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悪役令嬢は和食をご所望です  作者: 朝日奈 侑
35/47

王宮書庫にて一年を振り返ってます

今回はものすごく長くなりそうだったので、途中で切りました。

少し不自然な終わり方かもしれませんが、絶賛次回へ続きます。



いつも読んでくださっている方、ブックマークしてくださっている方、評価してくださった方、感想くださった方・・・皆様ありがとうございます!

がんばってますので、よろしくお願いします!

 前回は味噌と醤油の完成に胸がいっぱいすぎて忘れてたけど、味噌と醤油を作ることに没頭していた一年の間色々なことがあった。



 転生者同盟締結後、クロエと私は時々お互いの家でお茶をしては情報共有しつつ普通に気の置けない友人として交流を深めている。リムがクロエに好意を抱くと私が破滅する可能性が高まってしまうからあまり接触しないでほしいとお願いしたらクロエは快諾してくれた。「シトラスがそう言うなら近づかないようにするわ。でもリムが私を好きになるっていう設定なんてないから心配しなくても大丈夫だとは思うんだけど・・・」と首を傾げていたけれど、それはゲームの話だからね。クロエは小説で愛され主人公だから、油断は禁物よ。

 ちなみにクロエの前世での推しはエリクらしい。破滅したくないから今世では遠目に観賞するだけにしとくんだとか。小説通りに進めば両想いになるんだけどね。私は横でその過程を見ながらにやにやしとくよ。



 フィオの誕生日にはフィオの瞳の色と同じ石がついたスプーンをあげた。普段の食事にはもちろん、調理中の味見などにも使っているので一応気に入ってくれているのだろう。よかった。



 私の誕生日、リムからはルビー国の食文化についての本と美しい刺繍のハンカチをもらった。せっかくもらったのでルビー国の食文化についての本を読んでみたら、ルビー国はどうやらカレーなどが有名な国らしい。前世でいうところのインドっぽいな。ところで特に否定はしませんが、食文化の本ばっかりもらってるのは食いしん坊だと思われているからかな?まぁそうだけど。そうなんだけど!

 フィオからはレモンクリーム色のエプロンをもらった。すごく嬉しかったけど、くれた本人からは『プレゼントしといて言うのも変だけど、なかなかエプロンをもらう令嬢もいないよな』と言われた。たしかに。

 ちなみにクロエもプレゼントに普段使い用のストールをくれた。ミモザのような黄色の生地にコーラル色とオフホワイトの上品なチェック柄だ。可愛い。でも私はクロエの誕生日何もあげてないのに申し訳ない。次のクロエの誕生日には二年分あげよう。



 十歳になるエリクを祝う舞踏会はクロエとともに極力壁の花となってやり過ごした。下心がないにしても家に来たり市場へ行ったりと個人的に交流したことが公になると他の令嬢達からやっかまれるだろうと気を遣ってくれたのか、エリク達も不必要に話しかけてはこなかった。空気読める子は好きですよ。



 舞踏会から二ヶ月後、クロエがエリクの婚約者に選ばれ・・・るはずだった。けれど、エリクはどうやって関係者を説得したのか不明だが、『婚約者は学園卒業時に決める。それまでは将来立派な王となるべく精進したい』と声明を発表した。もともとこの世界は他の悪役令嬢転生ものに比べると貴族の令息令嬢が婚約者を決めるのはほとんどが十五歳から二十歳の間と、少し遅めだ。結婚も成人年齢二十歳以降じゃないとできない。十歳で婚約者を決める王子王女が特例と言える。けれどエリクが学園卒業時、つまり十八歳の時、場合によっては十九歳の時に婚約者を決めるとなると他の令息令嬢の平均婚約年齢も上がりそうだな。令息はともかく、令嬢はエリクの婚約者になれる一縷の望みを捨てたくないもんね。

 とりあえず当面エリクとの婚約の心配がなくなったクロエはすごく喜んでいた。よかったね。



 リムの十歳の誕生日にはリムの瞳と同じ色の万年筆をあげた。数のうちの一つとして使ってもらえればと思ったが、常に愛用してくれているようだ。気に入ってもらえたのなら何より。



 秋の収穫祭(フェルフィーユ)の日、再びエリク達からお忍びのお誘いがあった。今年はフィオも一緒にと思ったけど、「王子が来るのなら遠慮しとく」とフィオは来なかった。たしかに王子と会うのは貴族でも緊張するのだから、平民だとなおさらだろう。無理強いはできないので結局前回と同じ面子で楽しんだ。フィオにはおみやげにカボチャクリームパンとマロンクリームパンを買って帰った。



 つい先日あったクロエの誕生日には二年分としてコサージュと髪飾りをプレゼントした。本当はクロエも瞳と同じ色のものをあげたかったんだけど、舞踏会でミルキーピンクのドレスを着ていた彼女が「ガーネット色も嫌いじゃないけど、あんまり悪役令嬢らしい色合いの服装も微妙かなと思って。それに本当は淡い色の方が好みなんだよね。この悪役顔にはあんまり似合わないのはわかってるんだけどさ」と言っていたので淡いアイリス色のものを選んだ。すっごく喜んでくれて、この色に合うドレスを新調するとまで言っていた。それって良いの?なんか逆に申し訳ない展開にしてしまった。



 『思い返すと色々あったなぁ』と考えながら私は色とりどりの背表紙が並ぶ本棚の間をゆっくり歩いていた。

 私は今、お父様に連れられて王宮書庫に来ている。仕事で必要な資料を探しに王宮書庫へ訪れようとしたお父様は読書好きのリムに「一緒に来るかい?」と声をかけ、リムが私も誘ったからだ。私はリムほど読書好きというわけではないけど、前世から本を読むことはそこそこ好きだし、王宮書庫なんてそうそう滅多に行けるところでもないのでお言葉に甘えてついてきてみたのだ。

 しかしさすが王宮書庫。なかなかに広いうちの書斎が犬小屋に思えるほどの敷地面積だ。これ、もう遭難できるレベルなんじゃないかしら。


 王宮書庫へ来て仕事の資料を見るお父様の傍でリムと私が本を読んでいると官僚らしき男性がお父様に声をかけてきた。どうやら宰相がお呼びらしい。「すぐ戻るから、良い子で待っていてくれるかい?」とお父様は席を外した。『子供だけを置いていくなんて』と思われるかもしれないが、王宮書庫は限られた人物しか利用できない上に入退室の際出入口にて警備をする騎士の持つ『入退室者管理表』に名前と入退室時刻を記入しないといけないから書庫内の安全性はお墨付きなので安心なのよね。

 そして今、なんとなく手に取った本が難しすぎたのでリムに一言断って本を元の場所に返しに来がてら散策しているというわけだ。


 「シトラス?」


 ふいに名前を呼ばれ、振り向くとそこにはライセが立っていた。ライセと会うのは二回の秋の収穫祭(フェルフィーユ)と舞踏会を併せてこれで四度目だ。仮装も正装もしていないライセは白い開襟シャツにグレーのカーディガン、深い紺色で上品なストライプ柄のパンツ、髪と同じダークチョコレート色の革靴を身につけている。個人的には黒縁眼鏡をかけていてほしかったが、あれは仮装兼変装用なので今はない。残念。まぁ見ていて大満足な美少年であることには変わりないんですけどね。手には『行動経済学理論』というタイトルの書かれた分厚い本がある。末恐ろしい十歳児がいたもんだ。

 ライセの提案で私達は話し声が誰かの邪魔にならないよう王宮書庫内の談話室へ移動した。ガラス張りの小さな部屋で、今は私達の他に誰もいない。


 「お久しぶりですライセ様。秋の収穫祭(フェルフィーユ)の日以来ですね」

 「そうだね。シトラスも本を読みに来たの?」

 「父と義兄の付き添いです。ここにある本は私には難しすぎますわ」

 「まぁ王城に勤める人達が使う書庫だからね。シトラスもあと五年くらいしたら簡単に読めるんじゃない?」


 二十年後でも簡単に読める自信ないわ。


 「ライセ様はこちらにはよくいらっしゃるのですか?」

 「まぁまぁかな」

 「ヒューゴ様が宰相としてお勤めですものね。ヒューゴ様と一緒に来られたりなさるんですか?」

 「なんで俺が家に帰ってこないあの人と一緒に来るんだよ」


 え、家に帰ってこない?きょとんとする私にライセが説明してくれたところによると、ヒューゴ様は仕事が忙しく、一年に数度、立ち寄る程度にしか家に帰ってこないらしい。『もしかして夫婦仲が悪くなり、よそに愛人でも・・・』と勘繰りそうになるが、王城内にある宰相の執務室には寝室や浴室などが備え付けてあるようで、基本的に仕事以外で執務室から出てくることはないようだ。ライセの親だけあってその姿は美しく、既婚であるにもかかわらず言い寄る女性も多いそうだが、面倒事を避けるため仕事の用事であっても年齢問わず女性と部屋で二人きりになることはしないほどの徹底ぶりらしい。


 「まぁ、ヒューゴ様はとんでもなくお忙しいのですね。でもさすがに冬の聖夜(スノーウェル)にはご自宅でライセ様達とお過ごしになるのでしょう?」


 冬の聖夜(スノーウェル)とは前世でいうところのクリスマスだ。サンタクロースからプレゼントをもらうことはないが、モミの木にオーナメントを飾ったり家族でごちそうを食べたりプレゼントを交換したりする。この世界では家族で過ごすことを一番大切にする日でもある。

 私の質問にライセは嫌悪感も顕わに答えた。


 「あの人は何より仕事が大事だからね。冬の聖夜(スノーウェル)はおろか、母の誕生日も俺の誕生日も一緒に過ごしたことないよ」 


 ・・・え、これ、私なんかちょっと地雷踏み抜いた、のかな?

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