義兄離れを宣言しておきます
私の家ではほぼ毎日家族とのお茶の時間が設けられている。お茶の時間がないのはお父様が外で仕事をしている日とお母様がご婦人方の茶会に参加したり、自らそういった茶会を主催する日が重なった時くらいだ。
私がティールームへ入るとお父様、お母様、そして義兄リムがそれぞれの席に座っていた。コントラストが控えめな白いストライプ柄の壁には大きな窓がいくつも並び、ペイズリー柄をしたパステルグリーンの絨毯にクリーム色のソファ、花柄が上品に刺繍された白のテーブルクロスがかかったテーブルなどが実に美しいティールームで、私はここがお気に入りだ。
「ここ数日シトラスはとてもおとなしいようだけど、何か悩み事かな?」
お父様が紅茶を飲みながら私に向かって少し首を傾げてみせる。私はかじりついていたクッキーが変なところに入りそうになったがなんとか飲み下した。
「そ、そうでしょうか?ご心配をおかけして申し訳ないです。けれど、特に悩んだりはしておりませんわ、お父様。私はいたって元気です」
ただちょっと中身がアラサーになっただけですわ。
「そうかい?それなら良いのだけれど・・・この前までリムと仲良く遊んでいたのに、今は全然そんな様子じゃないから・・・」
お父様、娘の黒歴史ほじくり返すのやめよう?
『仲良く遊んでいた』んじゃなくて『シトラスが勝手にまとわりついていた』んだよ!
「そ・・・その節はお義兄様にもご迷惑をおかけしましたわ。素敵なお義兄様ができて、ちょっと浮かれてしまって・・・」
過去の行いが恥ずかしいやら気まずいやらだが、謝らないのは良くない。
私は姿勢を正して、隣に座るリムに小さく頭を下げた。
「気にしないで、シトラス。別に迷惑なんかじゃなかったよ」
リムは優しい笑顔と声でそう返してくれた。
ありがとうお義兄ちゃん。たとえ腹の中で『まったくだよこのバカが!』と思われていたって今はその笑顔と言葉を信じてこれから気をつけるね!
「でも今はもう落ち着きましたから、これからはお義兄様にご迷惑をおかけすることのないように致します」
私は声高らかに『義兄離れ』を宣言した。自他ともに認める『義兄離れ』が破滅フラグを立たせない上で重要だと思うのよね。だからお義兄ちゃん、私を投獄とか国外追放とかしないでくださいお願いします。
「そうか。何もないのならよかった。でも、何かあったらいつでも相談するんだよ?」
お父様は納得したように私に微笑みかけ、それからリムに向き直った。
「そういえばリム、先ほど家庭教師からお褒めの言葉があったよ。教える前からすでに色々なことを知っている、とね。私も鼻が高いよ」
「まぁ、それはとても素晴らしいことですわね」
「ありがとうございます」
リムはお父様とお母様の言葉に優等生のような笑顔で応じる。それから三人の会話を聞いていると、リムは書斎にある本を空き時間に読み込んでいるようだった。
すごい勉強熱心。頭が下がるわ。
そうこうしているうちにお茶の時間が終わり、お父様達が席を立つ。
私も席を立とうとしたところでふとあることに気がついた。
リムに淹れられた紅茶やお皿に分けられたクッキーが減っていない。
体調でも悪いのかな?
私はなんとなく気になって部屋を出ていくリムの後を追う。『これからはまとわりついたりしない』と誓ったばっかりやないんかーい!という気がしないでもないが、元気がないのなら気になる。普通に、家族として。まぁただ単に紅茶やクッキーが嫌いなだけかもしれないけど。