未来の宰相様と対談です
今回は長いです。
いつも読んでくださっている方、ブックマークや評価をしてくださっている方、素敵な感想をくださった方、皆様ありがとうございます!
自分なりに精一杯がんばっているつもりなのですが、『皆様に楽しく読んでいただけているのかな・・・?』とびくびくしているチキンハートな今日この頃です笑
がんばって書いていく所存ですので、どうぞこれからもよろしくお願いします!!
フィクションご都合主義なのか、もともとこの世界の住民には最低限の一般教養が身についている。前世で読みまくっていた悪役令嬢転生ものの中には平民は字が読めない書けないとされているものもあったが、小説『悪役令嬢に転生したけれど、わたしはげんきです』ではそんなことはない。昔から週に一度教会などで授業が行われていたかららしい。
けれど、ここ十五年ほどでダイアモンド国民の教育水準が格段に上がった。というのも平民の教育制度の見直しが行われ、平民は五歳になる年から十五歳になる年まで週五日学校に通うことが義務づけられたからだ。あ、もちろん貴族はもともと学校ではなく家庭教師が義務です。そして貴族も平民も十六歳になる年全員がダイアモンド国立学園へ入学し、三年間勉学に励む。
平民の教育制度見直しのおかげで平民は学園でこれまでよりさらにレベルの高い教育を受けることができ、結果として優秀な学園卒業生がもたらす利益で国はますます発展していく。そしてこの教育制度を弱冠十八歳で立案し、学園を卒業してから四年後の二十二歳で宰相試験を突破するという最年少記録を叩き出した上で案を実現するところまでやってみせたのがヒューゴ・スピネル宰相だ。彼がダイアモンド国史上最も優秀な宰相だと言われる理由はここにある。
そんなヒューゴ様だから仕事がたくさん舞い込むのだろう。もちろんその手腕でスピーディーに捌いているのだろうが、それでも家に帰ってゆっくり家族と食事をともにする余裕がないほどの仕事量が任されているということか。どんだけ社畜やねん。あな恐ろしや。
「ヒューゴ様が優秀でいらっしゃるのは存じていましたが、そこまでご多忙でおられるとは思ってもいませんでした。すごいですね」
「まぁ宰相としては申し分ないだろうね。でも家長としてはどうかな。もしかしたら自分に家族がいるってことも忘れてるんじゃない?だったら結婚なんてしないで自分のすべてを国へ捧げることに専念したらよかったんだよ。ただでさえ母は寂しい思いをしているのに『夫婦仲が悪い』『事実上捨てられた』とかウワサされて、迷惑この上ない」
日頃から鬱憤が溜まっていたのか普段は言葉数少ないライセにしては珍しくよくしゃべる。そうか、たしか彼は優秀すぎる父が家族を顧みない姿に劣等感と嫌悪感を抱いている設定だったな。
人はそれぞれだ。自分の在り方、物事へ取り組む姿勢、人との距離、譲れないもの・・・よほど他人に迷惑をかけていない限り誰かにとやかく言われたいものではない。彼の家庭環境も、私が口出したり何か働きかけようとするのは大きなお世話でしかない。もっとも、何かできるほどの力もないけど。
「せめて、食事をしながらゆっくり話せる機会があれば良いですね」
当たり障りのない相槌として私が言ったことに、ライセは眉間に皺を寄せた。
「別に必要ないよ。今更食事をともにしたところで話すことなんて何もない。気詰まりばかりの食事なんてごめんだ」
うーん、思ったより拗れててめんどくさいことになってるんだな。
私が困ったように微笑うのを見て、ライセはハッとしたような顔になった。
「・・・っごめん、聞いてて気持ちの良い話じゃなかったね」
「え?あ、そんな、お気になさらず・・・」
私が否定すると、ライセは小さく苦笑した。
「・・・実は今日ここへ来る時父と回廊ですれ違ったんだけど、その時碌な挨拶もなくてあまりにもあっさりすれ違っただけだったからちょっとイラっとして・・・なんて、言い訳は見苦しいな。とにかくシトラスの気分を害したことは謝るよ。ごめん」
ライセはそう言って小さく頭を下げた。私は慌てて彼に頭を上げてもらいながら 「気分を害したなんてことはありませんから本当にお気になさらないでください」と言った。
「むしろライセ様がお話しされることで少しでもご気分が軽くなられたのでしたらよかったです」
「・・・たしかに、誰かに聞いてもらうとちょっとはスッキリするもんだね」
「そうですよ。溜めこむのは良くないです」
ライセの言葉に私が笑顔で応じると、彼はポツリと呟いた。
「・・・きっと母も色々溜めこんでいるんだろうな。俺には言わないだけで。ほんと、『いい加減家に帰ってきて母と話す時間を持て』って言ってやりたいよ」
さっきは『今更食事なんて』とか言ってたけど、やっぱりライセもこの状況をどうにかしたいんだなぁ。本当は色々話したいことがあるんだよね、きっと。でも彼は賢いが故に行動する前からあれこれ考えすぎちゃって動けないんだろう。貴族だと家族であっても礼節とか厳しいからなおさら気軽に何でもってわけにはいかないし。でも、行動したい気持ちがあるなら、挑戦してみても良い気がする。
そこで私はあっけらかんと言い切った。
「言ったら良いじゃないですか」
「は?言えるわけないだろっ?」
私の一言にライセが驚いて声を上げる。驚きつつも王宮書庫であることを忘れず、声を抑えめにしている気遣いはさすがだ。本当に十歳か。
「どうしてですか?そりゃ言い方は考えなければいけないと思いますが、別に『たまには家族でゆっくり話しませんか?』ってことですよね?言えない要素がどこに?」
「あの人にそんな意見するだなんて・・・だいたい忙しいから帰ってこられないんだよ?ただでさえ俺のこと『不出来な息子』と思っているのに、それをそんなワガママ言ったらもっと見放されるだろ」
「ライセ様が不出来な息子?ヒューゴ様がそのように仰ったのですか?」
それはさすがにひどくないか。だって彼が不出来とか言われたら私は何だ?出がらしかな?
「え?いや、実際言われたことはないけど・・・でももし期待している息子ならもっと色々教えてくれたりするだろ。国家機密は教えられないにしても投資先の見極め方とか他国との交渉術とか・・・リムだってネクター公爵の視察について行ったりしているわけだし」
あ、なんだ、そういうこと。
「たしかにそうかもしれませんが、でもライセ様はまだ将来宰相になるって決めているわけではないですよね?義兄は将来ルベライト家を継ぐと決まっているので父も今から色々教えているようですが・・・」
「それは、そうだけど・・・」
「それなら、もしかしたらヒューゴ様はライセ様に『将来宰相にならなければいけない』と思わせないようにしているのかもしれません。ライセ様が将来宰相になるとご自身でお決めになられたら色々ご教授くださるのでは?」
「何それ?俺が自分の将来を自分で好きに決められるようにってこと?貴族に生まれてそんな甘いこと言う奴いる?貴族の子供は家の繁栄のため親の言う通りにするのがあたりまえなこの世の中で?」
「それはヒューゴ様に直接胸の内をお聞きしてみないと断言はできませんが・・・」
「ほら、シトラスだってわからないんじゃ・・・」
「でも、ライセ様もですよね?」
「え?」
私の切り返しにライセが大きく目を見開く。
「ヒューゴ様がライセ様に何も教えてくださらない理由も、ライセ様を不出来だと思っているのかどうかも、『家族でゆっくりお話を』というお誘いにヒューゴ様がどう応じられるかも、わからないのはライセ様だって一緒でしょう?」
「それは・・・」
ライセは戸惑いを隠せないまま言葉を口にしようとして、途中で噤んだ。私は宥めるようにできるだけ優しく話を続ける。
「お気持ちがあるなら、一度お声かけしてみるのもよろしいのではないでしょうか。お話を聞く限りヒューゴ様は明らかに働きすぎですから、休んでいただく良いきっかけにもなると思います」
「・・・やってみて事態が悪化したらどうすんの?」
ライセは視線を落としながら小さな声で問いかけてきた。私はにこりと笑ってさらりと答える。
「その時考えます」
「はぁ!?」
予想外の答えにライセは勢いよく顔を上げて私を見た。『こんなに感情豊かなライセはなんだかちょっと貴重だな』と思いつつ私は続きを話す。
「だってどう悪化するかによって打つ手は異なりますから行動する前から悩んでも仕方ないかなと・・・」
「ずいぶん能天気で楽観的で無責任じゃない?」
「もちろん絶対悪化するってわかっていたら行動しないですよ?好転するか悪化するかちゃんと事前に考えますけど・・・もし私がライセ様の立場だったら、今回は行動すると思います。なんとなく大丈夫な予感がしますし」
「なんとなく大丈夫な予感って・・・」
「まぁこれはあくまでおせっかいな私個人の意見ですから、最終的にどうなさるかはライセ様のお気持ち次第かと。もうすっぱり諦めちゃうっていう方法もありますよ。そうすればもうイライラなさる必要がなくなりますし」
「う・・・」
そこで押し黙って俯いたライセを見て、私はふと我に返った。
や、や、や、やってしまった―――――!!
なんか、ちょっと背中押すだけのつもりが無意識のうちに熱が入ってかなり言いすぎてしまった!石橋叩いて渡ろうとしている人を無遠慮に突き飛ばして顔面から転ばせた上に勢い余ってそのままスライディングさせたみたいになってない!?ごごごごごめんなさい!頭脳明晰とはいえまだ十歳の子相手に私はなんてこと・・・!
「ラ、ライセ様、すみません、私ちょっとつい力みすぎちゃっ・・・」
「シトラスの言う通りだ」
急転直下で青褪めて謝ろうとする私に気づかず、ライセは言った。
「状況を変えたがっているくせに、相手に変えてもらうことばかり望んで、変えてもらえないことに不満ばかり溜めるなんて自分勝手だよね」
私が自分の大人げなさにちょっと泣きそうになっていると、ライセはゆっくり顔を上げて目線を合わせてきた。何か少し吹っ切れたのか、ちょっと微笑っている。
「今度、話してみる・・・よ。ただ、情けない話だけど、どうすれば良いのか全然思いつかないから・・・ちょっと相談乗ってくれる?」
「っもちろん!私でお役に立てるのであれば」
ライセの申し出を私は一も二もなく請け負った。これで先ほどの罪を少しでも償いたいと思います!
「直接会って話したいけど、あの人本当に帰ってこないからな。次に帰ってくる時まで待つしかないか・・・?」
「ヒューゴ様が帰ってこられないなら、ライセ様達が王城へ会いに来られるのはいかがでしょう?」
「できなくはないけど、忙しい仕事中に会いに来られても迷惑なだけじゃない?」
「それは、そうですけど・・・」
家に帰らないのはおそらく往復時間さえも仕事に充てないといけないからだ。それならライセ達が王城へ訪ねれば、会う時間を捻出しやすくなるかと思ったけれど、たしかにそれほどまで多忙なのに会いに来られても困るよね。んーでも家に帰ってきてくれるよう何か策を講じる?奥様の体調不良とかライセの家出とか?ダメだ。絶対バレるし、バレた後心象悪くなってもっと拗れる。となるとやっぱり王城で会う時間を作る方が・・・でも仕事中・・・・・。
皆無に近い知恵を絞ってぐるぐる考えていたその時私の頭に名案が浮かんだ。
冬、家族、団欒・・・と言えばあれしかない!
「ライセ様!こういうのはいかがでしょう?」




