』の主人公であるクロエはもちろんそんなことしない。その代わり悪役小物令嬢シトラスがアミルに『あんたのせいで私が特進科に入る枠がなくなったのよ!』と言いがかりをつける。普通に醜い。そこへクロエが止めに入り、クロエとアミルの距離が縮まるきっかけとなる。が、もちろん破滅ノーサンキューな私はそんなこと致しません。となると、物語としてはどうなるんだろう?このまま平和スタートするのだろうか・・・。


 「っきゃあ!」


 突然遠くから悲鳴が聞こえた。声のした方へ顔を向けると、少し先にある広場に座り込んだ女子生徒と彼女に寄り添う女子生徒、そしてその二人の前に立つ男子生徒が見える。離れたままでも聞こえるような声で男子生徒が女子生徒達に怒鳴りつけた。


 「おまえ達平民女のせいで俺が特進科に入り損ねたじゃないか!今すぐ特進科を辞退しろ!」

 「学園の試験によって公正に決められたことです。そんなことできません」

 「うるさい!身分をわきまえろ!」


 いかにもモブというような男子生徒が見ていて恥ずかしいくらい喚き散らしているのに対し、座り込む女子生徒に寄り添いつつ毅然とした態度を貫く女子生徒、アミルを見て私は震えた。


 え、何あれ挿絵で見ていたのより何倍も超絶かわいいんですけど・・・!

 顎のあたりで切り揃えられたミルクティー色のボブヘアはサラサラで、くりっとした大きな瞳は明るいオレンジブラウン。形の良い鼻、イチゴジャムのように艶やかで鮮やかな色の唇、滑らかで白い肌はまるで真珠のようだ。思わず守ってあげたくなるくらいの小柄で華奢、手足はスラリとしていて腰が細い。

 さすが乙女ゲームの主人公、どこからどう見ても完璧にかわいい。いつまででも拝んでいたい。


 「たしかに身分をわきまえて行動すべき時もあると思います。でもそれは、分別ある人間同士による秩序に基づいた言動の話ですよね。か弱く罪のない女性に手をあげるなんて、身分云々以前の、人間として問題です」


 どうやらアミルに寄り添われている女子生徒を男子生徒が突き飛ばして転ばせたようだ。最低の極み。凛々しいアミルに異議なし!


 「な、生意気な平民風情がっ・・・!」


 男子生徒がますます逆上したその時だった。なんとなく予感がして、無意識に私の足が動いていた。男子生徒が腕を大きく振り上げた瞬間、アミル達と男子生徒の間に身体を滑り込ませる。すべてがまるでスローモーションのように感じたけれど、男子生徒の腕は止まらず振り下ろされた。これから来るであろう衝撃に備えて目を瞑る。

 パァン!

 大きな破裂音があたりに鳴り渡る。けれど、予想していた痛みは身体のどこにも感じなかった。ゆっくり目を開けると、男子生徒の制服の背中が見えた。おそるおそる視線を上げるといつかの光景と被る、 太陽光に茶色く透けた黒い髪。そして、耳慣れた声。


 「シトラスに触るな」

 「フィオ・・・」


 フィオが私と男子生徒との間に立ち、男子生徒の腕を払いのけたようだった。


 「誰だおまえは?おまえも平民だろ?俺にこんなことして許されると思ってるのか!?」

 「―――――そこまでだ」


 まるで空気すべてを清浄化するような凛然とした声が響く。吸い寄せられるようにそちらへ顔を向けると、エリク、ステュアート、リム、ライセが立っていた。こんな時にほんと不謹慎で申し訳ないが、攻略対象らしく麗しく育った彼らが並ぶとなんかもうキラッキラしている。眩しすぎる。


 「・・・っ、エリク殿下、これは、その・・・」

 「何も言わなくて良い。ここへ駆けつける途中、すべて見えていた」


 弁解しようとしていた男子生徒はエリクの言葉にびくっと身体を震わせ、押し黙った。エリクは彼に微笑みかけた。いや、正確に表現すると口元には笑みを浮かべているが、その瞳は氷点下を思わせるほど冷たい。


 「君はジャスパー伯爵家のバートン殿だな」

 「は・・・はい、覚えていただけていて光栄です」

 「いかなる理由があろうと無抵抗な女性に手をあげるなど人間の風上に置けない、許されない行為だ。末代まで反省しろ。ステュ」


 エリクが言い終わるや否やステュアートがバートンの身柄を拘束した。どこに隠し持っていたのかご丁寧に縄で手首まで縛っている。


 「令嬢らしくもっと自分を大事にしろと言いたいところだが、格好良かったぜ、シトラス」

 「あいかわらず突拍子もないことするよね。まぁ、あんたらしいけど」


 ステュアートとライセが私にそう声をかけて見苦しくエリクに言い訳を叫ぶバートンを連れていった後、エリクは私達に向き直った。


 「怪我はないか?」

 「私は、大丈夫です。フィオがかばってくれましたから」

 「私も怪我などしておりません」

 「私も大丈夫です」


 エリクの問いに私が答えた後、アミル、アミルが寄り添っていた女子生徒と続く。エリクは満足したように頷いて、改めてフィオを見た。


 「彼女達の助けに入った君がダイアモンド国民であることをとても嬉しく、誇りに思う」

 「・・・もったいないお言葉です」


 エリクとフィオが言葉を交わした後、リムがフィオに歩み寄った。


 「フィオ、シトラスを守ってくれてありがとう」

 「ルベライト公爵家使用人として当然のことをしたまでです」


 フィオの応えにリムは微笑って、今度は私に向き直った。


 「シトラス、本当に大丈夫?心配したよ」

 「ごめんなさいお義兄様、本当に何ともないですから安心してください」


 一連のやりとりの後、ふいにエリクが私の後ろへ視線を向けた。


 「ここは学園だ。最低限の礼節は大事だが、基本的に貴族かどうか関係なく学友なのだから、話しかけるのに許可などいらないぞ」


 エリクの視線を追うように後ろを振り返るとアミル達と目が合った。アミル達が私に向かって一斉に頭を下げる


 「発言をお許しいただき恐れ入ります。アミル・プラシオライトと申します。この度は助けていただき誠にありがとうございました!」

 「リィラ・アイドクレースと申します。助けてくださったこと、心より感謝申し上げます。ありがとうございました!」


 あ、このリィラって子、たしかアミルと同じく平民で特進科だからゲーム上ですぐ友達になってチュートリアルを始めゲームの説明をしてくれたりするサポートキャラだ。

 そんなことを思い出しつつ私は慌てて両手を振った。


 「私は何も・・・結局フィオに助けてもらっちゃったわけだし、お礼は彼にお願いします」


 私の言葉にアミルもリィラも「『何も』なんてとんでもない」と言ってくれた上で、フィオにも重々お礼を述べていた。


 「リィラ、といったかな。怪我はないということだが、突き飛ばされたのであればどこか痛めているかもしれない。念のため医務室に寄ると良い。入学式まで、まだ時間もあるしな」

 「はっはい!」


 エリクにそう促され、事前に学園内の地図を記憶しているというリムの案内でアミルを付き添いにリィラは医務室へと向かっていった。


 「俺もこれで失礼する。入学式まで共に過ごせたら良いのだが、式辞の準備があるんだ。ではシトラス、フィオ、また後でな」


 何気ない会話での笑顔なのにどうしてこういちいちスチルになるだろうレベルなのかと問いただしたくなるほど煌びやかな笑顔で去っていくエリクにフィオと私は頭を下げた。

 しばらくそうしていた後、おずおずと顔を上げてフィオの方を窺うと綺麗な瞳がこちらを見ていた。


 「ご、ごめんねフィオ」

 「・・・本当に目が離せないな」


 そうため息交じりに言って、フィオはお辞儀したため少し頬にかかっていた私の髪を「失礼」と断って優しく直してくれながら付け足した。


 「・・・あんまり危なっかしいことしないでくれ」

 「え、あ、その・・・ごめんなさい」


 突然髪に触れられてびっくりしながら私が再度謝ると、フィオはそのまま入学式会場へと歩き出した。


 「シトラス!大丈夫!?」


 フィオの後ろ姿を見つめているとクロエが心配そうな顔で駆け寄ってくる。


 「突然飛び出していったから驚いたわ。ごめんね、私は何の役にも立たなくてただ見ているだけになってしまって・・・」

 「そんなことないよ!私が勝手に・・・というかなんか無意識に身体が動いちゃってて、私自身信じられないくらいよ。心配かけちゃってごめんね」

 「シトラスが謝ることないわ。とにかく怪我しなくてよかった・・・」

 「ありがとう。フィオのおかげだわ。迷惑かけちゃって申し訳ないことしちゃった」

 「・・・・・フィオくん・・・格好良かったよね」

 「ん?あ、うん、そうね・・・」


 クロエの言葉に相槌を打ちながらクロエの様子を窺うと、クロエの頬がほんのりピンクに染まっていた。綺麗なガーネット色の瞳も、なんだか悩まし気に潤んでいる。

 あれ?ちょっと待って、これって、もしかしてもしかすると・・・・・そういうこと、なの??

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