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悪役令嬢は和食をご所望です  作者: 朝日奈 侑
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おぼろ豆腐はぷるぷるで最高です

 翌々日、注文した大量の大豆が届き、私は厨房で意気込んでいた。『さっそく醤油作りだ!』といきたいところだが、ヒスイ国の食文化の本を読むに、醤油作りにしても味噌作りにしても種麹というものが必要であり、この種麹を作るのがとてつもなく難しいらしい。醤油や味噌を作っている業者も種麹はわざわざ種麹専用業者から買って作っているそうなのだ。前世ではあたりまえのようにスーパーなどに並んでいて、家に常備して気軽に使っていた醤油や味噌がこんなにも手間暇や技術を必要とするなんて・・・前世の私のなんて恵まれていたことか。

 種麹を成功するまでチャレンジし続けるか、ヒスイ国へ行ける歳になった時買ってくるか、それとも年に一度ヒスイ国へ行くという米屋の店主にお願いして買ってきてもらうかを本気で考えないといけないな。しかし、豆腐や豆乳、おからは今の私でもできそうだ。

 というわけで、おぼろ豆腐を作りたいと思います!


 まずは乾燥した大豆をよく洗った後、一晩大きなボウルの中で水に浸け置く。

 次に豆腐に必要なにがり作りだ。この日のために海水魚を取り扱う魚屋の店主に頼んで綺麗な海水を少し取ってきてもらっていた。これを少し煮詰めればにがりができるらしい。もし失敗しても卵の殻をお酢につけて常温で二、三日放置すればにがりの代用品ができるとのことなので、とりあえず安心して海水からのにがり作りに挑んでみようと思う。

 念のため布巾で濾しながら大きな鍋に海水を入れる。あとはこれが十分の一の量になるまで強火で煮詰めていく。煮詰めたものを布巾で再度濾すと塩とにがりに分けられるのだ。


 にがりができたところで一晩水に浸けておいた大豆の柔らかさを指で確認する。納得のいく柔らかさになっているのであとはこれをフードプロセッサー・・・はないので大きなボウルにザルを重ねてなんちゃってすり鉢を作り、その中に大豆を入れて麺棒や泡立て器を駆使してひたすらすり潰す。かなり根気のいる作業だったが、フィオとジル料理長が交代で手伝ってくれた。やっとの思いで大豆を綺麗にすり潰し終える。あ、あ、腕がプルプルする。ちなみにこの状態の大豆を生呉(なまご)というそうだ。

 それから大きなお鍋に水を沸かし、その中に生呉を入れた。混ぜながら煮込んで、表面に浮いてきた小さな泡をすくって捨てる。煮込んだ生呉を布巾で濾すと豆乳とおからの完成だ。おからは醤油がないのでおからクッキーとかにしてみようかなと考えつつ、できた豆乳をカップで量り鍋に入れる。温めた豆乳ににがりを入れながらゆっくりかき混ぜると少し固まってきたのでコンロの火を止めて蓋をした。十五分ほど置いておいたところでドキドキしながら蓋を開けると乳白色で滑らかな表面が見えた。


 「や・・・やったー!豆腐できたー!!」


 嬉しくて私は人目も憚らず歓声を上げた。その隣でフィオとジル料理長が鍋の中をしげしげと眺めている。


 「今回はずいぶんと手の込んだ料理だったな」

 「そうだね。手伝ってくれて本当にありがとう!」

 「これは・・・豆で作ったプリン?ということでしょうか?」

 「食感は似たようなものかもしれません。ささ!熱々とろとろプルプルの今が大事なので早く食べましょう『おぼろ豆腐』!」


 興奮冷めやらぬまま私は大きなスプーンで豆腐をすくって小さな深皿に入れる。その上から醤油・・・といきたいけど、ないので塩をパラパラとかけた。


 「いただきます!」


 はむっと豆腐の乗ったスプーンを口に入れるとその瞬間熱々豆腐がぷるふわとろりと溶ける。同時に濃厚な大豆の味がちょっと塩をかけたおかげで甘みも増して口の中いっぱいに広がった。お、お、お、美味しいー・・・!


 「これ、豆の味をすごく感じるな。素材本来のうまみを活かしているからか、濃厚なのに素朴で柔らかい味だ」

 「まろやかで美味しいです。ふわふわ・・・とろとろ?表現するのが難しいですが、食感も良いですね」

 「今ここにはないですが、醤油という調味料をかけて食べたら抜群に美味しいですよ」

 「?シトラス、以前にも食べたことがあるのか?」

 「・・・と、本に書かれてたの」


 豆腐との再会が嬉しすぎて思わず発言をうっかりしてしまった。いけないいけない。


 「シトラス、ちょっと試してみたいことがあるんだが、これおかわりしていいか?」

 「うん、もちろん」


 フィオは自分の深皿に豆腐を乗せた後、小さなフライパンにごま油と塩胡椒、細かく刻んだネギを入れて軽く熱し、できたものを豆腐にかけた。


 「うん、いけるな」


 一口食べて納得したように頷くと、フィオは私にフライパンを指し示した。


 「醤油の足元にも及ばないだろうが、味を変えて楽しむには悪くないと思う。良ければ試してみてくれ」


 え、ていうか、それ所謂ネギ塩だれですよね絶対美味しいやつですよねむしろ与えてくださいお願いします・・・!


 私はフィオの天才的な食のセンスに恐れ戦きつつネギ塩だれを賜り、その美味しさに悶絶した。

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