いよいよ学園入学です
前回更新ペースが大幅に乱れたことを反省し、お詫びしたにもかかわらず、今回も遅れてしまって猛省しています。楽しみに待っていてくださっている方には本当に申し訳ないことでございます。
これまでと違って区切りの良いところまで書くと長くなるようになってきたため、こまめに分けて更新するか、やはり物語の区切りの良いところで更新するか悩みどころですが、がんばって年内完結を目標に(あくまで目標に)書いていきたいと考えております。
そして誤字脱字報告してくださった方、ありがとうございます!
自分でも気をつけているつもりなのですが、気づかぬまま更新してしまっていることがあるので皆様にご迷惑をおかけしていることもあると思います。
申し訳ございません。
まだまだ未熟者ではございますが、皆様には楽しんで読んでいただければありがたいです。
これからも何卒よろしくお願い申し上げます。
「いよいよ学園生活が始まるのね・・・」
学園の制服に身を包み、私は正門から学園を挑むように見つめた。
クロエとの転生者同盟やエリクの婚約保留など予想外の展開がありつつ、米屋店主のおかげで醤油と味噌を気軽に手に入れられるようになって豚の角煮やらサバの味噌煮やら豚汁やらアジの南蛮漬けやらを堪能しているうちに時は流れてただ今私は十五歳。そして今日、ダイアモンド国立学園へ入学する。
小説の舞台となるダイアモンド国立学園は十六歳となる国民すべてがこの学園に三年通い、卒業する。前世で言う『高校』だ。卒業後は皆それぞれ就職するが、医師や弁護士といった専門性の高い職業に就きたい者は専門職に特化した学園院に進む。
学園には貴族が通う貴族科と平民の通う普通科とがあって、それぞれ成績順でABCと三クラスずつある。そしてその二つの科以外に一クラス分だけ貴族・平民の成績優秀者が混合で集う特進科が設けられている。ちなみに乙女ゲームの主人公であるアミルや攻略対象であるエリク達、小説の主人公であるクロエは特進科で、私は貴族科のAクラス。アミルのせいで自分が特進科に入れなかったと逆恨みする残念な十五歳女子ですた。
ダイアモンド国で十六歳から十八歳となる国民すべてが通うので、分校という形で学園は国内各地に点在している。前世で言うところの〇〇大学□□キャンパスという形に近い。学園に近い者は家から通学し、遠い者は寮に入る。私達が通うのはダイアモンド国立学園中央校で、アミルは寮から通うけど、クロエや攻略対象、私は自宅から通学する。ぬか床や味噌や醤油と遠距離恋愛せずに済んで心底安心したわ。
前世の記憶を思い出してから約八年間、リムにはつきまとっていないし、クロエとも転生者同盟を結んだし、エリクやステュアート、ライセとも深く関わらないようにしてきた。アミルにはまだ出会ってないけどいじめるつもりは毛頭ないし、ケントにも極力接触しないよう心がける予定。破滅フラグを回避して穏便な学園生活を送れる・・・と思う。
「いつまでそうして立っているつもりなんだ?クラス分け、見に行かないのか?」
色々なことに考えを巡らせていると不意に声をかけられた。見ると隣に立っているフィオが怪訝そうな顔をしている。フィオも今日入学するため、同じ屋敷から登校するということで馬車を共にしてきたのだ。ちなみにリムは事前にエリクから呼ばれたため一足早く出発した。同じ馬車で登校できないことをとても残念がっていたけど、リムってそんなに寂しがり屋だったかしら?
「ごめんなさい。ちょっとぼうっとしちゃってたわ。行きましょう」
そう答えて歩き出すとフィオは小さく息をついて私に並んだ。
私が十五歳になったということはもちろんフィオも十五歳。もともと目を見張るような美少年だったが、成長するにつれてますますその美しさに磨きがかかり、色気も増大し、攻略対象にも引けを取らないイケメンとなった。悪役モブ令嬢家の料理人見習いという立場に納まっているのが不思議でならない。今日も今日とて他の男子生徒と同じ制服に身を包んでいるはずなのにオーラが格段に違う気がする。身内の贔屓目なだけかしら?そんなことないはずだけど。しかもなぜか学園に入学する今日から黒い太ぶち眼鏡をかけているのがなんというかんん゛、たまりませんね大好物です。
「ところでフィオ、とっても似合っているけど、どうして今日から眼鏡なの?」
「できるだけ地味に静かに学園生活を送りたいから、その印象作り」
「えぇ?そうなの?なにそれ・・・」
眼鏡大好き党の私としては逆に目立ってしまうんじゃないかと思うんだけどな。しかもなんだか変な理由。まぁ良いけどさ。
「そういえばフィオって学校行っている様子なかったけど、今までどうしてたの?」
「ジル料理長が教えてくれてた。ジル料理長は教師の資格も持っているし、ご主人様・・・シトラスのお父様もそれで良いだろうと判断されたんだ」
「そうなんだ」
ずいぶん今更感のある私の疑問にも嫌な顔一つせず淡々と答えてくれるフィオはあいかわらず大人びていて尊敬する。中身がアラサー・・・もうアラフォーかな?の私が幼く思える。解せぬ。
大きな掲示板にクラス分けが張り出されている。私は見なくても貴族科Aクラスだとわかっているのでフィオの名前を一緒に探すことにした。フィオは普通科Aクラスから、私は普通科Cクラスから確認していく。二人ともBクラスまでを見終わったところで私達は首を傾げた。フィオの名前がどこにもない。え、ということは・・・と特進科クラスの名簿を見るとそこにフィオの名前があった。
「フィオ、あなた特進科なの!?」
「・・・みたいだな」
「すっごいわねぇ」
出会った時から大人っぽくて頭良いなぁとは思っていたけど、まさかここまでとは。特進科は成績重視で貴族・平民混合とはいえ、やはり平民の割合が少ないのは事実だ。なので、平民で特進科に入れる生徒はよほど優秀と言える。
「感心してくれるのは良いけど、シトラスも特進科じゃないか?」
「え?」
フィオに言われて慌てて特進科名簿を確認するとたしかに私の名前があった。
な、なにゆえー!?
貴族科Aクラスだと信じ込んでいた私は目が飛び出るくらい驚いた。いくら中身がアラサーで前世で学んだ知識がちょびっとあるとはいえこんな・・・と考えてふと理由に思い当たった。あーそういえばここ一年くらい『母親が厳しいから』と特進科を狙うクロエの勉強に付き合ったり、リムに誘われて書斎で一緒に勉強したりしたな。えーでも貴族科Aクラスだったらアミルや攻略対象とも関わらずに済むと安心してたんだけどなぁ。どうしたものか。
「とりあえず入学式会場まで行くか」
「そ、そうね」
フィオに促され会場へ向かおうとすると遠くから名前を呼ばれた。
「シトラス」
振り向くとクロエがこちらへ歩いてきている。クロエの姿を見るとフィオは「俺は先に行ってる」と小さく耳打ちして行ってしまった。
「いよいよゲームスタートね」
クロエは笑顔だが、どことなく緊張の色が漂っている。大丈夫よクロエ、あなたのその素敵な人柄でリア充生活が待っているだけだからと言いそうになるのをなんとか堪えた。
「ところでシトラス、さっき話していた人は知り合い?」
「うん、うちの料理人見習いをしているフィオ。まだ見習い扱いだけど、腕はもう立派なプロよ」
「ふーん。眼鏡で目元よく見えなかったけど、なんだかイケメンな匂いがしたわ」
「そうなの。攻略対象並みの美形で初めて会った時驚いたわ。・・・まさか隠しキャラとかじゃないよね?」
「私隠しキャラのケントも含めてゲームの隅から隅までやり尽くしたけど、あんなキャラいなかったと思うわ。私が転生した後に続編や新キャラ追加とかあったのならわからないけど」
たしかに小説『悪役令嬢に転生したけれど、わたしはげんきです』も一度完結し、番外編も書かれてはいたが、フィオというキャラは出てきていなかった。私が転生した後で続編が出ていたとしてもとりあえず第一章が終わらないことには追加キャラも何もないだろうから、少なくともその間はアミル、クロエ、エリク、リム、ステュアート、ライセ、ケント以外は深く考えなくても良さそうだ。
「ところでシトラス、そろそろオープニングイベントのはずよね?私、主人公をいじめる気なんてこれっぽっちもないんだけど、どうなるのかしら?ゲーム補正働いちゃったらどうしよう・・・もしそうなったら乗り切れると思う?」
そうだった。この後、いよいよアミルの登場だ・・・!




